日野桜という異常
大変遅れて申し訳ございません。
どうして君はいなくなったんだろう。別れ言葉の一つもなく。
桜が一つ舞い降りてくる。
私はそれを掬い取って、ふうっと飛ばす。それでも、桜の花びらは元に戻らない。わかってるけども、そうしてしまう。
後ろからきゃっきゃと元気な女の子達が桜を背景に写真を撮る。男の子は、最後の最後までふざけてる。私は途端に虚しくなった。みんな忘れてしまったのだろうか。日野桜のことを。
日野桜は少し変わった女の子だった。少しではない、大分だ。彼女を初めてみた時から、少なくとも私は感じていた。
私との会話の一言目はこれだ。
「あなた、ロクでもない死に方するね。」
「え?」
どこか見透かした目で私を見つめていたのを私は一生忘れないだろう。
「どういうこと?」
その瞬間、彼女ははっとして
「気にしないで。」
と曖昧な笑顔を浮かべて去っていった。
彼女は時々そんなよく分からない言葉を言いつつも、クラスの輪の中に上手く入ってた。
私は、実はぼっちだった。だって、周りと違いすぎたからね。それは置いといて。なんだかんだ時が過ぎていって、私と日野桜は六年生になった。そして、冬空に鈴が鳴るか鳴らないかぐらいの時にそれは起きた。
「きのりんのお母さん、大丈夫?病気っぽいけど。」
クラスを牛耳っていた女の子のお母さんがもう少しで死ぬことを預言したのだ。
「何言ってんの!!!桜ちゃん!!!」
彼女の顔は耳まで真っ赤だった。
「だって、もう少しで死んじゃいそうに見えたから。」
怒るきのりんを前にしても、一切動じない日野桜。
「ちょっと、冗談でしょ。流石にそれは、友達でも許せないよ。」
「本当だよ。だって、見えたんだもん。」
「嘘つけ!専門家でもないくせに、何がわかるんだ!!」
もちろん、きのりんは動揺した。
「そうだね。でも、本当なんだよ。」
その事件の3日後、きのりんのお母さんは息を引き取った。その後聞いた話によると、きのりんはお母さんがもうすぐで亡くなることを聞かされてなかったらしい。本当にしろ、どちらにしろ、きのりんの怒りや悲しみは収まらなかった。
「あんたが、私の母さんを殺したんだ!!あんたが、呪い殺した!そうじゃないと、あんな自信満々に死ぬ預言なんてできないだろ!!!」
きのりんは暴れた。
「お母さんを返せ!!!!!!」
泣き叫んだ。みんなどうしたらよいのか悩んでいたけども、最終的に可哀想に見えるきのりんの味方をした。そして、この事件の原因となった日野桜は
「そうだよね。辛いよね。悲しいよね。ごめんね。」
せつなそうな顔をしてきのりんを見つめていた。
「ホタル!一緒に写真撮ろ!!」
「うん。いいよ。」
桜が舞い散る中、わたしは友人と写真を撮った。
ピースをしてにこっと笑うけど、笑顔が引き攣って上手く笑えない。笑いたいけど、笑えない。泣きたいけれども泣けない。今のわたしはそんな状態だ。それはあの時の日野桜と同じなのだろうか。あの子にもそんな事があったのか。友人の大事な人が亡くなるという不吉な預言をしたのはきのりんのためなのか、それとも自分自身のためなのか。
「お、上手く撮れた!!ありがとう!!」
どうせそんな盛れていないわたしと写真をみてその子は笑顔になっていた。わたしは、作ったような笑顔でその子を送り出した。わたしは一体何をしたいんだろう。いや、何をすればよかったのだろう。わたしのこころには後悔しかなかった。
きのりんの事件が起きてから日野桜の生活は一変した。日野桜はもちろんの如くクラスの人達から白い目で見られて、保護者達からは気味悪がられていた。
クラスに居場所なんてないわたしはいつも図書館にこもっていた。図書委員という名目の元、好きなだけ本を読んでいた。本なんて借りる人はいなかった、はずだった。
「これ、借りたいだけど。」
「え?」
わたしの目の前には日野桜が立っていた。突っ込んでも何にもならないことは分かっていたから、黙って貸し出し手続きをする。
「はい。1月27日までね。」
何事もなく終えて私は読んでいた本に手をつけようとした。
「ちょっと待って。」
私は振り返った。
「あなた、バイトしない?」
「へ?」
その目はこの世界の真相を見透かしているようだった。




