8話 「ティモシー、恐ろしき武器屋に出会う」
銃身に亀裂を入れつつも。
僕って銃にこんなに適正あったんだ……
興奮していた。帰り道は、なんだかふわふわしていた。
これに関しては、あの瞳に住む怪魚の変な力じゃない。
そう確信できたから。ちょっと浮かれてたんだ。
前の世界ではずっと不器用に生きてきた。ここまで確信できるほどに得意なことや、適性を感じることなんてなかったんだ。
銃っていうものに、運命まで感じ始めていた。もっと銃を知りたい、使いこなしたい。
──そして翌日。
ギルドで銃士について聞くと……
「あのねぇー。銃はぁ、弱い人が使ったりぃ、弱い人に対して使うような武器なんですよぉ。わかりますぅ? 基本的に魔力弱者のものなんですよぉ。探索ではぁ、怪我しちゃったりした時にぃ、仕方なく銃に切り替えることが多いんですよぉ」
と例の受付嬢が教えてくれた。
……だが、鵜呑みにはしない。
この受付嬢のいうことは信用できないから。
したくない気持ちもすごくある。
だってせっかく自信が持てるものが、ようやく見つかったのに。
こんなに使えない評価だなんて。
でも、実際に探索では問題なかったんだ。もっと上の階層では通用しない可能性はあるけど。
「……よし、ちゃんとした武器屋に聞こう」
ということでマオマオに紹介してもらった武具屋を回ってみることに。
いくつかの店を回って一番銃に力を入れてそうな店にしようとおもった。
塔の麓の店も概ね悪くなかったけれど、毎週日曜日に蚤の市が開催される場所の近くの探索者御用たちの店店が並ぶ通りもチェックする。
角のほうに良い感じの店。
引き寄せられるように近づいていったけど、魔法のアイテムがメインの店だった。
「──うーん、銃には力は入れてなさそうだなぁ」
店を出て角を曲がっていくと──
外装が汚れていて、雰囲気がちょっと薄気味が悪い店があった。
そこも武器屋だが、そんなにいい店にも思えない。
ボロい感じの店から女探索者出てきた。
美人で、つい目を奪われた。
ホクホク顔だった。喜んでる、嬉しそう。背負ったリュックに何か入ってるのか?
もしかして実は穴場の店なのか?
女探索者はこっちを一瞬見て、うんうん。となぜかうなづいて去っていった。
上機嫌だ。やっぱこの店でなにかいいことがあったのかも。
中に入ると意外と普通だった。
壁にいろんな武器がかけられている。へぇ、変な形の斧がある、これ実用に耐えうるものなの?
いろいろあるけど。ライフルが結構あった。ここの主人なら銃士について良く知ってるかも。
ちょっと見た目の悪い武器が多いな。いちいち色合いとかも疑問に思うような商品が多い。
それに興味てきた武具屋では低価格で売られていたブランドの品が多い?
