▼▼おとももち
全てを察したのが伝わると、スカイのオッドアイが猫のように三日月に細められた。
いつでもいらしてくださいと名刺を渡される。人の顔と身分を事前に学習しておくのが当たり前の貴族社会ではまずもらえないものだったので、アリシアは前世ぶりの社交辞令に緊張した。
「未成年の教育にも悪いかなって離れてたんだけど、もう15だし、ある程度貯金も貯まったから戻ってこようかなって思っているよ。」
「それはとてもいい考えですね。…でしたら、いっそ、ミカさんと一緒に学園へいらっしゃいませんか?そうすれば、朝も昼も夜も、いじめられることなんてなくなるのでは。」
「いやいや、若く見えてももう僕18だから学園は辛いかな…」
「いえ、学ぶ側ではなく、教える側として。魔力コントロールを軸とした講座を開かれてはいかがですか?」
学園は教授制を取っているから、実力さえあれば年齢や経歴は不問である。
まさかの提案に目をパチクリとさせたオッドアイは、次の瞬間弾けたように笑い出してしまった。
それはなかなか収まらず、どうしたもんかと考えていると、さっき寝に行ったミカが「兄さんうるさい…」と言いながら降りてきてしまった。
「兄さんの声はよく通るんだから、またマーサに怒られるよ。」
「ウプぷ、わるい。ヒーヒーっ、」
「アリシア様っ、ご不快な思いをされてしまったらごめんなさいっ」
「必死だな。うふふ」
「うるさいっ」
迫力美人が可愛い。ふたりの美の暴力にひれ伏してしまいそうです。
「アリシア様、先程の話。何%くらい、実現されられそうですか。」
きらりと猫目が輝く。
「嫌な言い方ですが、ローラン家が推して入れない学校はないと思います。」
ローラン家ともなると、いろんなところに莫大な寄付をしているものなのだ。そんなところからの推薦なんて絶対断れない。
「なんの話ですか?」
「僕が先生になるって話。」
「へ?」
「だからもう、学園から逃げ帰ってこなくて良いんだよ。」
アリシア様に感謝だ、という笑顔は、今日初めて会ってから、本当に初めて見た雲ひとつない笑顔だった。
「正式に勤められるまでに少し時間がかかると思いますが、ミカさんは必ず私が守りますのでご安心ください。」
何より、主人公に学校に通って、エイベル・ディオンといじめなきハッピーエンドを迎えてもらわなければ、こちらも我が一族の命がかかっているため必死である。
「ひえっ、そんな、姫様のご学友様に恐れ多いです!」
ああ、そういえばそんなものもあったなと「疲れた」とだけ言って即解散させる姫の行動を思い出したが、恐らく、町の噂に登るほどアリシア自身に執着しているようには思えなかった。数日、「平民」を匿うためと言ったら簡単に許してくれような気がするから大丈夫だろう。
「大丈夫ですよ。ただ、私、女性のお友達がいないので、いろいろ教えてくださいね。」
安心させるように表情筋に無理をして微笑むと、
「女神…」
と呟いて兄の腕の中でミカは失神してしまい、
「邪悪すぎるだろう…」
とスカイは顔を青くして首を振ったが、どうやら作戦「脱☆引きこもりからのトゥルールート」は走り出したようなので、とりあえずは、ミカの明日提出の書類を2人で整えて明日からミカを迎えに来ることに決めた。




