受け継がれるもの
シゲさんの葬儀が執り行われた日の夜。
丘の上に建てられた新しいお墓の前で、マイクとチェンは二人きりで佇んでいた。
マイクの手には、シゲさんが命よりも大切にしていた、あの年季の入った「狩猟用ライフル」があった。傷だらけの木製の銃床には、シゲさんが網走の厳しい冬を生き抜いてきた歴史が刻まれている。
マイクはシゲさんの形見のライフルを、溢れ出る涙を堪えながら、静かに、しかし壊れそうなほど強く抱きしめた。
「シゲさん……。この銃は、俺が命に代えても持っていく。あんたの代わりに、俺がウボサスラの心臓に、命の弾丸をぶち込んでやるからな」
一方、チェンは静かに右手を差し出し、シゲさんが愛用していた古い「真鍮製のジッポライター」をそっと受け取った。
長年の使用で表面のメッキが剥がれ、鈍い黄金色に輝くジッポ。リンを失ってから心を閉ざし、復讐の達人として冷徹に生きてきたチェンだったが、そのジッポの温もりを手のひらに感じた瞬間、目から一筋の涙が頬を伝って流れ落ちた。
カシャ、とチェンがジッポの蓋を開ける。
親指でホイールを回すと、懐かしい火花とともに、シゲさんがいつも灯していたあの小さな、熱い「炎」が闇の中に浮かび上がった。有機物の不完全燃焼、ウラモドシの結合を狂わせる「熱」の象徴だ。
「チェン。シゲさんはいつもタバコの煙でお前を、俺たちを守ってくれた。……お前がその火を継いでくれ」
マイクの言葉に、チェンは深く、力強く頷いた。
「ええ。この火は、絶対に消しません。シゲさんの魂と共に、あのバケモノどもを、世界の裏側ごと焼き尽くして見せます」
マイクはシゲさんのライフルを肩に背負い、チェンはシゲさんのジッポを胸のポケットに大切にしまい込んだ。
二人の英雄が、一人の偉大な老猟師の意志を完全に引き継いだ瞬間だった。
(あの東京の地獄から「たまたま」救助されたイタリア人のアントニオが、今や船の整備担当リーダーとなり、「いつでも出航できるぞ!」と叫ぶのは、この直後のことである――)




