後ろ向きの疾走
最初、ジョージの脳はそれが何なのかを理解することを拒絶した。
それは人間だった。泥にまみれた作業着を着た、小柄な男の泥だらけの背中が見える。
だが、その下半身は人間の足ではなかった。男の腰から下は、引き裂かれた養豚場の豚の肉体と、ドロドロとした粘液(キノコのような粘菌)を媒介にして、完全に「癒着」していた・・・・・・。人間の上半身から、後ろ向きに豚の胴体が生えているような、狂ったプラモデルのような造形。
そして何より異常なのは、その「動き」だった。
「ギ、ギギギ、ギエエエエエエエ!!」
人間のものとは思えない、裏返った豚の悲鳴のような絶叫を上げながら、その怪物は「後ろ向き」のまま、時速40kmを超える猛烈な速度でジョージたちに向かって突進してきたのだ。
「うわああああっ!?」
アーサーが悲鳴を上げて転がる。
迫り来る怪物の顔が、一瞬だけジョージの視界をよぎった。男の顔は、目と鼻の位置がめちゃくちゃにズレており、まるで誰かが福笑いを失敗したかのような、宇宙的な狂気に満ちていた。
「地獄へ落ちろ、このバケモノが!」
ジョージは叫び、リボルバーの引き金を引いた。
ズドン! ズドン!
強烈な銃声がテキサスの荒野に響き渡る。弾丸は正確に怪物の胸と、癒着した豚の肉をぶち抜いた。肉飛沫が飛び散る。しかし、怪物は血を流さない。傷口から溢れ出たのは、不気味な黄色の「キノコの胞子」と粘液だった。
衝撃で弾き飛ばされた怪物は、激しく地面をのたうち回った。
「ジョージ、警察を! 早く!」
アーサーの叫び声に、ジョージは激しく頷いた。
だが、彼らはまだ知らなかった。これが、世界中の物理法則がひっくり返る大災厄『ウラモドシ』の、ほんの序章に過ぎないということを――。




