第三十四話 もう一人の転生者が現れたので、商売の常識が通用しなくなった
「佐倉新太郎殿に、お会いしたい」
一人の男が商会を訪れた。
年齢は三十代半ば。
整った服装。
落ち着いた口調。
名は黒田宗一郎。
「初めまして」
俺は頭を下げた。
「佐倉新太郎です」
黒田は笑った。
「あなたの噂は聞いています」
「ありがとうございます」
「共同輸送。信用取引。共通帳簿。決済網」
俺は少し驚いた。
「よくご存じですね」
黒田は静かに言った。
「まるで、現代の企業経営ですね」
俺は固まった。
「……現代?」
黒田は笑った。
「やはり」
「……何がです?」
「あなたも、転生者でしょう?」
俺は息を呑んだ。
黒田は続けた。
「私は前世で、投資会社を経営していました」
「……投資会社?」
「ええ」
黒田は笑った。
「企業買収が専門です」
俺は嫌な予感がした。
黒田は懐から帳簿を取り出した。
「あなたの商会を買いたい」
「……は?」
「もちろん、正当な対価を払います」
俺は首を振った。
「売りません」
黒田は笑った。
「そう言うと思いました」
「では、なぜ?」
「買えないなら、潰すだけです」
俺は黙った。
黒田は立ち上がった。
「佐倉さん」
「はい」
「あなたは商売で天下統一しようとしている」
「……そうです」
「私も同じです」
黒田は笑った。
「ただし、方法が違う」
「どう違うんです?」
「私は、天下の商人をすべて支配します」
俺は眉をひそめた。
黒田は続けた。
「市場を独占し、価格を決め、金融を握る」
「……なるほど」
「そして、大名たちを借金で縛る」
俺は静かに答えた。
「それでは、商人も民も苦しみます」
黒田は笑った。
「構いません」
「……何?」
「利益が出れば、それでいい」
俺は黒田を見つめた。
この男は、俺とは違う。
俺は商売で人々を豊かにしたい。
だが、黒田は商売で人々を支配したいのだ。
黒田は最後に言った。
「一月後、あなたの商会はなくなっていますよ」
そう言って、店を出ていった。
俺は帳簿を閉じた。
「……面倒な相手が出てきたな」




