第五十三話 武田家と上杉家が同じ市場で商売を始めた
甲斐と越後。
かつて激しく争った両家。
その商人たちが、同じ市場に店を出していた。
甲斐からは、馬。
金。
木材。
越後からは、米。
海産物。
布。
俺は市場を歩いた。
「……すごいな」
源兵衛が笑った。
「昔なら、考えられませんでしたね」
「そうですね」
市場では、甲斐の商人と越後の商人が値段交渉をしていた。
「もう少し安くならないか?」
「それでは利益が出ません」
「なら、次もまとめて買う」
「それなら考えましょう」
俺は笑った。
戦争では、相手を倒さなければ勝てない。
だが、商売では、双方が利益を得られることがある。
その違いが、少しずつ広がっていた。
ある商人が俺に声をかけた。
「佐倉様!」
「はい」
「おかげで、越後の米が安定して届くようになりました!」
別の商人も言った。
「甲斐の馬も、以前より買いやすくなりました!」
俺は頭を下げた。
「皆さんが協力してくれたおかげです」
その時。
一人の老人が、俺に近づいてきた。
「佐倉新太郎殿」
「はい」
「あなたが、天下商業連合を作った方ですか?」
「そうです」
老人は深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
俺は驚いた。
「……何がです?」
老人は言った。
「息子が、戦に行かずに済みました」
俺は何も言えなかった。
老人は続けた。
「今は商人として、家族を養っています」
俺は静かに頷いた。
「……それは、よかったです」
その言葉は、どんな利益の報告より嬉しかった。




