4話 「砂漠都市にて、塔探索者登録」
いぬだぬきを助けると、礼を言われた。
言語がなぜか通じる……。意味がわからない。もう思考停止しとこう。
「マオぉっ! ありがとぉ!」
「──ああ、いいよ。お前は安全だよね?」
謎の生き物だけど感謝してくれてるし。
「──マオ? マオは、今アンゼン!」
「──僕が助けたからね。ごめんね、お前が僕にとって安全か聞いてたんだけど。僕が聞くのも変だったね」
「──マオ? マオはよくワカンナイ!」
「──気にしないで。それよりなぜ追われてたの? あれは動物?」
「ファストリッチは危険! 爪でシャー! する! 動物じゃなくて魔物!」
「──魔物……。お前は何してたの? 追われてたけど」
あの魔物、ファストリッチっていうんだ。と思いつつ聞くと——
「──マオ! マオは旅してた! 世界で一番キレイな絵を見に行くの!」
「──マオが名前なの? 絵を見に行く旅?」
「うん! マオはマオマオ! お仕事はタワーの麓で商人やってる!」
色々と情報が集まってきたがもっと聞かないと、何も分からない。
質問攻めにさせてもらう前に——
「もっと色々聞きたいんだけど、ちょっと待ってて」
左目で、ダチョウもといファストリッチを喰らう。
さっきからギュルギュルと早くしろと、うるさくて敵わなかったし。
喰らうときは、咀嚼するようなリズムで眼球の中のものが動く。一口食べるごとに自身の中の深い部分に何かが作られていくのがわかる。左目の奥が熱を持って、その熱を僕の深部にまで届けているみたいだった。無意識に自分も咀嚼するように動かしていた。
食ってしばらくは眼球が熱いままで、これは勝手に冷却されるまではほっておくことしか出来なかった。
「……マぉぅ?」
喰らい終わってマオをみると、不思議そうに首を傾げながらこちらを見ていた。
「──ねぇ、人間は本当に人間? 名前は?」
「──そりゃ人間だよ。それに名だってあるし」
そこまでいったところで、俺が俺の名前を言うという至極自然に繰り返されてきたことがが、なぜか途端にバカらしくなった。
こんな不思議生物に自己紹介している自分。
怪物が潜む左目で魔物を喰らっている自分。
なんとなくもう理解していたんだ。
ここは元いた世界じゃないって。
結局これはファンタジーな夢でもなんでもなくて、僕は異世界にいるんだって。
「マオっ、ニンゲンの名前は?」
「──さぁ、何だっけな」
「マオ? ニンゲンは名前ないの?」
「……ティモシーだよ。でも、そのうち捨てることになるかも」
「マオっ! 名を捨てる? なんで?」
「──ただ、すっきりしたいんだ。できる限り白紙に戻したいんだよ」
なんとなく、その時浮かんできた言葉はそれだった。
*
というわけで、丘陵地帯をマオマオに案内してもらって砂漠へ出発することに。
命の恩人ならタダだと言ってマオマオが砂漠のタワーまで案内してくれることになったのだが。
(いや、タワーってなんだよ!)
(元の世界へ案内してくれ!)
(なんで砂漠なんだよ! もっと過ごしやすそうな場所へ行きたいのに!)
