7話 「ティモシー、服と武器を見繕う」
「──マオっ、テモシー! どうだったー!?」
店前や、棚のランタンの灯りをつけていたマオマオが俺に気づいてトコトコとやってきた。
「──うん、結構よかったよ。ほら」
と言って、今日の収穫のメモを見せる。
「おぉっー! いいねぇー! マオマオっ!」
これなら問題なくやっていけるだろう。とマオマオが言ってくれた。
自分のことのように嬉しそうにしてくれる。いい奴すぎて感動しちゃうぞ。
ちなみに、毎日これだけ稼げると思うか聞くと、無理だと言われた。
良い具合にミイラ化する術があっても、毎日この量を納品してたら徐々に額は下がるだろうとのこと。
そりゃそうか。供給過多になり始めるまでは大丈夫だろうけど。
薬になるって言ってたし、薬用のミイラは週に2回くらいまでにしておこうか。
左目で食えば必ずミイラ化してしまうなら、出すしかないんだけど。ミイラ化させずに食うこともできる気もするし。
明日また試してみよう。結果としてはコツが要るが、実際出来た。
マオマオの店は20時に閉めた。
普段は17時までらしいが、週末だけ遅くまでやるのがマオマオ流なのだと言う。
ちなみに陽が沈んだら安息時間なので、低エネルギーモードでゆったりと仕事をするのがケークス流らしい。大陸の中央や西部ではまた違う文化らしい。
*労働をするべきでない時間 (医療は例外)
*低エネルギーモード:安息時間に活動するものが例外になろうとする際の言い訳。安息時間に活動するものが仕方なく生産的じゃない程度に仕事をした場合は許されることが多い。またその怠慢な仕事ぶりを避難してはならない。
店の閉めを手伝って、滞在先のホテルまでマオマオと一緒に帰った。
今日の稼ぎから、借りてたパワーを返そうとすると……
マオマオは助けてもらった礼だから返さなくて良いと言った。
しかし、こちらも返したいし、と伝えると「マオっ! マオマオの命は結構高いマオ!」と頬を膨らませながら言われた。
頑なに返そうとするのも、逆に失礼なので素直に受け取ったままにしておく。
僕はマオマオの命を助けてマオマオは僕の生活の基盤を作る助けをしてくれた。
それでいい。確かにマオマオのいう通りだ。
金はあるので部屋を10日分払っておくことにした。
飯付きではないけど、べつに構わない。外で食べてもいいし。
お腹はそこまで空かない。なぜかは知らないが、魔物を食らっているのと関係しているかもしれなかった。
ケークスの街の物価はそんなに高くはないし。
外食は一食6パワーくらいだ。自炊すれば一食2以下でもいけそうだった。宿は30で個室。相部屋ならかなりやすそうだった。所帯を持ってない市民たちは一戸建てをシェアしているものも多いらしい。多分ホテルよりは経済的なのだろう。平均収入は不明。
ちなみに税金は探索者の場合は資源交換所で自動で引かれているらしい。
これはわかりやすくて助かる。気にしなくていいのね。
前の世界もそうしといてくれって感じだ。
*
翌日もタワーに登る。
3階層までにしておいて、夕方前には戻る。
稼ぎは500。
次の日も3階層までにして、稼ぎは400。
1週間も潜ると慣れてきた。
稼ぎの平均は400くらい。
これだけ稼げれば、この世界でも心配ないだろう。
この辺りで生活の基盤ができた気がして、だいぶホッとした。
@@@
石造りの道を歩いていた。人が多く行き交っていて賑やかだった。
近くで蚤の市がやってるらしい。それが原因だろう。
僕はというと、マオマオに紹介してもらった店でポンチョを見て回っていた。
ポンチョは探索者で着ている人も多く、何かと重用しそうだ。
次は武器も廃墟で拾った棒が砕けたので見て回る。
武器屋を回ると、短剣、剣、直剣、曲刀、槍に、弓、ボウガン、拳銃まであった。
とりあえず、ポンチョを見つけたのでそれだけ買って帰る。
この世界は技術レベル的には近代、19世紀くらいか。
