第十九話 武田と上杉が戦いそうなので、両方に商談を持ちかけた
甲斐と越後。
武田信玄と上杉謙信。
両者の対立は深かった。
俺の商会にも、緊張が伝わってきた。
「新太郎さん」
源兵衛が言った。
「甲斐への輸送が難しくなっています」
「なぜです?」
「街道が警戒されているのです」
俺は地図を見た。
戦争が始まれば、物流が止まる。
物流が止まれば、商売が減る。
そして、人々の暮らしも苦しくなる。
「……困ったな」
俺は考えた。
武田と上杉。
どちらも強い。
正面から戦争を止めようとしても、聞く耳を持たないだろう。
だが「……商売の話なら聞くかもしれない」
俺は甲斐へ向かった。
信玄に会い、提案した。
「戦争を一時的に休んでいただけませんか?」
信玄は笑った。
「商人が戦を止めるつもりか?」
「はい」
「理由は?」
「交易が止まると、双方が損をします」
「それだけか?」
「それだけではありません」
俺は帳簿を開いた。
「甲斐の馬、金、木材。越後の米や海産物。互いに必要なものがあります」
信玄は考え込んだ。
「……交易を再開すれば、国が豊かになると?」
「はい」
「謙信が応じると思うか?」
「交渉してみます」
信玄は笑った。
「面白い。やってみよ」
俺は越後へ向かった。
謙信にも同じ話をした。
「武田と交易だと?」
「はい」
「敵と商売をするのか?」
「戦っている相手だからこそ、商売の価値があります」
謙信は黙った。
俺は続けた。
「戦争を完全にやめる必要はありません。まずは、商人が安全に通れる期間を設けていただきたいのです」
謙信はしばらく考えた。
そして。
「……民のためになるなら、考えよう」
こうして、限定的な交易の話し合いが始まった。
もちろん、戦争そのものが終わったわけではない。
だが、両者の間に、初めて商売を通じた交渉の道ができた。
俺は思った。
「……戦わずに国を動かすことも、不可能ではないな」




