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第三話 米を安く買っただけなのに、城下町の物価が下がった

信長から与えられた期限は一月。

俺は早速、商人たちを集めた。

「米を買いたいと思います」

集まった商人は五人。

全員が怪訝な顔をした。

「米?」

「はい」

「今は高いぞ」

「知っています」

「では、なぜ買う?」

俺は地図を広げた。

「尾張の米は高いですが、周辺の村では余っているところがあります」

商人の一人が笑った。

「そんなことは知っている」

「では、なぜ運ばないのですか?」

「運賃が高いからだ」

「関所もある」

「道も悪い」

俺は頷いた。

「では、まとめて運びましょう」

「まとめて?」

「皆さんが別々に荷車を出すのではなく、同じ日に同じ道を使います」

「それで?」

「空荷になる帰り道にも商品を積みます」

俺は計算を示した。

「これなら、米一俵あたりの輸送費を下げられます」

商人たちは顔を見合わせた。

「……本当に?」

「試算では可能です」

「失敗したら?」

「私の取り分はありません」

一人が笑った。

「面白い。乗った」

こうして、最初の共同輸送が始まった。


十日後。

市場に米が届いた。

最初は二十俵。

次は五十俵。

さらに百俵。

米屋たちは驚いた。

「おい、最近やたら米が入ってくるぞ!」

「どこからだ?」

「佐倉という商人が運んでいるらしい」

供給が増えると、米の値段は少しずつ下がり始めた。

もちろん、俺が市場全体を支配できるほどの量ではない。

だが、変化は確実に起きていた。

「最近、米が少し安くなったねえ」

「助かるよ」

町の人々が喜んでいる。

俺は、その様子を見て満足した。

「……いい商売だ」

ところがある日、米屋の主人が怒鳴り込んできた。

「お前のせいで、米が高く売れなくなった!」

「そうですか」

「そうですか、じゃない!」

「でも、安く仕入れられるようにもなりましたよね?」

「……何?」

「今までより多く売れば、利益を増やせます」

主人が黙った。

「高く売るだけが商売ではありません」

俺は笑った。

「安く仕入れて、安く売って、たくさん売る方法もあります」

主人はしばらく考えた。

「……ほう」

そして翌日。

その米屋は、俺の取引先になった。


一月後。

清洲城。

信長は報告書を見ていた。

「輸送費が下がった?」

「はい」

「米の損耗も減った?」

「はい」

「しかも、城下の米価まで下がった?」

「はい」

信長は笑った。

「お前、何者だ?」

「ただの商人です」

「ただの商人が、こんなことを考えるか!」

俺は肩をすくめた。

「商売ですから」

信長は立ち上がった。

「よし。尾張の兵糧輸送を任せる」

「……え?」

「不満か?」

「いえ、その……」

俺は慌てて言った。

「一つ条件があります」

「言ってみよ」

「軍の仕事だけでなく、民間の商売も続けさせてください」

信長は笑った。

「好きにせよ」

こうして俺は、尾張の物流に関わることになった。

だがその日の夜。

市場の倉庫が一つ、燃えた。

俺が借りていた倉庫だった。

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