値段と壁にかけられた武具のデザインセンスに疑問符がつくけどな。
こんなセンスで店を構えて大丈夫なのかな? ここはさっきの通りよりだいぶ人通りが寂しいし。
だいぶ失礼なことを考えながら、キョロキョロと店員を探す。
「……すいませーん」
誰もいないようなので、一応声をかけてみると、奥から物音がした。
奥にいるのか。
カウンターには何に使うのか不明な、金属線をぐるぐる巻きにしたものが放置されているように置かれていた。
ガラスカウンターの中には弾薬。バックバー(カウンター奥の壁、タバコ棚)にも弾薬やマガジンがあった。
OK。弾薬は他の店より随分種類があるぞ。
あ、ちょっと待てよ。そういえばさっきの美人の探索者…… なんかガンナーな気がしてきた。
うん、格好とかいろいろしっくりくる。赤毛のポニーテールの美女ガンナー。
うわぁ、萌えるな。もはや燃えるかもしれない。さっき実写で見たのに脳内ではなぜかアニメ絵で再生される。自分のアニオタ加減にもやっとした。
ーはーい、今いきます。
店主らしき人の声が聞こえた。
何気なく、壁に立てかけられた商品を見る。
見たこともない形状の大斧。フルプレートメイルと外套が一体化したような鎧。船のオールみたいなライフル。盾に鎖と分銅の先にフックがついているもの。あとは先端の逆側に刃先のついたピッケルみたいなの。肉屋のフックみたいなのまであるし。
なんか、いろいろあるなぁ。変わったものが多いのは間違いない。
ーあ、お客さん。こんにちわ。
「──! あ、どうも」
メガネをした短髪の店主が出てきて話しかけられた。
明るい栗色の髪だけど、パグを連想させるような泥棒ヒゲ。
いい人そうなオーラがある。
「実は、かくかくしかじかで」
新人探索者で銃とライフルをダメにしてしまったこと。
銃はさわっててしっくりくるし、これからもできれば使いたい。
魔力がない人が使い手に多いらしいけど、僕は魔力多いみたいだし、そうすると本当に合わないのかどうか。
銃士に関することや。新しい製品。気をつけた方がいいことがあれば聞きたい旨を告げる。
「──あー、なるほど。銃士ね。ちょっとニッチなんですよね。魔力の大小は気にしなくていいですよ。あ、そのライフルですか? 壊しちゃったの」
「──そうです。銃の方はこれで……」
ふんふん、うなづきながら店主が見ていくと、途中で店主が苦笑いになった。
「一応直せますね。まぁ、新しいのにするのもアリですけど。どうします?」
「ええと、どちらがおすすめですか?」
「予算に余裕がないなら直しです。気にしないならどっちでも。あ、すぐにでも探索にいきたくて予備もないなら買いですね。直しの予約が結構あるので、早くても3日くらいは欲しいです」
「じゃあ、ひとまず直しと、購入、両方いいですか?」
「うん、いいですよ」
「ちなみに、魔力を無理に流して亀裂がはいっちゃったぽいんですけど……」
「あー、なるほど。一応、……ええ専門家としていいますけど」
「──え? はい」
「ええとですね。まず、この銃とライフルですね。まずはセットアップ。いや、そもそもが仕上げの段階からですね……」
「はい……」
「──すべてが間違ってます」
「──え? 全て?」
「たまにいるんですよ。銃なんて消耗品だと思って適当に仕事請け負う人」
「ああ、そういうことですか」
先ほどの苦笑いの意味がわかった。
「うん、そうですね。だからまず修復以外にそっちのほうもこっちでやります。それと部品もいろいろ買えちゃいますので。その分の値段は足しますけどいいですか?」
「はい、どのくらいになります?」
「うーん、100パワー上乗せで。ライフルの修繕は250かな。拳銃は35ずつ上乗せで、135ずつ。全部でええと、いくらだ……」
小型のタイプライターに似た計算機を取り出して店主が計算し始める。
「はい、620ですね。大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。購入はいくらになります?」
「まぁ、物によりますね。安いのならライフルで400P、ハンドガンは200からです。もう少し出した方がいいかな。おすすめでコスパいいのは450くらいです。けどお客さんは魔銃を使うといいかな。あなたの魔力の流し込み方で入った亀裂というよりは、そもそもがかなり酷い状態だったんですが、その場で魔力を込めて使えそうな魔力を実際に持っているなら魔銃ですね。弾薬はあとで見せますけど、もちろんそこまでかからないです」
「──ええと、魔銃って?」
