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第三十五話 米を半額で売る商人が現れたので、絶対に買わないことにした

黒田宗一郎が動き始めた。

最初の攻撃は、米だった。

「新太郎さん!」

源兵衛が駆け込んできた。

「黒田商会が、米を半額で売っています!」

俺は驚いた。

「半額?」

「はい!」

「……原価割れですね」

俺は帳簿を開いた。

米の仕入れ値。

輸送費。

倉庫費。

人件費。

どう計算しても、黒田の販売価格では利益が出ない。

「……赤字覚悟の値下げか」

源兵衛が焦った。

「こちらも値下げしますか?」

「しません」

「でも、客が取られます!」

「取られて構いません」

源兵衛が固まった。

「……え?」

俺は笑った。

「黒田は、赤字で米を売っています」

「はい」

「では、売れば売るほど?」

「……損をします」

「そうです」

俺は続けた。

「こちらは、必要な人に必要な量を売り続けます」

「でも、客が減ります!」

「一時的には減るでしょう」

俺は帳簿を閉じた。

「ですが、黒田の米が永遠に半額とは限りません」

源兵衛は不安そうだった。

「……大丈夫でしょうか?」

「分かりません」

俺は正直に答えた。

「黒田がどれだけ資金を持っているかによります」

そして、一つの指示を出した。

「黒田商会の米は、買いません」

「……なぜです?」

「安いからといって大量に買えば、向こうの販売実績を作ってしまいます」

俺は続けた。

「それに、黒田の狙いが価格だけとは限りません」

数日後。

その予感は当たった。

黒田商会は、米を半額で売る代わりに、商人たちへ契約書を書かせていた。

『今後三年間、米の仕入れは黒田商会からのみ行うこと』

俺は契約書を見て呟いた。

「……なるほど」

安売りは、客を集めるための餌だった。

黒田の本当の目的は、米の流通を独占することだった。

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