粘菌・覚醒・絶望
通報を受けて養豚場に駆けつけたのは、ジョージの古い友人でもある地元の保安官、ビル・マクレーンだった。
「おいおい、ジョージ……悪ふざけにしては悪趣味すぎるぞ」
ビルは射殺され、動かなくなったはずの「豚男」の死体を前に、顔をしかめていた。
人間の背中に豚の下半身が歪に癒着した死体からは、すでに血ではなく、腐ったキノコのような異臭を放つ黄色い粘液がじわじわと溢れ出し、地面の赤土を汚している。
「悪ふざけなもんか、ビル! そいつは後ろ向きに走って俺たちを殺そうとしたんだ!」
地質学者のアーサーが必死に訴えるが、ビル保安官は首を振る。
「とにかく、これは本署の鑑識に回す。お前たちは大人しく――」
その時だった。
ピキ、ピキピキ、と不気味な音が静寂を破った。
死体の傷口から、恐ろしい速度で「黄色いキノコの菌糸」が植物の根のように狂い咲き、ビルの足元へと伸びた。
「う、うわああああっ!?」
ビルの悲鳴が響く。死体だったはずの豚男の目がカッと見開かれ、関節をあり得ない方向へバキバキと折り曲げながら立ち上がった。いや、立ち上がったのではない。肉体が「裏返る」ように反転し、今度は内臓を剥き出しにした状態で、ビル保安官に飛びかかったのだ。
「ビル!!」
ジョージが叫ぶのと同時に、ビルの肉体は怪物にへし折られ、瞬時にその粘菌に侵食されていく。銃弾は効かない。物理的な破壊では、密度ゼロのマイナス物質が操る「ウラモドシの怪物」を止めることはできなかった。
「ジョージ、走れ! 街へ逃げるんだ!」
アーサーを連れて、ジョージは猛暑のテキサスを全力で走った。背後からは、肉体を乗っ取られ、後ろ向きに超高速で四足歩行するビル保安官のなれの果てが、不気味な咆哮を上げて迫ってきていた。




