第七話 武田信玄が塩を欲しがっているらしい
ある日。
甲斐から来た商人が、俺の店を訪れた。
「塩を大量に仕入れたい」
「塩ですか?」
「そうだ」
「どのくらい?」
商人が示した数量を見て、俺は驚いた。
「……随分多いですね」
「甲斐では塩が必要なのだ」
甲斐。
武田信玄の領地。
山に囲まれ、海がない。
塩は外から運ばなければならない。
俺は考えた。
「……これは、大きな商売になる」
だが、問題がある。
甲斐までの輸送には、複数の領地を通る必要がある。
しかも、政治情勢によって道が使えなくなることもある。
俺は地図を広げた。
「塩を運ぶ道は、一つではありません」
商人が驚いた。
「何?」
「海から運ぶ方法もありますし、別の街道を使う方法もあります」
「しかし、通行料が……」
「まとめて運べば下げられるかもしれません」
俺は計算を始めた。
塩の仕入れ値。
輸送費。
関所。
保管費。
そして、利益。
「……できます」
商人が身を乗り出した。
「本当か?」
「ただし、条件があります」
「何だ?」
「塩を戦争の道具にしないことです」
商人は怪訝な顔をした。
「どういう意味だ?」
「私は、民が使う塩を売りたいのです」
商人は黙った。
そして、静かに言った。
「……その条件を、武田様にも伝えてよいか?」
俺は頷いた。
「もちろんです」
こうして、甲斐への塩取引が始まった。
数週間後。
俺のもとに、一通の書状が届いた。
差出人。
武田信玄。
そこには、こう書かれていた。
『一度、甲斐へ参られよ』
俺は頭を抱えた。
「……また戦国大名か」




