第十七話 堺の大商人に喧嘩を売られたので、値下げ競争をやめた
堺。
日本有数の商業都市。
そこには、莫大な財力を持つ商人たちがいた。
俺は津田屋宗久という商人に会った。
「お前が佐倉新太郎か」
「はい」
宗久は笑った。
「随分と商売を広げているそうだな」
「おかげさまで」
「だが、堺では通用せんぞ」
「そうですか」
「わしらには、長年の信用がある」
「素晴らしいですね」
宗久が眉をひそめた。
「……馬鹿にしているのか?」
「いいえ」
俺は笑った。
「その信用を使わせていただきたいのです」
「……何?」
「一緒に商売しませんか?」
宗久は笑った。
「わしがお前と?」
「はい」
「断る」
即答だった。
俺は頷いた。
「分かりました」
そして、堺での商売を始めた。
最初は小さな取引だった。
だが、物流網を利用した低い輸送費が評判になり、少しずつ客が増えた。
すると。
宗久の店が値下げを始めた。
俺より安い運賃。
さらに安い手数料。
明らかな価格競争だった。
源兵衛が慌てた。
「新太郎さん! こちらも値下げしないと!」
俺は首を振った。
「しません」
「なぜです!?」
「赤字になるからです」
「でも、客を取られます!」
「全部は取られません」
俺は帳簿を見た。
「安さだけを求める客は、向こうへ行くでしょう」
「それでいいんですか?」
「はい」
俺は笑った。
「こちらは、荷物が確実に届くことを売ります」
運送人の確認。
受け渡し記録。
遅延の報告。
事故時の補償。
商人が安心して使える仕組みを整えた。
一か月後。
宗久の店は、値下げの影響で利益が減っていた。
一方、俺の商会は、取引量こそ少し減ったものの、利益を保っていた。
そして。
宗久が再び俺のところへ来た。
「……お前、なぜ値下げしなかった?」
「儲からないからです」
「客を奪われてもか?」
「はい」
俺は笑った。
「商売は、売上より利益です」
宗久はしばらく黙った。
そして、笑い出した。
「……負けたわ」
俺は首を振った。
「勝ち負けではありません」
「何?」
「一緒に儲けませんか?」
今度は、宗久も断らなかった。