多少圧倒されながら聞いていた。銃に詳しくなさすぎて頭にあまり入ってこない。
「魔力エネルギー耐性がある素材で作られた銃です。弾薬も通常の銃とは異なります。特殊素材でコーティングされているので破壊力は抜群です。ただし、専用のカートリッジに前もってご自分の魔力を注がないといけません。他人の魔力は使えません。銃との親和性が乱されるし、意味がないので。ちなみにおすすめはしないですけど、塔内で戦闘直前に魔力を込めたいならそういう用途の弾薬もありますよ。前の晩にこめるのが普通ですし、それを強くお勧めしますけどね」
「えー、そういうのもあるんですね。おすすめじゃないんですか?」
「はい、緊急時の魔弾は扱ってる店は少ないですね。別に扱えばいいのに。そんなに注文も面倒くさくないですしね。あ、オススメしない理由は……1つ目。自分の魔力を使わないで攻撃できるのが銃の利点の一つだから。これは魔銃のコンセプトと矛盾しますけどね。そのうちわかります。2つ目は素早く魔力を込めて使う弾薬は長持ちしないんです。だから本当にすぐ使わないといけない。魔力量に自信があるなら止めるほどじゃないですが、それでも微妙かな」
「魔力量はかなりあるみたいなので、使ってみたいかも。威力はどうですか?」
「威力は普通です。でも燃費が悪いかな。銃に負担もかかるし。込めてから30分立ったあたりから大体威力減衰しますが、マガジンも改造すれば込めてから2時間は持つかも。使い手にもよります」
「へぇ、修繕に出したライフルや銃はあまり良くない物だったんですか?」
「ええと。うーん状態は間違いなく最低でしたが、物自体は悪くはないかな、いや、でも……、うーん」
店主が何やら考え込み出した、目を瞑って唸っている。専門家のみが知る、様々な知識が逆に安易に答えられなくしているのかもしれない。
めちゃくちゃ詳しい人ってたまにこういう人いるよね。
でも、銃に関してはやっぱりこの店大当たりっぽいぞ。
「とりあえず購入するものみたいんですけど……」
「あ、はいはい! ええと、ハンドガンはこれ! あ、ちなみに予算は?」
「ええと、どうしようか。あ、魔銃のほうがたかいんですよね?」
「そうですね。安いのでも倍はしますね。ハンドガンだと最低400、ライフルなら1000くらいは行きたいですね」
「1800か、まぁ、なんとか大丈夫です」
「はい、それではハンドガンはこれにしちゃってください。こっちでもいいけど。値段は500pで、こっちは650ですね」
手渡された拳銃は、重みがあってひどく手に馴染んだ。グリップの素材が気になる。
グリップをまじまじと見ていると──
「あ、いいですね。そこはちょっと特殊で。本来のバージョンじゃなくて僕が練習がてら新しく発注したパーツで改造したんです。練習がてらなので、ほとんど値段は上乗せしてないですし、他にも多少手を加えてて。なので性能としてはその倍の値段の魔銃と変わらないですよ。だからこっちの高いのより良いのでそれにしちゃってください」
「ええ、そうなんですか? へぇ、なるほどぉ。えー、すごいな。しかしいいんですか? そんなの二つも……」
だんだん店主がマシンガントークになってきた気がする。
圧倒されつつも、ポーカーフェイスでしったかぶりながら相槌を打つので精一杯だった。
「まぁ、置いといても仕方ないので」
飄々と答える凄腕の職人らしき店主。
特に銃が好きなんだろう。武器全般かもしれないけど。
「修繕に出されたハンドガンの方もね。あれは魔物で例えると、ケーニッヒなんですよ。それでこっちの方は逆にスパーブリッツ」
「……へ? 全くわからないですぅ……」
あまりにも例えがわからなすぎて、不安になる。
「えぇ? そうですか? 例えって難しいなぁ。じゃあスポーツ用の騎乗魔物と野生の日常的に広い範囲を駆け回ってる魔物の違いかな? だってオオカミはウサギをたべるでしょ?」
「はぁ…… へぇ、そうなんですね。ライフルの方は……」
言ってることの意味が本格的にわからなくなってきたので怖くなって話を変える。
「あー、ライフルはですね。これみたいなお得なのはないですけど、これなんかいいかな。KX45ですけどね。これはケークスの東にあるガンマンの伝承がですねぇ、チリパピっていうガンナーが名付けをしたんですよ。魔物と銃にね。獲物と得物っていうわけですけど。再帰的頭字語っていえばわかりますかね? あのケークスがKXになったんですけど、元々は……」
「ひっ…… は、はぁ……」
こ、こわい。止まらなくなってきた気がする。何をいってるのかわからない。とうじご? ケークスがX? さいちてひ?
