凍れる街の狂人
それから数日後。マイクとエミリーは、旅行で冬の北海道・網走へと降り立っていた。
電車のドアが開いた瞬間、肌を切り裂くような極寒が二人を襲う。
そこは、ジョージのいるテキサスとは真逆の世界だった。見上げる空は厚い鉛色の雲に閉ざされ、太陽の光は一切届かない。周囲の海も川も、すべてが分厚い氷の中に閉じ込められている。
ジョージから国際電話で言われた「水と太陽から逃げるな」という狂気じみた警告が、物理的に一切使えない、最悪のデッドゾーン。
「ひっくり返るぞ……!!」
駅前のアスファルトの上で、地元の警察官二人に羽交い締めにされながら、一人の男が血の涙を流さんばかりに絶叫していた。衣服はボロボロで、凍傷で黒ずんだ指先で虚空を掻き毟っている。
通りかかったマイクと目が合った瞬間、男は警察官を振りほどき、狂ったような力でマイクの胸ぐらをつかんだ。
「『ウラモドシ』が来る!! 世界の裏側が戻ってくるんだ!! お前なら分かるだろ! なぁ!」
「うわっ、なんだよ急に! 離せ!」
マイクが力任せに男を突き放す。警察官たちが慌てて男を取り押さえるが、男は組み伏せられながらも、エミリーの膨らみ始めたお腹をギラついた目で見つめ、喉を引き裂くように笑った。
「密度だ……! 命の密度だ!! これがあれば勝てる、ウラモドシに勝てるぞォォォ!」
男はそのままパトカーへと押し込まれていった。
寒さとは違う、ドロリとした不気味な悪寒がマイクの背筋を駆け抜ける。「ウラモドシ」という異常な響き。そして、男が言った「密度」という言葉が、ジョージの警告と嫌な音を立てて脳内で噛み合い始めていた。
「……変な人ね。怖かったわ。さ、マイク、お迎えの車に行きましょう」
エミリーに腕を引かれ、マイクは不安を隠すように無理やり笑ってみせた。




