誕生日と別れ
東京の壊滅から、15年の歳月が流れた。
海と太陽の光に守られた太平洋の離島。その日は、網走の極寒の中で奇跡的に生まれた少女、アニーの14歳の誕生日だった。
「アニー、誕生日おめでとう!」
ドラム缶のコンロを囲み、テキサスのジョージの従兄弟が豪快に焼いた極上のBBQを手に、島民たちが笑顔で乾杯の声を上げる。
14歳になったアニーは、網走の雪のように澄んだ瞳と、過酷な島での訓練を耐え抜いた芯の強さを感じさせる、美しい少女へと成長していた。
その輪から少し離れた特等席の木陰で、車椅子に深く腰掛け、美味そうにセブンスターの煙を燻らせている老人がいた。
浅井シゲ、82歳。
かつて網走の雪山でウラモドシの群れをライフル一丁で退け、東京駅の地獄からマイクたちを救い出した伝説の猟師も、寄る年波には勝てず、肉体は限界を迎えていた。
「シゲじいちゃん、これ、お肉だよ」
アニーが笑顔で、一番柔らかく焼けた肉をお皿に乗せて持ってきた。
シゲさんは皺だらけの顔をさらにクシャクシャにして笑い、アニーの頭を優しく撫でた。
「おぅ、ありがとな、アニー。大きくなったなぁ……。お前が生まれた網走の夜、あの冷たさの中でなぁ、お前の羊水だけは湯気を立ててたんだ。あの時、俺は確信したよ。人類は絶対に負けねえってな」
その言葉が、シゲさんが島民たちの前で見せた最後の笑顔だった。
その翌週。ウラモドシの「淀み」の残滓が、ほんのわずかに島のバリアの隙間を突いて浜辺に湧き出すという緊急事態が発生した。
誰もが慌てふためく中、車椅子から奇跡のような力で立ち上がったシゲさんは、震える手で愛用の古いライフルを構え、押し寄せるグレーの霧に向けて、見事に全弾を命中させて淀みを霧散させたのだ。
「……マイク、チェン。あとは、お前さんたちが、あの宇宙のゴミ屑どもを……洗い流してこい」
最後のセブンスターを吸い殻になるまで深く吸い込み、若者たちにニッと笑ってみせた直後、シゲさんは激しく咳き込み、そのまま静かに息を引き取った。
島民全員に見守られながらの、あまりにも静かで、誇り高い大往生(天寿)だった。




