第五十七話 織田信長から最後の書状が届いた
ある日。
一通の書状が届いた。
差出人は、織田信長。
俺は驚いた。
「……殿から?」
書状を開く。
そこには、短い文章が書かれていた。
『新太郎。久しく会っておらぬ。顔を見せよ』
俺は笑った。
「……相変わらずだな」
数日後。
俺は信長を訪ねた。
信長も年を取っていた。
だが、その目の鋭さは変わっていない。
「新太郎」
「はい」
「久しぶりだな」
「ご無沙汰しております」
信長は笑った。
「聞けば、お前は小さな店をやっているそうだな」
「はい」
「天下を動かした男が、米を一升ずつ売っておるのか?」
「はい」
信長は大笑いした。
「はははは!」
そして、静かに言った。
「……新太郎」
「はい」
「お前は、何が欲しかった?」
俺は少し考えた。
金。
地位。
権力。
名誉。
どれも、最初は欲しかったわけではない。
俺は答えた。
「……平和に商売できる世の中です」
信長は黙った。
俺は続けた。
「戦争で荷物が止まらない」
「うむ」
「商人が安心して街道を歩ける」
「うむ」
「農民が作った米を、必要な場所へ届けられる」
「……うむ」
「そんな世の中が欲しかったんです」
信長は長い間、黙っていた。
そして、静かに笑った。
「……そうか」
俺は頭を下げた。
「殿は?」
信長は少し考えた。
そして答えた。
「……わしも、乱世を終わらせたかった」
俺は顔を上げた。
信長は笑った。
「方法が違っただけかもしれぬな」
俺は頷いた。
「そうかもしれません」
二人は、しばらく黙って庭を眺めていた。




