▼モラトリアムたまこ
「アリシアちゃん…」
声は少しハスキーに、甘い低音になっていたけれど、サファイアブルーが全てを物語っていた。彼はアレクシスだ。
なんとか涙を引っ込めたアレクシスは、しんどそうにしている私を見るや甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのだが、見た目が違うからか違和感が否めない。
「アレクシス、どうなったのか説明を聞いても?」
常温の水で少し喉を濡らしてみると、声がマシになったように思い、そのまま疑問をアレクシスにぶつけた。
「あの日、アリシアちゃんはそれまで使っていなかった魔力の殆どを大精霊様との契約で譲渡した。…消えかけていたミッチェル様の魔力を戻すためには必要な魔力量だった。これからも、魔力を維持するために、アリシアちゃんの魔力は搾取され続けることになる。」
「それが契約だもの。問題ないわ。
ミッチェルとディオン家はどうなったの?」
美少年アレクシスは暗い顔をしたまま続けた。
「ミッチェル様は、無駄な契約は破棄されたから、大精霊として本来の姿に戻られたよ。ディオン家は…あのままだ。」
「良かった。」
寝込んだ甲斐があったというものだ。ところで、私はどれくらい寝込んだのだろうか。以前記憶が戻った時もかなり伏していた記憶があるが、今回はその時より体が動かない気がする。
「良くない!アリシアちゃんは、6年間も寝ていたんだよ!?」
「6年間!?」
なんとなく浦島太郎は覚悟していたが、6年間は長すぎないか?それほど魔力が必要だったのだろうけれど、一言…あ、勝手に契約したのわたしだった。
「なのに、ディオン家は婚約を破棄しないわ見舞いにも来ないわ、なのに大精霊様はアリシアちゃんの魔力を…アリシアちゃんのいない世界は、そんなの僕には耐えられないからね!?」
良かった。目覚めて良かった。と繰り返しながら手を取り額に擦り付けられた。
「ごめんなさいね、アレクシス。」
「もうこんなのやだよ、アリシアちゃん…本当にやめてね。」
「ごめんなさい。」
しんみりと兄弟愛を確かめあっていたところで気が付いた。
6年間?
15歳には学園生活が始まってしまうというのに、
6年間???
モラトリアムがあと数ヶ月で終わってしまうじゃないか!!!!!
「ということは、もう学園に行く準備を始めないといけないのね。」
ふうっとため息をつくと、アレクシスは怪訝な顔で
「なぜアリシアちゃんが行く必要があるの?6年間も眠ってて魔力の搾取までされているんだ。お勉強は家でもできるし、ほぼ履修済み、そんな体で学園に行くメリットがないよ。」
「んんん、確かにそうなんですが、15歳で入学するのが子女の勤めみたいなものですし、」
「どうしても行きたいなら、入学時期を1年ズラせばいいんじゃない?僕が補佐出来ることも多いと思うし、1年は療養して欲しいな。」
グッドアイデアな気がする。
1年ズレれば会う必要性もグッと減る攻略者もいるだろうし、主人公と同じクラスにならないだけで断罪イベントだって遠のくだろう。攻略本が手元にないのでわからないが。
「じゃあ、再来年、アレクシスと同じクラスになれるといいわね。」
6年ぶりに笑いあった私たちは、まだゲームの強制力を甘く見ていた。




