9話 「ティモシー、ごわごわのコートを入手する」
──1週間が過ぎて。
いや、あの店主の説明が七日間続いたんじゃなくてね。
もう少し上の階まで潜ることに決めた。
銃を使った新しい戦闘スタイルも、武器屋で購入した銃も馴染み始めた。
購入した銃も、修繕に出した銃も文句なしで、修繕に出した方なんて驚くほど良くなっていた。
魔力の馴染み方から、通り方、手に持てば吸い付くようにしっくりきて、まるで別物だった。
驚いたと伝えると──
「──ふふ、一応ね、腕には自信があるんですよ」
と店主は穏やかに言った。
あとでマオマオに聞くと、あの店はフリージア都市連合(この国)の中で一番、高位探索者から評判がいい店の一つだったことが分かった。
マオマオも知らなかったけど、商人仲間に聞いてくれたらしい。
そんなにいい店だったなんてまるで予想してなかった。
客がまるでいないから繁盛してないのかと思ったけど。
マオマオがいうには……
「マオっ! 多分店主の腕が良すぎて一見の客より、修繕や、特注品を作ってもらう客の方が多いじゃないかなぁ。マオマオっ!」とのことだった。
なるほど。あれ、じゃあもしかしたら店員も多分雇ってるかも怪しそうだし。基本は店の奥で作成、改造、修繕とかしてるから、あまり客が寄ってこないのは好都合なのかも。だから店前が閉店してそうな雰囲気で中もセンスの悪いものが多く置かれてたのか? いや、こんなこと考えなくていい。僕の考えすぎだったら超失礼だし。ひどい言いがかりだ。
なんか納得した。武器の改造とかも、始めたら止まらなくなるのかな。なんかいい感じの表情で永遠に作業場にこもってそうな想像ができた。うん、やってそうだ。
結局武器はメイスとショートソード。さらに魔法のナイフをサブ武器に。
腰に2丁拳銃、背中にライフルという構成になった。
防具はゴワゴワのコートと革のコートを気分で使い分けてるけど、ゴワゴワのやつの方がいいかも知れない。これも店主のおすすめで買ったもの。
「特殊な塗装と取り付け型のポケットがあるし、そこに色々仕込めるよ?」 と言われたので素直に従った。
結局ゴワゴワの方の外套も店主に改造してもらった。お値段は80パワー。安いのか、高いのかまるでわからない。でも、多分安いんだろう。あの人がぼったくるとは思えない。むしろ格安でやってくれてる可能性まである。感謝しよう。
預けに行った時は正直危なかった。
(注*下の文は読み飛ばしていただいて構いません)
「やぁ、ティモシー。早速ゴワゴワコートに改造する気になりました? これはね、いいデザインですよね。自分でおすすめしといてなんですけど。こう言うデザインだと鎧の理想系みたいなのがもしかしたら作れるんじゃって思っちゃう。そう思わせてくれるところがいい。僕はあまり塔には潜らないけど、潜る時は今度からこっち系の外套にしようかな。理にかなってる気がするし、改造しがいもある。あ、ティモシーはマクラウドの鎧って知ってますか? 知らない? 古代に実在したと言われる伝説の鎧なんですけど。機能も伝説級で季節ごとに機能が変わったらしいんです。具体的には謎とされてるけど。でも温度調節みたいな、そんなチャチなもんじゃないといわれてるんですって。なんだったと思います? 僕の予想ではね…… いやその前にドラゴンと戦って無傷だったとかいう話があるんですけど、それは流石にないっていう前提で予想している。──それと、これは言わせてください。例えるてみると”返信”って小説が古典でありましたけど。ラブレターをもらってもないのに返信したら怖がられるし、おかしいでですよね。鎧も同じだと思ってて、需要が発生してないのに、それに対抗できる鎧だなんておかしい。初見でドラゴン相手に無傷っていうのは大分おかしい。普通はドラゴンを倒すために特別に作るでしょ? その時代でもドラゴンは希少だったらしいですから…… あ、小説といえば”薔薇細工の兄弟”は読んだことは? グノー帝国の作品だけどフリージアでも有名でしょ。知らない? あ、そうですか。いや、これも鎧に関連する例えにピッタリだと思うんですよ。まずね…… ”まずは、そう思わせてくださいよ。まるで普段と違う口調で心の中で声に出した”から始まる冒頭部分。ここで、いや、ここらへんはどうでもいいや。鎧に話を戻しますけどね……」
話を途中で隙を見て切って──逃げた。
このコートを預けに行った時は、ちょっと泣きそうだった。
止まる気配のなさに恐怖した。
なんだよ、まずはそう思わせてくださいよ。って。意味がわかんないよ、なんの話なんだ。
一定以上の熱量、もしくは知識というものには謎の怖さがある。僕は作家じゃないからそんな話を作品にすることもないけれど。あの店主はもしかしたら作家に向いているのかもしれない。
本という形式なら六時間でも彼の話を聞ける人間も出てくるだろう。
多くは脱落するかもしれないけど、多分。一人くらいいるよね?