とか色々言いたいことがあったのだけど。
何だかんだ、ついていくしかなさそうだったので従った。
というのも「タワー」なるものが、この世界にはあって——
それは、マオマオ曰く。
・タワーは豊穣そのもの。
・タワーからは資源が取れる。
・タワーの近くには必ず都市がある。
ということ。いろんな土地からやってきた住民が多いので、僕のようなのはタワーのある街はおすすめらしい。
昔のゴールドラッシュみたいなものかと思った。
まぁ、金山だと思えばいいかと思ってたら「タワーの魔物がー」とか言い出したあたりで、金山兼ダンジョンらしい事も判明したのだけど。
ということは金山があればツルハシや、道具が売れる、飲食店、食呂品店に……、視察にくるお偉いさん相手のホテルなどもできてたりするなら、そのまま街ができるだろうが。そうか、学校や保育所、病院もだ。
魔物がいるとなると、武具屋もか。
ちなみにこの世界の人間や知性ある動物は魔法も使えるらしい。魔物は普通の動物よりも魔力を内包しているものの総称だとか。凶暴なものもいれば理性あるものもいるという。いきなり襲ってきたり、攻撃性の高いものとは話し合えるとか、誤解を解けば、などとは思わない方がいいとも言われた。
マオマオは触媒がないと魔法が使えなくて、ファストリッチに襲われた時に落としてしまったと言った。
触媒なしでも使えるやつもいるらしいけど。
それは立派な魔法使いのみ。
「マオマオ! ということでテモシー。街に連れてくから護衛もオネガイ!」
と言ってきた。
「──まぁ、僕も人里には行きたいし。護衛なんてしたこともないけど。なんとか、やってやるさ。それとテモシーじゃなくて、ティモシーな」
*
犬だぬきのマオマオと一日歩いて岩石砂漠地帯に入った。
3時間ほど歩くと砂丘系の砂漠になったが、そこは1時間で通り抜けて、再度岩石砂漠に。
そして見えてきた。
「テモシー! ついたマオっ!」
オアシスが遠くに見えた。厳密にはまったく着いていないけど……
緑地が多くなって、そのオアシスとともに街があり、その街の右手に──
──巨大な塔が聳え立っていた。
見た目は人工物だが、大きさはも見たことがないレベルだった。
東京タワーの数倍はあるだろう。横幅もだ。
見た目は古代の神殿を塔にしたような感じ。
「──マオマオ。あれがタワー?」
「マオマオ! うん! あれが砂漠の街ケークスのタワーだよ!」
そういうとマオマオがスキップするように歩き出して、「早く行こうよー!」
と急かし出した。
この愛らしい犬だぬきの商人はタワーが好きらしく、テンションが上がって早足になっている。
ていうか元気だな。戦闘はできないけど、結構体力がある。
駆け出していってしまいそうなマオマオに置いてかれないように、早足で門まで行くと……
槍を持っている門番が数人いた。
通行証を確認している。
かなり雑な仕事で1秒にも見たない時間でさっと見て、「行ってよし、はい、行ってよし」と言っていた。
マオマオが門番に俺のことをゲストだというと、手帳から一枚紙を破って、それにスタンプを押した。それをマオマオがもらって俺に渡す。
「これが身分証明証ね! 滞在中は無くしちゃ、ダメ! これで三ヶ月分だよ。マオ!」
「──ふぅん、そっか。気をつけよう」
パスポート的な何からしい。
@@
>>「ギルド・デザートイーグル」
「──ここがギルドか……」
──砂漠の街ケークスの酒場兼ギルド。デザートイーグル。
その入り口、看板前に突っ立っていた。
「──ちょっと緊張する……。大丈夫かな」
マオマオの滞在するホテルに一部屋とってもらえたのはいいけど。元いた世界とはまるで違う世界なことだけは理解しつつ、これからどうすればいいのか分からなかった。
この世界にはやはり見た目は自分と変わらない人間がいて──、それに関してはほっとしたのだけど。マオマオみたいなぬいぐるみ属性の生き物だらけだったらどうしようとも思っていた。
でも僕って異世界人なんだよな? 常識とかなさすぎて、ヤバいやつだと思われないかな。心配事は尽きない。生活の基盤はどうすんだ、とか……。
正直にマオマオに行く宛がないことをいうと、ファストリッチを倒せるならタワーで稼げるよ!と教えられたので、ギルドに登録しにきたんだけど。
「緊張するなぁ」
受付のお姉さんのところに行く。
見た目はいいが、いやに舌っ足らずに話す女性だった。
「えぇー、困りますぅぅぅ。タワーで実績ないのに、登録したいと言われてもぉ……」
女が喋り方と同じように、くねくねしながら喋る。
ていうか新規登録に実績必要なの? そんなことあるか?
「商人のマオマオからここを紹介されて……」
「えー、誰かなぁ……、マオマオさんぅ? んー記憶にはないですねぇー」
「実績がない人は、普通どう登録するんですか?」
「えぇー、そんなんも知らないんですかぁ? なんだかなぁ、普通はぁ、人の紹介でぇ……」
まんま紹介されて来てるでしょ! という言葉を飲み込んで、話を聞く。
「滞在証ならあるんですけど……」
「ええ? 滞在証じゃ意味ないですよぉ。それでもってぇー、まぁ、慣習的にいぃ、慣例的にぃ、どっちだっけ? ……とにかく紹介状か何かないとぉ……」
「ちょっと紹介状をもらえるか聞いてきます」
「あー、多分無理ですよぉ? だって最初から渡してくれなかったんでしょぉぉ? やるだけ無駄ですからねぇー?賭けてもいいですよぉ?」
無視して、マオマオの元へ行く。




