6話 「ティモシー初めての塔探索」
「えーと、ここら辺がマオマオが店を出すって言ってた場所なはず……」
「マオマオー! テモシー! こっちだよぉー!」
マオマオが店の中から手を振っていた。
店には雑多な商品が所狭しと置かれていた。
「──これ全部商品? どこから仕入れたんだ?」
「──マオっ? 前から持ってるよ! マオっ、旅したり、都市移動する時は次の街へ前もって送っておくんだよ。倉庫も借りてるマオっ!」
なるほど。輸送手段はあるのか。ま、そりゃそうか。
ナチュラルに異世界文明を見下していたかも。
「荷物と一緒には移動できないの?」
「できるけど、生き物がいない方が輸送が簡単で安いなの!」
なるほど。
知らなかった。
確かに前の世界だって、そんな感じだったかもしれない。
マオマオに塔に行ってみようというと、これを持っていけと言われる。
「革のジャケット、ハットと魔法のナイフ。マオっ!」
結構防御力が高く、いいものらしい。マオマオが渡してきたナイフでジャケットを刺してみると、確かに刃が通らない。ハットも同様。
「──おお!」
魔法のナイフは、紫と緑、ピスタチオみたいな色合いの歪な形のナイフでマオマオが昔、北方にある「遺跡の塔」のフリーマーケットで見つけたものらしい。当初掘り出し物だと思ったが、起動方法がわからず、普通のナイフとしてしか使えないらしく。倉庫で眠らせていたものらしい。
「普通のナイフの値段で売りたくないから、取っておいたマオっ!」
「──でもいいの? 僕がもらっちゃって」
「──うん!恩人だからいいマオっ!」
メンテナンスがいらなくて、それなりに切れ味がある。所有者の魔力をこめると、多少は攻撃力が上がるらしい。魔力を流す感覚はその場でわかった。
あとはリュックを背負って、──塔へ出発!
装備は、廃墟で拾った棒とマオマオのくれた希少ナイフに上等な外套とハット。
所持金はマオマオにもらったお小遣い。正直何から何まで世話になってる。
ありがとう、マオマオ。
500パワー。多分アメリカドルなら200から300ドルくらい?
日本円なら5万円? 多分、そのくらいだ。
ここらの通貨は「パワー」らしい。
改めてマオマオに礼を言うと、もしいずれ5階層以上に行くなら、マオマオあてに指定した特殊なキノコと、水晶を優先的におろして欲しいと頼まれた。
もちろん了承。
砂漠の塔は、横幅もかなりあって運動競技場ほどに大きかった。
塔自体は外から見ただけでは、何十階あるのかもわからないが、上半分に亀裂が入っていて上部が真っ二つになっていた。上の階の4分の1が刺股のように分かれている。
巨大なY字の塔。分岐している部分が雲にかかっている。
麓でつくと、塔を囲うような形でいろんな店がやっていた。飲み物に、出張治療院みたいな場所に、串焼きや、スープ。鉱石やら薬草やらの交換所かな。それに魔物の買取と解体場みたいな場所も。この場で解体するというよりは、多くは冷却する大きな釜戸みたいなところに放り込まれていた。
「あれで、冷却していくのか。その後に解体するか、どこかに輸送するのかな?」
塔の入り口は大きな扉で半開きになっていた。その周りに探索証をチェックしている職員のような男たち。みんな探索者ギルド関係の人と役所の人たちかな。共同でやってるみたいだった。
探索者証を見せていると、入れ違いの人混みの中にサットがいて、親指を立ててきた。
(頑張れよ、新人)みたいな感じかも。こちらもサムズアップすると、サッとがうむ、って感じでうなづいて去っていった。
ふぅ、ちょっと緊張するな。
足を踏み入れて扉の中に入っていくと──
──中は蔦で覆われた遺跡の中みたいだった。
少し暗いけど、天井や壁の亀裂から光が差し込んできていて、美しかった。
大体数日に1回のペースで塔は、内部の階段や、休憩施設の位置が変わるらしく。
それを「塔内部地殻変動」と呼ぶらしい。大体みんな地殻変動とか、内部変動って呼ぶみたい。
地図は信頼性の低いものしかない。それに嘘の地図を売る輩もいる。
マッピングってどうやるんだよ。やったことないよ、こんなの。
あ、普通にサットとかに聞けばよかったじゃん。やらかしたー。バカだー。
マッピング用の紙だけ購入したので、”とりあえずやってみる”の方針で1階層を回っていくことに。
──探索し始めて、数分。
差し込んでくる陽光の中で動くものがあった。
遺跡の亀裂からはいる光の筋。床に光が反射している。
そこに鶏のような魔物。
「──雄鶏? いやちょっと見た目が違うか、それに、鉤爪が、火喰い鳥みたいに……、って、おい!」
こちらをみるなり、怒り心頭という具合でかかってくる。
「──おい、僕は未だ何もしてないぞ!」
(まだ、だろうがっ!)