意外と武具屋に人気の小説になる可能性もあるのかな。
*
そして、今日もあの武器屋の前に僕はいる。コートを受け取りに来たからだ。
「やぁ、ティモシー。ごわコート出来てますよ」
「──ありがとう。あ、そういえばこのナイフなんですけど……」
「──ん? それ、どこで手に入れたんです?」
マオマオからもらった例の魔法のナイフを見せると──
不思議そうな顔をしたマクベスが、首を傾げてから目を細めた。
「──ふぅむ、これは…… 古代文明のものかな」
「──古代文明?」
「うん。知ってますよね? 古代の文明のアイテムは僕たちより先を行ってたとか。文献や、まれに見つかる古代遺物が証拠だと言われてるって」
「いや、歴史には疎くて…… しかし、先を行ってたってことは、今の時代にはない技術があった?」
「あー、歴史に疎い人は本当に疎いからですからね。僕は面白いと思うけど。うん、そうですね。これは古代遺物の特徴を持った品ですけど。ただ模倣品や、それっぽく作った魔道具もあるから。なかなか機能が弱ければ判別はしづらい、僕は専門じゃないけど、もしよかったら今度また見せますよ。希少だし、興味深いから。しかし、綺麗な刀身だ、ピスタチオみたいだし」
「OK。あ、それ僕も思った」
*
店主のマクベスに「コートを受け取るまえついてきてください」と言われ。
店の裏手から、私有地と書かれた敷地に通された。
「えーと、どこに向かってるの?」
マクベスの背中についていきながら、聞くと──
「──ちょっと色々見せようと思って。すぐそこで色々実験できるから、ここは僕のテスト場なんです」
広い空き地にはターゲットが色々とある。塹壕のような掘りも。
ここで試射をしてるのか。
ゴワゴワの外套をターゲットに着させると、マクベスが落ち着いた笑みを浮かべながら──
「──さぁ、準備できた。じゃあいろいろやってみますね」
「────」
ボウガンとライフルを一つずつ片手にもって言った。
結果は素晴らしいの一言。
ゴワゴワコートのフードや首元にボウガンの矢を当てても、ほとんど傷つかない。ついてもかすり傷程度。ライフルも同様、まるで弾を通さなかった。
「いやぁ、すごいよ。これ……、銃も驚いたけど……」
下手したらこっちの方がすごいかも。と言う言葉を言う前にマクベスが火炎放射器を取り出した。消毒だ!という勢いで発射される炎。初めて生でみたけど、火炎放射器ってこんなに激しくてすごい迫力だったのか。
たっぷり20秒ほど炎を浴びせてからコートをみると、ほんの少し黒くなっている箇所があるものの、ほとんど無傷。
「──いいね! 見て! いい感じの防火性能だ」
「──す、すごいね」
戻ってきたゴワゴワの外套は最高に頼もしい性能になっていた。でも少し焦げてますけど。
*
塔に潜る時は(最初登ると形容してたけど、マクベスが潜ると言うのを知ってから僕もこっちにし始めた。たまにごっちゃになるけど)
武器に関しては多過ぎて変なミスをしないように距離と状況によって使い分けを決めた。
近接はメイスか、ショートソード。打撃と斬撃どちらが効きそうかで分けておく。これ二つ買ったのはただの気まぐれだったけど、実際にはいい判断だった。アルマジロみたいな兎魔獣や、岩人形みたいな魔物が現れた時にメイスがなかったらかなり面倒だったと思う。
他の探索者を参考にしようにも、3階以降ほとんど見ないし。アルマジロ兎や、岩人形を避けたり、逃げてきて、こっちにも注意を促してきたのしか見たことがない。基本戦わない相手なの? そういえば動きが遅いし、別に無理する必要ないのかも。
*
5階層に入ると塔の中が暗くなった。