人類の発展の歴史には疎いからわからないけれど。蒸気機関もあるし、連発式のリボルバーもある。自動車や、スマホはない。テレビやPCはもちろんない。移動は馬や、手なづけられた騎乗系の魔物などが目につく。
砂漠の街だけど、意外と過ごしやすい。気温も21度くらいか。日差しがちょっと肌に痛いけど、日本みたいに蒸し暑くもないし。
街中では元いた世界では存在しないような動植物を稀にみる。ペットのように動物を連れている人間もいる。
あとでマオマオに聞くと、それらは使い魔だといわれた。
使い魔:人間と契約を交わした魔物、もしくは動物。契約内容は多岐にわたる。契約は高難度で、熟達した魔術師や、祈祷師、呪術師でなければ難しい。さらには使い魔との相性もある。使い魔を持つ探索者は全体の1%から2%ほどだと言われる。内、殆どは中級以上の探索者。
*
新しいポンチョに身を包んでギルドで塔情報を見ていた時。
「あのぉー、ちょっといいですかぁー?」
あの受付嬢に声をかけられた。
「なにか?」
「えぇ、もぉー、そんなに構えないでほしぃですぅ……」
「ああ、わかりました。それで?」
なんとなく警戒しながら要件を言わせようとする。
「あぁー、あのぉぅ。この調子で採集したものを納品していくならカードを更新しないといけないのでぇー、それだけお耳に入れておこうってぇー」
「カードを更新?」
「はいー。あ、ポンチョ似合ってますねぇ、いい男ぉ。やっぱり魔力量多いんからかなぁ。実力者はオーラあるからぁ、似合うんだぁ。いいなぁ」
「いや、ありがとう。それはいいんですけど、更新って?」
突然褒めてきた受付嬢に警戒レベルを引き上げながら返した。
「あー、はいはい。せかさないでくださいねぇ、言おうとしてたんでぇ。」
「ああ、わかった(ほっ、よかった。いつも通りうざい)」
「えぇとぉ、カードは探索者の格によって違うので、この調子だとネブさん? ネビュラさん? でしたっけぇ。あなたは、えぇとぉ。どれだったっけなぁ、あー、今ブロンズなので、飛ばしてゴールドになりますねぇ」
とりあえず、話を聞いてみると──
塔探索者の格について説明してもらえた。
代表的な格。
ブロンズ、シルバー、ゴールドがある。
ブロンズ=銅級が最下層を中心に活動するランク。
シルバー=1階層から3階層を中心に活動。
ゴールド=3階層から6階層で活動できるもの。
ブロンズ、シルバー、ゴールドが塔探索者の7割を占める。
その後、プラチナ、タワーウォーカーがあり、タワーウォーカーが最上位の塔探索者らしい。
今の俺はゴールドに近い活動をしているらしく。近々カードを更新することになるとか。ちなみに探索者的にはメリットしかない。買取価格や、税金の優遇。旅券も強化される。プラチナになると家賃補助まで各自治体から出るらしい。場所によってはシルバーやゴールドでも家賃補助を出す自治体もあるとか。
交換所でどんなものを納品しているかによってポイントが加算されて、それが一定数溜まると格が上がるのだが、俺の場合はあと一月でゴールドになるようだった。ちなみに安定してその成果を上げれるかが重要なので、これ以上の速度で格が上がることはあまりないとのこと。どれだけ早くとも一ヶ月。
「へぇ、じゃあ僕が10階層以上に潜って納品してたら?」
「そぉしたらぁ、プラチナでしょうねぇ。無理でしょうけどぉー。調子に乗らない方がいいですよぉ? 大体ねぇ、みんなそうやって大怪我して引退するんですよぉ。デブラさんとかぁ、典型的な感じぃ?」
「そっか、気をつけておきます。それとネビュラね?」
「あー、ネブラさんですねぇ。覚えておきますぅ」
相変わらずイラッとさせる才に恵まれている女だ。
とりあえず、武器も一通り買ったので今日は3階層で武器の使用感を確認していくか。
@@@
──砂漠の塔。
3階層まで登るのも慣れた。
びっくりしたのは本当に塔は数日ごとに内部が変わるってことだ。
大人しく内部構造をそのままにしておいてくれないなんて、どんな不思議建設物なんだよ。