というような感じでとまらない。
避けながら蹴飛ばすと、「したじゃねぇかよ、たった今っ!」という具合に、さらに怒ったように羽をばたつかせながら方向転換し、クケェー!! と鳴いて突進してくる。
「おいおい、塔の魔物ってどれだけ凶暴なんだよ! ここまで攻撃性たかいの!?」
*
棒を振る腕に力を込めると、鞭のようにしなる。
まるで自分の腕じゃないようだった。
凄まじい速さ勢いで鶏の頭に当たると一撃で魔物が沈んだ。
また左目に喰らわせる。
ググ、ギュル、ギュル……
鶏魔物が干からびていく。まただ、また力が増していく。
口の端が吊り上がる。原因は快楽だった。
すごく気持ちが良かった。
力を奪い、我がものとする興奮と悦楽。
存在として完全に勝利した上で楽しむ甘美な報酬。
喰らうたびに、愉快でたまらない程の陶酔状態に入る。もっと、寄越せ。もっとだ。僕の贄にナレ。それ以外にお前の存在価値などない。もっと、血を滴らせろ、もっと食いごたえのある贄を。腹が減る、飢餓を……
はっとして頭を振る。冷や汗が滲んでいた。
「──チッ、はぁ……、何考えてんだ。無職を免れそうなだけで、まだ自分の家も住所もないんだぞ…… 調子にのるなよティモシー」
「まずは、生活の拠点や基盤を気づかないとだ。それにこの力……、飲まれちゃいけない気がする、ちょっと怖いし」
淡々と魂に巣食った何かを無視するかのように、切り替えることにした。
@@@
──3時間後。塔3階層。
休憩地点のログハウスには誰もいなかった。
誰が建てたんだろう。内部地殻変動が起きたら、これも破壊されたりするのか?
今日はこれ以上階層を上がるつもりはなかった。
1週間以上潜る探索者もいるらしいけれど、初日でやることじゃないだろう。
ログハウスの中、持ってきたパンフレットを確認していた。
塔内で取れる資源の種類など。
採集可能資源は……
植物系。魔物系。鉱石系。
この数時間で取れたのは……
・植物資源:光苔、タラチの芽(赤)の種子、月夜のベイリーフ、上質なポポ茸
・魔物資源:魔鶏のミイラ(全身)4羽、猪牙兎のミイラ2羽、幻惑鱗粉毒蛾1匹。
・鉱石資源:月曜石、日曜石、ラヴァーズ・アイ。
悪くないと思うけど、いくらになるか。
ちなみに植物資源はよほど希少じゃない限り種子はいらないらしい。塔以外では育たないものが取る価値がある。
今度からは気になったものだけ採取しよう。
ポポ茸はお小遣いにはなる程度のものらしいからよかった。
ログハウスで、少し休んでから帰還。
帰り道はマッピングしてきたおかげもあって、1時間半ちょっとで帰れた。
マッピングは最初少し間違えたけど、掴めてきた。
塔の入り口の交換所に、採集資源を並べていく。
「おぉ、兄さんいいね! ミイラはどうやったの? 肉はダメになるけど、薬になるからな。もっと高く買取できるぜ」
「──まぁ、色々ね。どのくらい良くなる?」
ーんー、そうだなぁ。魔鶏は新鮮で処理が丁寧なのを1羽丸ごとなら、40パワーかな。普通の鶏と比べりゃやはり高いよ。養鶏もできないし。それでこういう感じでのミイラ状態なら6、いや70出してもいい」
「──じゃあ、70で。ありがとう」
ずいぶんあっさり言うが、本当はその倍とかじゃないよな? まぁ、判明したら違うやつと優先的に取引すればいい。今は信じよう。
のちに調べてみると、交換所でぼったくる商人はほとんどいないらしく真っ当な額だったので杞憂だった。疑って申し訳ない。
「──あいよ、じゃあ。全部で──」
「──魔鶏70が4羽で280。猪牙兎が2羽で160。幻惑鱗粉毒蛾は状態がいい。これは200以上。それと植物は全部合わせて40。鉱石はラヴァーズ・アイが120。他のは合わせて40かな」
「ラヴァーズ・アイってこの石は何に使えるの?」
「これは魔道具の素材として重宝する。結構希少だから職人が喜ぶんだ。月曜石とかも悪くはないけど、恋人石よりは安いね。よく出回ってるし」
*ラヴァーズ・アイ。通称:恋人石。
これはとっておくことにした。
初探索の記念だ。合計は800とちょっと。
個室で宿を取ると、大体40するらしいから……
「…………」
結構稼げたぞ。え、結構稼げたよ?
まじか。ちょっと待て。日給8万円? 英語教師だった時の自分に同情するわ。地獄のような仕事じゃないけどさ。
こんなに稼げるなら、税金関係も聞いておかないとまずいかもしれない。
時刻は18時過ぎ。
ギリギリ日はまだ沈んでいなくて、地平線のオレンジと藍色の夜空が綺麗だった。
マオマオの店に行くと、灯りをつけ始めていたところだった。




