奇妙な空白
テニスコートでの「バグ」から数日後。ジョージの日常は、生まれ育った広大な養豚場の中にあった。
テキサスの赤土の上に建てられた頑丈な柵の中では、数百頭の豚たちがいつもならエサを求めて騒がしく鳴き声を上げているはずだった。
だが、その日の午後、養豚場は奇妙な静寂に包まれていた。
「……おい、どうしたお前ら」
ジョージは軽トラックの荷台からエサの袋を下ろし、眉をひそめた。
豚たちが狂ったように怯えていた。柵の片側の隅に全員がギュウギュウに固まり、お互いの背中に乗り上げるようにして、激しく震えている。まるで、広大な敷地の中に「目に見えない巨大な天敵」でも潜んでいるかのように。
ジョージが豚たちの視線の先を追うと、敷地の最奥、古びた貯水槽の近くに、直径5メートルほどの「不自然な空白地帯」があった。
そこには何もない。ただの乾いた地面だ。
だが、なぜかその空間だけ、陽炎のように空気がわずかに歪んで見える。そして、近づくにつれて、肌を刺すような異様な「寒気」がジョージを襲った。テキサスのじっとりとした猛暑の中で、そこだけが冬の冷凍庫のように冷え切っているのだ。
「ジョージ! 例の地質調査の件だが……うおっ、なんだこの寒さは!?」
背後から声をかけてきたのは、数日前のテニスコートにもいた地質学者の友人、アーサーだった。彼は手にした観測機器の数値を二度見し、声を裏返らせた。
「おい、ありえない。このエリアだけ、磁気も重力もデタラメだ。まるで……質量の密度が『ゼロ』の何かが、ここに溜まっているみたいだぞ」
「アーサー、下がれ。何かが来る」
ジョージは直感的な危険を察知し、腰のホルスターから愛用のリボルバーに手をかけた。
その時、貯水槽の影から、「それ」が姿を現した。




