宇宙的恐怖の前に
しかし、人類の科学は、宇宙の深淵に蠢く『ウボサスラ0-01』の本物の絶望をまだ理解していなかった。
東京駅の駅舎そのものが、内側からバキバキと音を立てて「裏返り」始めたのだ。柱がねじれ、空間そのものが球体に圧縮されていく。人工の雨が届かない地下や、歪んだ空間の「隙間」から、雨を一切恐れない、これまでとは次元の違う巨大な異形の群れが這い出してきた。
「だめだ! 空間そのものが反転している! 火力が、物理的な破壊が一切通じない!」
ハンスが観測機器を見ながら絶叫する。軍人たちが放つロケットランチャーや機関銃の弾丸は、歪んだ空間に吸い込まれ、逆に後ろ向きに飛んできて自軍の装甲車を爆破した。戦場は一瞬にして地獄へと変わる。
「アニー! エルザ! 下がれ!」
ハンスが妻と幼いアニーを庇う。しかし、二人の目の前の空間が、まるで巨大な口を開けるようにぐにゃりと反転した。
「ハンス……!」
「エルザ!!」
チームの頭脳であり、寡黙ながらも誰よりも優しかったドイツ人科学者夫婦、ハンスとエルザは、お互いの手を強く握り締めたまま、抵抗する術もなく虚空の裂け目へと吸い込まれ、光の中に消滅してしまった。
「嘘だろ……ハンス! エルザ!」
マイクの悲痛な叫びが響く。
さらに絶望は続く。空間の裂け目から伸びてきた、内臓が露出した巨大なウラモドシの腕が、恐怖で動けなくなっている幼いアニーへと迫る。
「アニー、危ないっ!!」
その前に飛び込んだのは、中国人の彼女、リンだった。
「リン!!」とチェンが叫ぶ。リンはアニーの小さな身体を自分の身を挺して強く抱きしめ、盾となった。直後、ウラモドシのマイナス物質がリンの肉体を直撃し、彼女の身体がバキバキと不気味な音を立てて裏返り始める。
「チェン……チェン……、日本で、暮らした
かった……な……」
リンはチェンを見つめ、涙を流しながら、最期までアニーを守り抜いて息絶えた。肉体が激しく粘菌化していく。
「リンーーーッ!!!!」
チェンの魂を切り裂くような絶叫が、雨の東京駅に木霊した。




