アメリカン・イン version・・反撃
街の境界まで逃げ延びた時、ジョージの目に奇妙な光景が飛び込んできた。
避難が始まり大混乱に陥る大通りで、パニックになった一人の少年が、持っていたおもちゃの「水鉄砲」を、迫り来るあの不気味なバケモノに向けてメチャクチャに発射したのだ。
シュッ、と微量な水道水が、化け物の顔面に命中する。
「ギ、ギエエエエエエーーーッ!?」
その瞬間、ビルの銃弾すら耐えたバケモノが、まるで濃硫酸でも浴びたかのように激しく顔をかきむしり、のたうち回った。そして、水が当たった部分がドロドロと溶け、そのまま煙のように消滅してしまったのだ。
「……水だ」
それを見逃さなかったジョージの脳裏に、電撃のような閃きが走った。
理屈なんてものはさっぱり分からない。これが宇宙の怪異なのか、悪魔の仕業なのかも知るか。だが、南部の荒野で培ったジョージの天才的な野生の勘が、確信を持って答えを導き出していた。
あの得体の知れないナヨナヨした化け物どもは、「水」をぶっかけられると死ぬ
「アーサー! 養豚場へ引き返すぞ! テキサスの男を怒らせたらどうなるか、あの泥棒猫どもにたっぷり教えてやる!」
ジョージは恐怖を怒りへと反転させ、自分の養豚場へとトラックを走らせた。
愛車である大型のフォード製ピックアップトラックの荷台には、農薬散布用に使う巨大な高圧給水タンクが搭載されている。中身は数百リットルの、ただの冷たい真水だ。だが今のジョージにとっては、どんなガトリング砲よりも頼もしい最強の兵器だった。
「アーサー! お前は助手席で高圧ポンプのバルブを全開にしろ! ぶっ潰しに行くぞおおお!」
ブオオオオオオオン!!
V8エンジンが鼓膜を破らんばかりの爆音を上げ、トラックが赤土を激しく跳ね上げて爆走する。
養豚場の掘削地に戻ると、そこはすでに陽炎のように空気が歪み、何十体もの「後ろ向きに歩く異形」が、不気味なうめき声を上げながら群がっていた。
「おい、お前ら! テキサスの極上の冷や水だ! 残さず飲みやがれっ!!」
ジョージは運転席の窓から身を乗り出し、高圧放水銃のトリガーをガタガタと引き絞った。
ズガガガガガガガッ!!!
猛烈な水圧で放たれた大量の水流が、ウラモドシの怪物たちの群れを正面から直撃する。
「ぎゃああああ!」「ギエエエッ!」
水流を浴びた瞬間、怪物たちの肉体は形を保てなくなり、グレーの霧となって次々と文字通り「洗い流されて」いく。
「ハハハ! 効いてる、めちゃくちゃ効いてるぞジョージ!」
助手席のアーサーが興奮で叫ぶ。ジョージは豪快にトラックをドリフトさせ、水を浴びせ続けながら、怪現象の中心地であるあの「重さのないグレーの岩」へと突撃した。
高圧の水を岩の根元にこれでもかと叩き込むと、キィィィィィン……という耳鳴りのような音が響き、歪んでいた空間がパチンと弾けるように元の静かな養豚場へと戻っていった。
後に残されたのは、水浸しになった赤土と、よく分からない「グレーの岩」だけだった。




