第四話 米蔵を燃やされたので、犯人の商売を潰すことにした
「火事だ!」
夜の市場に叫び声が響いた。
俺が駆けつけた時には、倉庫の屋根から炎が上がっていた。
「水を運べ!」
「隣の蔵に燃え移るぞ!」
人々が必死に消火している。
俺も桶を持った。
だが、火の勢いは強かった。
夜明け。
倉庫は黒焦げになっていた。
米俵の多くが焼けた。
俺は焼け跡を見つめた。
「……やられたな」
隣にいた商人の源兵衛が言った。
「新太郎さん、これは放火ですよ」
「分かっています」
「誰の仕業でしょう?」
「俺の商売を邪魔だと思っている人間でしょうね」
米の共同輸送を始めてから、既存の商人たちの中には反発する者もいた。
特に、関所を利用して高い運賃を取っていた商人たちだ。
俺は源兵衛に尋ねた。
「最近、俺たちの取引先に嫌がらせをしている商人は?」
「……堺屋宗兵衛です」
「どんな商人ですか?」
「米の大口取引をしています。運送人にも顔が利きます」
「なるほど」
俺は頷いた。
「では、彼と戦いましょう」
源兵衛が驚いた。
「戦う!?」
「商売で、です」
翌日。
俺は商人たちを集めた。
「今日から、米の輸送運賃を公開します」
「公開?」
「はい。距離、荷物の量、必要な日数。それぞれの料金を分かるようにします」
商人たちは首を傾げた。
「そんなことをして、何になる?」
「不当に高い運賃を取れなくなります」
俺は木札を並べた。
「さらに、荷物が届かなかった場合の補償制度を作ります」
「補償?」
「運賃の一部を積み立て、事故が起きた時に支払います」
「そんなことができるのか?」
「全員が少しずつ負担すれば可能です。ただし、大きな損害を一度に補えるほどの資金は、まだありません」
俺は正直に説明した。
「まずは少額の補償から始めます」
商人たちは話し合った。
そして、次々に参加を決めた。
数日後。
堺屋宗兵衛の店から、客が減り始めた。
さらに十日後。
宗兵衛本人が俺のところへ来た。
「佐倉新太郎というのは、お前か」
「はい」
「随分と派手に商売しているそうだな」
「おかげさまで」
宗兵衛は低い声で言った。
「商売には、昔からの決まりがある」
「そうですね」
「新参者が勝手なことをすれば、困る者もいる」
「でしょうね」
「……分かっているのか?」
俺は宗兵衛を見た。
「一つ聞いてもいいですか?」
「何だ」
「あなたは、米を運ぶ商売をしているんですよね?」
「そうだ」
「なら、米を運ぶ人と買う人が喜ぶ仕組みを作ればいいのでは?」
宗兵衛の顔が赤くなった。
「生意気な!」
「私は、あなたの商売を奪いたいわけではありません」
俺は続けた。
「一緒に儲けませんか?」
「……何?」
「あなたの持っている倉庫と人脈を使わせてください。その代わり、取引量を増やします」
宗兵衛は黙った。
「私を潰すより、組んだ方が儲かりますよ」
長い沈黙。
やがて宗兵衛が言った。
「……本当に儲かるのか?」
「数字を見ますか?」
俺は帳簿を開いた。
宗兵衛は、そこに書かれた取引量を見て目を見開いた。
「……こんなに運んでいるのか?」
「まだ始まったばかりです」
宗兵衛はしばらく考えた。
そして。
「……一度だけ、試してやる」
俺は笑った。
こうして、最大の競争相手が取引先になった。
ただし、倉庫への放火については、まだ証拠がない。
犯人は分からないままだ。
俺は帳簿を閉じた。
「……次は、倉庫を増やすか」
一か所を燃やされても、商売が止まらない仕組みが必要だった。




