第六話 商人に金を貸したら、戦国時代に銀行ができた
「金が足りません」
源兵衛が言った。
「またですか?」
「荷物が増えすぎました」
俺は帳簿を見た。
確かに、取引量は急増していた。
米。
布。
木材。
塩。
鉄。
商人たちは、俺の物流網を使うようになっていた。
だが、問題がある。
商品を仕入れるには、先に金が必要だ。
売れれば儲かると分かっていても、仕入れ資金がなければ商売できない。
「……信用取引か」
俺は呟いた。
「信用?」
「金を貸す仕組みです」
源兵衛が驚いた。
「商人に金を貸すんですか?」
「はい」
「返ってこなかったら?」
「だから、帳簿を見るんです」
俺は取引記録を広げた。
誰が、何を、どれだけ運んだか。
どのくらいの頻度で商売しているか。
代金をきちんと支払っているか。
記録は残っている。
「この人なら、信用できます」
俺は一人の商人の名前を指した。
「毎月、安定して取引しています」
「なるほど」
「まずは少額から貸します」
こうして、俺は商人への融資を始めた。
もちろん、貸し倒れもあった。
ある商人は、借りた金を返せなくなった。
俺は店を訪ねた。
「返済が遅れていますね」
商人は頭を下げた。
「申し訳ありません!」
「何があったんですか?」
「荷物が雨で傷んでしまって……」
俺は帳簿を確認した。
確かに、輸送中の事故だった。
「分かりました。返済期限を延ばします」
商人が顔を上げた。
「……よろしいのですか?」
「ただし、次からは荷物を濡らさない工夫をしましょう」
俺は笑った。
「あなたが商売を続けられなければ、私も困りますから」
半年後。
俺の商会には、商人たちの預かり金まで集まり始めていた。
「新太郎さん、金を預かってくれませんか?」
「なぜです?」
「自分の店に置いておくより、安全そうなので」
俺は考えた。
預かり金。
融資。
送金。
帳簿。
「……銀行みたいになってきたな」
ただし、預かった金を無制限に貸し出すわけにはいかない。
引き出しに備える現金が必要だ。
俺は貸付金と預かり金を分けて管理し、手元に十分な支払準備を残すことにした。
そして、商人たちが遠方へ大金を持ち歩かなくても済むよう、提携する商家同士で代金を精算する仕組みも始めた。
すると。
「……盗賊に襲われる危険が減った!」
商人たちが喜んだ。
金を運ぶ必要が減ったのだ。
俺は帳簿を閉じた。
「物流の次は、金融か」
だがこの仕組みが、やがて戦国大名たちの財政を左右することになるとは、まだ誰も知らなかった。




