▼▼フレーバー
スカイ・アルファ・クロラ。
現皇国で、唯一「アルファ」の名前を持った平民である。
皇国では身分階級制があり、そのトップが皇族。続いて貴族となっているが、その身分階級以外の全てにおいて優れているのが「アルファ」である。
「アルファ」とは、掛け合わせによって貴族たちに濃くなった魔法能力などに起因する特殊能力が、突然変異的に生まれながらに高く、人の何倍もの力を有することができる存在である。そのため、例外的に平民の身分で学園に籍を置き、将来的には貴族の地位や仕事が与えられ、能力如何によっては一足飛びにその地位は王に次ぐものになることもある大変珍しい血なのである。
しかし、それ故に、伝統と文化と保身を大事にする貴族たちに恨まれやすく、「スカイ・アルファ・クロラ」もまた、幼い時に妹を残して父母とともこの世を去っているはず、だった。
あれだけ攻略本を読み込んでいた私でなければ、すぐに思い出せなかっただろう設定である。
「ごめんねぇ、ミカ、もうちょいで来るから。オレンジティーでも飲んで待ってて。」
考えに耽っている間にその長い腕を横からすいっと回してドアを閉められた。
いつの間に用意したのか、奥からコトコトと沸騰するポットを持ってきてソファセットに腰掛けるよう勧められる。
無礼にならないよう優雅にそれに応えながら、学校から持ってきた数枚の書類の入った封筒を机に置いた。
「ありがとうございます。今日はミカさんに明日提出の書類を持ってお邪魔しました。」
「あー、そっかあ。ミカ、ホームルームも出ずに帰っちゃったのか…」
「え、ミカさん、今日は学校へ一度いらっしゃってたんですか?」
てっきり体調不良か何かでの最初からの欠席かと思えば何かあったらしい。
「今朝、どうやらね。母親が入れてくれた刺繍の入ったハンカチを落としたらしいんだけど、そこでいじめられちゃったんだって。平民のくせに〜って。まぁ、珍しいからね。」
あっけらかんといじめられた事実を公表するが、瞳の奥は暗く歪んでいた。
しかし、おかしい。ゲームではそこにエイベル・ディオンが颯爽と現れ、助けてくれるはずなのである。そこでお互いに意識し、その後入学式の壇上に立つエイベル・ディオンにキュンとし、クラスで机を並べ学んでいく中で愛を育むのだ。そんな胸キュンストーリーの始まりのはずなのに、なぜ蹴躓いているのか。
「…お待たせしました。」
?を盛大に飛ばしていると、目の端を赤くした美女が黒い雲を背負って二階から降りてきた。
「初めまして、アリシア・ローランです。あなたのクラスメイトで隣の席よ。」
「あえ、女神がいる…」
呟くと同時にミカ(推定)は顔をボボボッと赤くさせた。
「いえ、あの、申し訳ありません!アリシア様!」
「落ち着こうねぇ、ミカ。」
ワタワタとする妹を放って、三人分のオレンジティーをスカイが淹れてくれた。
隣に座るとわかるが、2人並ぶと迫力がすごい。美の暴力を感じる。
「それで、先程の話、気になってしまったのですが、いじめが発生した時、誰も止めに入らなかったのですか?」
語気が強くなってしまったかもしれない。ミカが俯いた。
「はい…」
「ごめんなさい、ミカさんを責めているわけではないの。ただ、誰が見過ごしても、私の知るあの人が無視するだなんて思いたくなくて…少し残念で。」
エイベル・ディオンはそんな人ではないと思っていたのに。
「校門を潜った時にハンカチを落としました。そのあとすぐ、誰かにハンカチを踏まれて、肩を突き飛ばされました。…社交界には伝手がないので、誰がやったのかはわかりませんが、その時通っていた人はみんなしらっとした顔で通り過ぎていきました。」
ほとほとっと涙が白い頬を伝う。
「もう…がくえんに、いきたくありません。」
ひくっと喉が鳴った瞬間にスカイがミカをその大きな腕で包んだ。
「というわけなんで、せっかく持ってきてくれた明日の書類、必要なくなっちゃったんだよね。」
「…兄さん?」
「学園なんて、行きたくなければ行かなきゃいい。僕だって行ってないけど
立派に生きてる。」
その言葉に衝撃を受けた。
彼はアルファだ。
望めば王以外のどんな地位だって手に入る彼が学園に行っていないとはどういうことなのだろうか。
「行きたくない、行きたくないけど、行くの〜」
幼児のような理屈を捏ねてミカはぐずついている。
「ありゃリャ、こりゃもう寝ちゃうね。よしよし、寝な。」
すいっと上がった右手がミカの目元を撫でると、次の瞬間には寝息に変わっていた。
「と、どうやらうちの頑固な姫は明日も特攻するみたいなんで、その書類、やっぱいるね。」
よっこいしょ、と声を出してさして重くもなさそうに妹を姫抱きにすると、二階へと続く廊下へ向かった。
「察しの良さそうなお客様。昔話が聞きたけりゃ、そのままオレンジティーのお代わりでも自分で飲んで待っててくれるかい?」




