ウラモドシの群れ
宿に戻ると、幸いにもエミリー、リン、エルザの三人は無事だった。しかし、宿の周囲の空気は、昼間だというのに夜のように薄暗く、あの冷凍庫のような異様な寒気が満ち始めていた。
「ここにいちゃ全滅する。荷物をまとめて車に乗れ! 麓の公民館へ逃げ込むぞ!」
シゲさんの指示のもと、一同はシゲさんの古い軽ワゴン車にギリギリで全員乗り込み、猛吹雪が吹き荒れ始めた雪道を猛スピードで駆け下りた。運転席のシゲさんは、口に咥えたセブンスターの煙を激しく吐き出している。
だが、山の中腹まで差し掛かった時だった。
車のヘッドライトの光の中に、信じられない「異形」が浮かび上がった。
道路の真ん中に、一人の女が立っている。
だが、その腰から下には、人間の足が十数本も、ムカデのように歪に生え揃っていた・・・・・・・・・・・・。
それぞれの足が異なる年代の、異なる靴を履いた、おぞましい「多足の女」。
「うわああああああーーーっ!?」
シゲさんが急ブレーキを踏み、ハンドルを切った。しかし、凍りついた雪道で車は制御を失い、激しくスピンしながら道路脇の雪溜まりへと横転した。
ガシャーーーン!!!
激しい衝撃と悲鳴。
幸い、深い雪がクッションとなり全員命に別状はなかったが、車は完全に沈み、ドアが歪んで開かない。マイクは必死に窓ガラスを蹴り破り、大きなお腹を抱えるエミリーを、チェンやハンスと協力して車外へと引っ張り出した。
「ハァ、ハァ……みんな、大丈夫か!?」
マイクが周囲を見回した瞬間、凍りつくような恐怖が一同を支配した。
猛吹雪の向こうから、ライトの光に導かれるように、次々と「それ」が姿を現したのだ。
「顔が裏返り、食道と内臓が外側に露出した男」
「四つん這いで、両足と両手を逆関節に折り曲げて逆立ちで爆走してくる女」
「足の裏に、生々しい人間の顔が張り付いてすすり泣いている少女」
それは、かつてこの山でウラモドシに呑み込まれたであろう、哀れな「異形の家族」たちの群れだった。彼らは全員が「後ろ向き」に動きながら、恐ろしい速度でマイクたちを包囲していく。
「チッ、数が多いな! チェン、マイク、ハンス! 走れ! 走って公民館へ逃げ込めぇ!」
シゲさんがライフルを異形の家族へ向けて連射する。チェンもリンを背中に庇いながら、落ちていた頑丈な木の枝を拾って構えた。
水はなく、太陽も届かない。この極寒の地獄で、マイクたちはエミリーのお腹の新しい命を守るため、決死の徒歩での逃亡戦を開始するのだった――。




