第三十話 戦わずに天下統一したので、信長に報告しに行った
岐阜城。
久しぶりに信長と会った。
信長は、以前より貫禄が増していた。
「新太郎」
「はい」
「随分と大きな商人になったそうだな」
「おかげさまで」
「聞けば、全国の商人がお前の仕組みを使っているそうではないか」
「はい」
「米も?」
「はい」
「塩も?」
「はい」
「鉄も?」
「はい」
「金も?」
「はい」
信長は笑った。
「……お前、何でも扱っておるな」
「商売ですから」
信長は地図を広げた。
「では、聞こう」
「はい」
「お前の天下統一は、どこまで進んだ?」
俺は持参した地図を広げた。
そこには、全国の交易路が描かれていた。
街道。
港。
倉庫。
商業都市。
金融拠点。
そして、それらを結ぶ線。
信長は黙って地図を見つめた。
「……これは?」
「天下商業連合の交易網です」
「全国につながっておるのか?」
「主要な地域は、かなりつながりました」
信長は地図を見た。
「……わしの領地ではない場所もあるな」
「はい」
「武田の領地も?」
「はい」
「上杉の領地も?」
「はい」
「毛利の領地も?」
「一部の商人が参加しています」
信長は長い間、黙っていた。
そして。
「……お前」
「はい」
「わしより先に、天下を一つにしたのか?」
俺は首を振った。
「政治的な天下統一ではありません」
「分かっておる」
信長は笑った。
「だが、面白い」
俺は続けた。
「まだ戦争はあります。交易が止まる地域もあります」
「うむ」
「ですが、以前より多くの人が、商売を通じてつながるようになりました」
信長は地図を見つめた。
「……なるほどな」
俺は言った。
「殿は、武力で天下を統一しようとされています」
「そうだ」
「私は、商売で天下を一つにつなごうとしています」
「うむ」
「方法は違いますが、目指すものには重なる部分があります」
信長はしばらく黙っていた。
そして、静かに言った。
「新太郎」
「はい」
「お前は、城を一つも攻めておらぬな」
「はい」
「兵を一人も率いておらぬな」
「はい」
「それなのに、大名たちがお前の商会を必要としておる」
「……ありがたいことです」
信長は笑った。
「はははは!」
広間に笑い声が響いた。
「面白い!」
信長は立ち上がった。
「わしは天下を武力で取ろうとした!」
「はい」
「だが、お前は米と塩と鉄と銭で、天下をつなげた!」
俺は頭を下げた。
「まだ完成ではありません」
信長は頷いた。
「そうだな」
そして、俺を見た。
「では、次は何をする?」
俺は少し考えた。
「……学校を作ろうと思います」
信長が固まった。
「……学校?」
「はい」
「今度は何だ!」
「読み書きと算盤を教えます」
「なぜだ!」
俺は笑った。
「商売ができる人を増やしたいので」
信長は頭を抱えた。
「……お前という男は!」
そして、大笑いした。
「はははは!」
俺も笑った。
戦国時代。
剣と槍と鉄砲が天下を争う時代。
俺は、ただの商人だった。
刀は持たない。
城は攻めない。
兵士も率いない。
それでも、できることはあった。
米を運ぶ。
塩を売る。
鉄を届ける。
金を貸す。
街道をつなぐ。
商人を育てる。
人々の暮らしを豊かにする。
それを続けているうちに、気づけば全国の商人がつながっていた。
もちろん、戦国の世はまだ終わっていない。
俺の目指す天下統一も、道半ばだ。
だが、少なくとも。
戦争をしなくても、天下を変えることはできる。
俺は城を出て、空を見上げた。
「……さて」
明日も商売だ。
今度は、全国に学校を作ろう。
読み書きと算盤ができる人間が増えれば、商売はもっと広がる。
そして、いつか。
戦争で土地を奪うより、商売で人と人をつなぐ方が当たり前になる。
そんな時代が来ればいい。
俺は笑った。
「……天下統一って、案外忙しいな」
第一部 戦国経済革命編 完




