第十六話 裏切り者を見つけたので、解雇せずに仕事を任せてみた
「新太郎さん」
弥七が言った。
「商会の中に、情報を流している者がいます」
「誰です?」
「番頭の一人です」
俺は驚いた。
「……本当ですか?」
「間違いありません」
弥七は証拠を示した。
取引先の情報。
倉庫の場所。
輸送予定。
それらが外部へ流れていた。
俺はしばらく考えた。
「……本人を呼んでください」
番頭の清吉が部屋に入ってきた。
「旦那様、お呼びでしょうか」
「清吉さん」
「はい」
「誰に情報を売っていますか?」
清吉の顔色が変わった。
「……何のことでしょう?」
「証拠があります」
俺は書状を見せた。
清吉は膝をついた。
「申し訳ありません!」
「理由を聞かせてください」
清吉は震える声で答えた。
「借金が……」
「借金?」
「家族の病気で、金が必要だったのです」
俺はため息をついた。
「相談してくれればよかったのに」
「……申し訳ありません」
俺は考えた。
普通なら解雇だ。
だが、清吉は仕事ができる。
帳簿にも詳しい。
何より、情報を売った相手を知っている。
「清吉さん」
「はい……」
「もう一度、仕事をしてもらえますか?」
清吉が顔を上げた。
「……え?」
「ただし、しばらく重要な帳簿には触れられません」
俺は続けた。
「まずは、倉庫の在庫確認をお願いします。弥七さんと一緒に」
「……よろしいのですか?」
「信用は、一度失うと取り戻すのが大変です」
俺は静かに言った。
「だから、仕事で取り戻してください」
清吉は泣きながら頭を下げた。
そして、彼から情報を買っていた人物の名前を聞いた。
堺の大商人。
津田屋宗久。
その名を聞いて、俺は顔を上げた。
「……堺か」
次の戦場は、商業都市・堺だった。




