凍える夜の調和
古民家の奥にある広い居間に入ると、薪ストーブを囲んで四人の先客が静かに座っていた。
「あ、新しいお客さんですね! こんばんは!」
マイクとエミリーの姿を見るなり、親しみやすい笑顔で立ち上がったのは、中国人の若い男だった。彼はチェン(陳)と名乗り、隣にいる恋人の女性リン(鈴)を紹介した。二人は大の日本マニアで、いつか北海道に移住したいと考え、独学で覚えたという日本語は驚くほど流暢だった。
「駅からの道、すごく雪が深かったでしょう? これ、シゲさんが淹れてくれたお茶です。どうぞ!」
リンが温かいお茶の湯気を立てながら、エミリーにそっと湯呑みを差し出す。その細やかな気配りと、初対面の外国人である自分たちを自然に受け入れてくれる調和の精神に、マイクたちの緊張はすっと解けていった。
居間の少し離れた特等席には、大柄な白人の男女が座っていた。
ドイツ人夫婦のハンスとエルザだ。ハンスは物理学者、エルザは生物学者という知識人の夫婦だった。二人は非常に寡黙で、自分から多くを語るタイプではなかったが、マイクたちが入ってきた瞬間に、そっと薪ストーブに近い一番暖かい席を譲るように腰を浮かせ、静かに微笑みかけてくれた。
言葉数は少なくても、その眼差しには確かな優しさと知性が宿っていた。
「……ありがとう」
マイクが日本語と英語を交えてお礼を言うと、ハンスは短く「Good evening」と返し、エミリーの冷えた手を気遣うようにエルザが毛布を差し出してくれた。
シゲさんの淹れたお茶を飲みながら、アメリカ、日本、ドイツ、中国という、国籍の全く違う六人と老猟師の一夜が更けていく。窓の外では、網走の狂ったような地吹雪がゴオゴオと家を鳴らしていたが、宿の中だけは、まるで世界から切り離されたかのような優しい平穏に満ちていた。




