第五十二話 織田信長に引退を伝えたら、天下を任されそうになった
岐阜城。
俺は信長に引退の話をした。
「……何?」
信長が眉をひそめた。
「商会の代表を辞める?」
「はい」
「なぜだ?」
「次の世代に任せるためです」
信長はしばらく黙った。
そして、笑った。
「……お前らしいな」
俺は頭を下げた。
「ありがとうございます」
だが、信長は続けた。
「では、わしのところへ来い」
「……え?」
「商会を辞めるなら、暇になるだろう」
「いえ、そういうわけでは……」
「国の財政を任せる」
俺は固まった。
「……財政?」
「そうだ」
信長は笑った。
「お前なら、天下の財政も何とかするだろう」
俺は慌てた。
「殿、それは困ります!」
「なぜだ!」
「引退する意味がありません!」
信長は大笑いした。
「はははは!」
そして、静かに言った。
「新太郎」
「はい」
「お前は、わしとは違う天下を作った」
俺は黙った。
信長は続けた。
「わしは武力で国をまとめようとした」
「はい」
「だが、お前は商売で人をつなげた」
「……はい」
「どちらが正しいかは、分からぬ」
信長は笑った。
「だが、お前のやり方も悪くない」
俺は深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
その時。
信長が言った。
「一つだけ、頼みがある」
「何でしょう?」
「わしが死んでも、この仕組みを残せ」
俺は顔を上げた。
信長は静かに笑っていた。
「戦国の世は、いつか終わる」
「はい」
「その時、人々が商売で生きていけるようにしておけ」
俺は頷いた。
「必ず」




