第十話 織田信長が怒鳴り込んできたので、利益を説明した
「新太郎!」
清洲城に呼ばれた俺は、信長の怒声を浴びた。
「お前、武田に塩を売ったそうだな!」
「はい」
「上杉にも米を売ったそうだな!」
「はい」
「敵に物資を売って、何を考えておる!」
俺は頭を下げた。
「商売です」
「それは聞いた!」
信長は立ち上がった。
「お前の売った塩で、武田が軍を動かしたらどうする!」
「その可能性はあります」
「分かっているなら、なぜ売る!」
俺は顔を上げた。
「殿。武田が塩を買うために使った金は、どこへ行くでしょうか?」
「何?」
「塩を売った商人です」
「当たり前だ」
「その商人は、何を買うでしょう?」
信長が黙った。
「布。米。鉄。道具。さまざまな商品です」
俺は続けた。
「交易が増えれば、尾張の商人にも利益が生まれます」
「だから敵に売ると?」
「いいえ」
俺は首を振った。
「敵味方を問わず売ることには危険もあります。ですから、取引の条件を決める必要があります」
信長は俺を見た。
「条件?」
「民間向けの生活必需品を中心に取引します。軍用の大量調達については、別に判断します」
「……なるほど」
「そして、もう一つ」
俺は帳簿を開いた。
「武田が塩を買うためには、何かを売って金を得なければなりません」
「うむ」
「交易が増えれば、武田にとっても街道の安全が重要になります」
信長は考え込んだ。
俺は最後に言った。
「戦争で街道が閉ざされれば、武田も損をするのです」
長い沈黙。
やがて信長が笑った。
「……お前は、敵に商売をさせて戦を減らすつもりか」
「はい」
「馬鹿げておる」
信長は笑い続けた。
「だが、面白い!」
俺は安堵した。
その時。
信長が突然、真顔になった。
「ただし、新太郎」
「はい」
「わしが武田と戦う時、お前の商売が邪魔になるなら?」
俺は答えた。
「その時は、私が戦争より儲かる方法を考えます」
信長は大笑いした。
「よし! やってみよ!」
こうして俺は、信長からも商売を続ける許しを得た。
だが、俺の商会が大きくなればなるほど、別の問題が生まれ始めていた。
商人たちが、俺の帳簿を欲しがり始めたのだ。




