ヨグ=ソトースの糞便
「……おい、なんだあの門は。資料にあったものと全然違うぞ」
シゲさんの形見のライフルを構えた浅井マイクが、思わず顔をしかめて絶句した。
目の前に現れたウラモドシの「門」は、神聖な神殿の扉でも、綺麗なワームホールでもなかった。
それは、クトゥルフ神話の時空の支配者『ヨグ=ソトース』の、最も悍ましく汚死した残渣――「ヨグ=ソトースの糞便のカス」によって形成された、この世で最も醜悪な境界線だった。
粘性のある不気味な泡と、ヘドロのようにドロドロとした最も汚い泡の、ちょうど中間。ドクドクと不規則に脈動しながら、アンモニアと腐った肉が混ざり合ったような宇宙的悪臭を放つその門は、まともに直視すれば一瞬で発狂して脳が破裂するほどの、おぞましい冒涜的な粘液の塊だった。
「どこだ……本物の境界線はどこにある!?」
あまりの狂気の光景に、チェンがジッポの火を灯しながら、ハンスの遺した観測機器を覗き込むが、データはデタラメに乱れて何も映し出さない。日米独中の超科学を以てしても、このヨグ=ソトースの糞便のカスに隠された「本物の門の核心」を見つけることは不可能だった。
「科学の機械なんざ頼りにしてんじゃねえ!」
その時、一歩前に踏み出したのは、ジョージ・テキサスだった。
彼の胸に輝く、建国の父ワシントンから受け継がれた世界に2つの「本物の勲章」が、マイナス物質の狂気に抗うように、神聖なプラスの質量を持ってギラギラと黄金色に輝き始めた。
「ラヴクラフトの言う通りだ。門を開くのは、門に招かれた者だけ……。15年前、俺の養豚場でこの目で宇宙の深淵を見た俺にしか、このゴミ屑の正体は見抜けねえ!」
ジョージは眼鏡を投げ捨て、南部の荒野で培った天才的な「野生の勘」と、勲章の放つ質量の輝きだけを頼りに、ドロドロとうごめく糞便の泡を見つめた。
あそこだ。
幾千もの狂った泡が弾ける中、たった一つだけ、アメリカンクラッカーのように「世界の裏側」とバチバチと火花を散らして噛み合っている、最も汚く、最も濃厚な粘液の結び目がある。
「マイク! アニー! みんな!俺の背中から離れるな! 本物の門は――そこだぁぁぁッ!!」
ジョージ・テキサスが雄叫びを上げ、ワシントンの勲章の質量を拳に込め、その最も汚い泡の核心へと突進した。彼の野生の勘が捉えたその結び目に触れた瞬間、ヨグ=ソトースの糞便のカスが断末魔のような音を立てて引き裂かれ、マイナス物質宇宙の深淵――ウボサスラ0-01の待つ、本当の暗黒の空洞がその口を開けた。
「浅井家、突入ゥゥゥ!!!」
浅井マイクの叫びとともに、彼らはついに、世界の命運を賭けた「門の向こう側」へと足を踏み入れるのだった。




