第五話 関所の通行料を計算したら、領主が頭を抱えた
商売が広がるにつれ、一つの問題が大きくなってきた。
関所だ。
「また通行料ですか?」
俺は目の前の役人に尋ねた。
「決まりだ」
「昨日も払いましたが」
「昨日は別の関所だ」
「……そうですか」
荷車が一つの領地を通るたび、銭を取られる。
その額は場所によって違う。
しかも、荷物の種類によっても変わる。
「これでは輸送費が読めないな……」
俺は帳簿を開いた。
米一俵を運ぶ費用。
人件費。
荷車の費用。
宿泊費。
関所の通行料。
計算してみると、驚くことが分かった。
「……関所の費用が大きすぎる」
ある経路では、輸送費のかなりの部分を通行料が占めていた。
俺は考えた。
関所をなくせば、商売は増える。
だが、領主にとって関所は収入源だ。
単に「なくしてください」と言っても通らない。
ならば。
「……関所を減らした方が儲かると証明すればいい」
数日後。
俺は小さな領地の領主に面会していた。
「通行料を下げろだと?」
「はい」
領主は不機嫌そうだった。
「そんなことをすれば、収入が減るではないか」
「一台あたりの収入は減ります」
「同じことだ!」
「ですが、通る荷車が増えれば?」
領主が黙った。
俺は木札を並べた。
「例えば、通行料が十文で、一日に十台通れば百文です」
「うむ」
「では、通行料を五文に下げて、一日に三十台通れば?」
「……百五十文」
「そうです」
領主は木札を見つめた。
「……本当に三十台も通るのか?」
「保証はできません」
俺は答えた。
「ですが、三か月だけ試してみませんか?」
「三か月?」
「通行台数と収入を毎日記録します。増えなければ元に戻せばいいのです」
領主は考え込んだ。
そして。
「……よかろう」
実験が始まった。
最初の一週間。
通行台数は少し増えた。
二週間後。
さらに増えた。
一か月後。
以前は遠回りしていた商人たちまで、この道を使い始めた。
結果。
通行料を下げたにもかかわらず、関所の収入は増えた。
領主は帳簿を見て呟いた。
「……こんなことがあるのか」
俺は笑った。
「商売は、人が動くほど大きくなります」
その噂は、周辺の領主たちにも広がった。
そして。
尾張のある関所では、通行料そのものが廃止された。
後に信長が進める商業政策の、ささやかな先駆けだった。