遺跡の中に入ったみたいだ。むしろ塔の中としてはこっちの方がしっくりくる。
壁にランプが灯っている。ランプは金色だけどメッキが剥がれていたり、土色の汚れが目立つ。ずいぶん古いものに見える。壁は石造りで触れるとひんやりとしていた。
冷たい風がゴワゴワの外套の首元にまで入ってきて首筋を撫でた。
下の階より、気温が下がっている。
人口的な巨大遺跡の中のような雰囲気。
今までは雑草に蔦などが多くあったが、もう緑はない。
内部は狭い通路と広い通路が混沌と入り乱れ迷宮のようだった。
5階層で初めて見た魔物は──
嘴をガツンガツン! と地面に叩きつけている大きな鳥の像だった。
人間くらいの大きさ、荒ぶっている動く石像鳥。嘴が異様なほど長い、刀ほどはあるんじゃないか。そして質量はその数倍はあるだろう。頭の大きさも人間より一回りは大きく、羽を微妙に広げながら邪悪なキツツキのように地面を、ガツっ! ガツっ! とつきながら歩いている。
なるほど、これは確かにやばそうだ。
底層で活動している者じゃ、手に負えないかも。
あのファストリッチ以上に凶暴な匂いがする。どちらかといえば禍々しさで圧倒している。
石像鳥がこちらを視認した。
翼を広げながら歩いてくる。二歩、三歩と近づきやがて早歩きのようになった。剣ほどもある長大な嘴で突き殺してやる、という意思がはっきりともって距離を詰めてくる。
この石の体は刃を通さないだろう。それに、打撃武器が有効そうな魔物は大体遅い上に、攻撃性も低かったが、この魔物は低層で発見した二つの傾向を見事に裏切ってくれる魔物だった。
最初、ライフルで一発入れた。
命中した箇所から小さく粉塵が舞う。
それだけだった。
「──これはメイスがあって本当に良かった」
躱して、すれ違い様にメイスで顎を跳ね上げるように叩いた。
砂や埃が体中に付いているらしかく叩くたびにそれらが舞う。
一瞬、目を回したような挙動を石像鳥がとって、俺を見失ったように頭をキョロキョロと動かした。
「──脳があるのか? 脳震盪を起こしたかはしらないけど、頭を殴っていけば良さそうだ」
確かに斬撃や銃撃には耐性が高いようだが。
弱点は普通に頭か。
石像鳥の攻撃を躱わすのは簡単で、振りも予測しやすく。動きは単調だった。嘴を振り下ろすたび、通り過ぎて行く時、振り返る時、隙を晒す。
軽く叩いても脳震盪を起こす。
強打しよう。
降る瞬間、腕の細胞隅々まで魔力が浸透し、力が爆発したように増幅される感覚。
怪物の膂力で放たれた一撃で、石像長が沈んだ。頭部の一部が衝撃で弾け飛んでいた。
「──自分でやっといてなんだけど。すごい威力……」
でも、なんとなく分かった。
魔物を倒すと、いつも左目がカッと熱くなる。
特に大物や、まだ倒したことのない新しい魔物に左目の怪物は反応する。
さっさと喰わせろ!と、この怪魚が涎を垂らしているようだった。
なぜかそれに共感してる自分もいた。
何か自分の中にもう一人の自分が出来上がっていくような、そんな気もしたけれど。
そして自然だとも思った、強者が糧を得ることは。
当然のことだよね? 多分……
本当に? 心の中でそんな声が聞こえた気もした。
石像鳥の味は愉快で、香ばしく、濃厚で美味だった。
愉快だなんてなぜ思うのだろう。力に溺れてるのかな。
この時の僕にはどう思っていいかわからなかった。
石像鳥の亡骸を踏み砕く。
倒れた後は石の体は脆かった。
鞄にしまいやすい程度に砕いて……
大きすぎる部位を分けて採集する。交換所で美味しい場所が判明したら、今度からそこだけ持っていけばいいか。
「──よし、今日はここまでかな」