意味不明なローグライクタワーに恐れ慄きつつも、異変があれば、安全そうな位置でいつでも動けるように準備するか、出口が近ければさっさと帰還するかしなければならないのを学んだ。
階層移動ポイントに関しても、一応パターンがあるみたいで慣れると当たりをつけるのが少しは楽になってくる。
大体階段か上へと続く坂道があって、稀に上階へと登っていける壁と壁の上の亀裂や穴がある。階段から上がった時は出た場所が北なら南に次の階へと続く道がある時が多い気がするとかね。
壁と穴から登って出ると、その周辺はおいしい鉱石や魔物が多い気がする。気がする、気がする、ばかりだけどここら辺はマニュアルにも載ってる話でもないから仕方ない。
要は経験を積むしかない。
塔内部は謎の空間で外の面積とまるで辻褄が合わないほどに広い。
この世界の市民たちはそんなもんでしょ、という具合で慣れているみたいだけど僕は驚いたよ。
一階層ずつが、ケークスの街並の半分はあるような広さなんだから。
どのくらい面積があるだろうか。
20㎢くらい? 僕が探索で進んでいく速度は平均して散歩よりも遅いくらい。
地形は洞窟みたいなところから、草原のような場所や、湿地まである。時速2、3キロくらいで進んでいると思うけど。草原エリアに階段や上階の入り口があることはほぼない。
亀裂から光が差し込んでくるだけで、壁の亀裂や、地下(下の階層ではなく)へと続く道にはいって違うエリアにいかなきゃいけない。その入り口自体が見つからなくて立ち往生したり、迷ったりすると一気にタイムロスしてしまう。
マッピングが上手くいかない時や、運が悪い時は一階あがるのに1日近くかかる時もある。魔物よりも地形の注意がギルドでも多かったけど、地形は本当にやっつけられない相手だってことを実感した。
魔物に関しては今のところ問題はない、といっても危ない時はあったけど。
幸い泥濘には出会ってない。この先も見かけても近づく予定もないけど。
今回は武器屋でちゃんとした武器を買ってきたので、試運転みたいなノリでやってきた。
武器屋で見繕ってきたのは、ブロードソードと弓。そして拳銃とライフル。
槍も良さそうだったが、タワーは狭い通路もある。リーチが欲しいなら弓や銃でも良さそうに思えた。ただし弾丸などの類は距離ごとに込められた魔力が減衰してしまうから、威力は近接武器と同じではない。魔力もその場でじゃなくて予め込めておかねばならない。
でも別にいいんじゃない。と思ったので問題が起きるまでは使ってみる。現代人の僕としては銃のほうが現実的な武器に思えたのもある。
3階層、休憩用ログハウス付近で、兎の魔物を発見。
咄嗟にナイフに魔力を込めて投擲。
兎に突き刺さる。が、そのまま兎が逃げだそうとしたところを腰の拳銃で早撃ち。
「──よし、命中」
我ながら驚異的な反応と精度だった。
銃適正が高いのかもしれない。恐ろしく簡単に感じる、こんなもんでいいなら余裕だぜ? と遺伝子が言っているような、深い部分から自信が湧いてきていた。
「──僕、……銃の才能あったんだ」
銃とは無縁な人生だったからな。知らなかった。
「……一応ライフルも試そう」
魔物が見つかり次第ライフルを試す。
これもしっくりくる。
「拳銃、ライフルは決まり。弓はどっちでもいい。これも剣よりも向いている気がするけどな」
特段相性が悪い武器は見つからず。今持ってるものを訓練して慣れていくか。
この世界の魔物は魔力の防護フィールドに包まれている(人間も)
弾丸を打ち込んでも威力は減退する。直接体に触れている武器などの方が伝導効率みたいなのが良かったりするんだろう。実際、探索者たちの間ではガンナーはマイナーなスタイルみたいだった。
「──これで行くなら弾薬の加工なども自分で始めないとかも……」
ちなみに翌日には銃とライフルに魔力を無理やり流し込もうとして、亀裂が入り、ダメになった。
「──ぐ、買いに行かないと……」