( ↓ * 以下のセリフは飛ばしていただいてかまいません)
「要するに、その時、頭かお尻にそのままつけちゃえってブレスメンが言って…… あ、これは銃床にじつは仕掛けがあって、隣接しているグリップからマガジンまで魔力が通っているんですけど。あ、バッテリーといえばいいですかね。銃床に入ってます、なくなったら交換もしますが、そんなには必要ないです。かなり長持ちするので、なくなったらこのネジが入っているように見える部分に穴、みえますよね? ほら、ここ。そこにこれで、極細のストローからマナを注入できる道具で入れるんですけど。10pくらいで店に来たらやりますよ。それで、その魔力が新しく入れた弾薬と銃の潤滑油のように作用してですねー、これがライフリングの摩擦を最適にしてくれます。まだ銃と使用者の魔力が十分に馴染みあってない時におこる過度な摩擦抵抗の問題をこれで抑えられるってことですね。要は使いやすいし、安定するまでが早いです。ほら、革のブーツとかも新品から使い込まないとでしょ。一緒にお風呂に入ってみたりして、これやったことあります? ほら、武器屋で武器を買った時に一緒にシャワー浴びたり。え? 武器ではしない派ですか? もしもし? 聞いてました? あ、そうだ。話をもどしますと、すぐに足に馴染むようにしたってことです。グリップにも魔力浸透を目的にした素材が使われてるので割と早いですよ。威力は大威力魔銃弾が使用できるので期待に添えるでしょう。これ以上の威力を望むなら、そもそも違う武器じゃないと。それと、こっちのライフルと比較すると、すぐに違いがわかると思いますが……。仮に、ちょっとへんな例えかもしれませんけど、コンセントの穴に鏡が付いてたら変だと思うと思うんです。普通はね、だけど実は全然変じゃない。なんでかって言うと、ドラゴンの牙は獲物を殺すためにあるんじゃなくて咀嚼するために、喉や胃のためにあるからって言いたいんですけど。伝わってます? あ、いいです。いいです。じゃあ、こっちの銃見てください、より違いが分かりやすくなりますから。昔セイレーンに恋したっていう兎の話聞いたことありますけどね。うさぎが発情しちゃって黄金の毛皮の羊をセイレーンのために探しにいったんだけど。性欲にまけて、その場にいた黄金の毛皮の羊に、その羊の毛皮をプレゼントしながら求婚したっていう……、そのウサギのアレにあやかって作られた名銃があるんですけど。「プレイボール」って名前の……、早撃ちするだけじゃない。その前から早撃ちは始まってるんだって。暴発兎のオペラとかで有名な、”要はデートに誘った時からすでに前戯は始まっていたのさ” っていうセリフがありましたけどね。あれは……」
ち、ちょっと。……ちょっと、ちょっと!
こ、この人、だんだん話が、止まらなくなってきてる気がしてきたけど。気のせいじゃない!
「あれ? 聞いてます? なんで傑作銃のプレイボールとベイビーメーカーが比較するのに最適な拳銃かってところまでははなしましたっけ? あ、じゃあそこからいいですか? 自分でも話が長くなっちゃって、あ、だめだ! 機能の拡張性のはなしでしたね…… あれ? なんの話からここまできたんでしたっけ?」
は? え? か、かう、かあうあ、拡張性……
そんな話してた? ていうかあんたまで忘れてるじゃないか!
アニメの話ならともかく。気が遠のいていきそうだ。
だめだ、本気で気分が悪くなってきた……
この10分後。立ちくらみを起こして、店内でよろけたところで失礼させてもらった。
ちなみに店主の名前は「マクベス」
腕利でナイスガイな武器屋だ。店主のしゃべりすぎによる情報過多でダメージを受け、ヘロヘロになりながら帰宅。
今度またあそこに、銃を受け取りにこないといけないんだよな?
そう思うと怖くて、ホテルのベッドの中一人ぶるぶると震えて眠ることになった。
──よくわからないことを永遠と話す人は少し怖いし、圧倒される。アニオタだった僕も他人事ではないのかもしれないけど。さすがにあそこまでではなかったと思う。
T・Nebula
深夜ホテルの部屋。
ランタンだけつけて、今日学んだことを日記につけておく。
武器屋の主人は、ぶ、武器よりも恐ろしかった。




