主神、ウジ虫へと成り下がる
幻影の奥深く。ついに一行は、すべての災厄の根源である、超巨大ブラックホール『ウボサスラ0-01』の本体の前に到達した。
それは、見る者の脳を直接破壊するような、ドクドクと脈打つ無定形の悍ましい宇宙のアメーバだった。その凄まじい引力が、プラス宇宙のすべてを貪り食おうと空間を歪ませている。
「パパ、ジョージ、下がって!」
歩み出たのは、14歳になった少女、アニー・浅井だった。
彼女は太陽がなく、水もすべて凍りついたあの網走の絶望の夜、決して凍ることのなかった生命の神秘――最高密度の「羊水」の中から生まれた、この宇宙で最も純粋なプラスの生命エネルギーの結晶だった。
アニーは怯むことなく、ウボサスラの無定形の本体へと近づき、その小さな、しかし生命の質量がぎっしりと詰まった右手を、そっと差し出した。
「私たちの宇宙から、消え失せなさい……!」
アニーの手が、ウボサスラの本体に触れた。
その瞬間、宇宙の絶対的支配者であったはずのウボサスラ0-01は、圧倒的な生命の「密度」に耐えきれず、激しく痙攣した。人間が観測することで形を保っていた「主神」としての傲慢な擬態が、バリバリと音を立てて強制解除されていく。
「ギ、ギエエエエエエーーーーーッ!?」
世界の裏側を揺るがすような断末魔の絶叫。
擬態を剥ぎ取られたウボサスラの正体は、神などでは断じてなかった。それは、硫黄とアンモニアの強烈な悪臭を放つ、「ただの巨大なウジ虫」へと成り下がったのだ。
宇宙の神の正体は、ただの汚い害虫に過ぎなかった。
形を保てなくなったウジ虫は、自らが作り出していたマイナス宇宙の凄まじい引力に耐えきれず、自滅するように自らの大穴へと吸い込まれ、完全に消滅していった。
ウボサスラの消滅と同時に、裏返っていた東京や世界中の空間がパチンと弾け、ミクロの見えない粒となって宇宙の彼方へ消え去った。
双子宇宙の往復運動は完全に停止し、プラス宇宙の尊厳は、人類の手によって完全に取り戻されたのだ。
門から生還した浅井マイク、アニー、ジョージ・テキサスたちの姿がエリア51の巨大モニターに映し出された瞬間、世界中の生存者たちから、地球そのものを揺るがすほどの圧倒的な大歓声と涙が沸き起こった。




