↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/31

27話「プロジェクト・ウッドペッカー2と新時代の幕開け」

 




 ドリアン・セラード大佐。


 シスタぁん! 惚れてまうですぅ! 

 金の話になったら目の色変えて協力してくれるシスター! そんな貴方が好きでーす! 

 バルク少将は、この未曾有の災害で、もはやケークスにはこれまい! 

 我が隊はここで全滅! いや、港から帝国領目指して船旅でもさせときましょうか!


 そうだ!その途中でこのドリアン・セラードにより本国のために持ち出された巨額の富は行方不明となる! それでいこう! よっしゃぁい! お金持ちったら、お金もちぃ! 


 前を走るシスターの走るたびに揺れる乳房を心眼で想像し感じつつ、魅惑的な臀部も同時に睨みつける。ああ、オクタビアにいくら貢いだらお尻を触らせてくれるのでしょう! シスターは? シスターはいくら? もう今聞きたい。


「シスター!! いくらでおさわりさせてくれますぅ!?」


「キモい! 近づかないでくださいっ! それより急ぎますよ!」


「はぐぅ! ああ、でもその通りですぅ。それとオクタビアの件たのみますよぉ!」


「はい、任せてください!」


 ケークスの価値あるものは塔の横にある資源倉庫と、ロンデレ邸の地下宝物庫に運び出してある。一部はオクタビアとともに軍の息が掛かっている部隊に預け、港に向かわせた。



「よっしゃ! 駱駝鳥を名一杯連れていきますよ! 何匹必要ですか!?」


「はいぃ! ここに居る全てでーす!」


 ※駱駝鳥:運搬に優れた魔獣。駱駝のような顔にコブの馬型魔獣。肩に小さな羽があることから鳥と名付けられているが、馬の魔獣。顔はラクダに少し近い。


 100頭近い駱駝鳥をノリノリのシスターMと阿吽の呼吸でチームワークで列を作らせ、連れて行く。もはやドリームワーク。これだけの富を持ち出すための輜重部隊が無いんですよぉ。だからこそ、とにかく間に合せでも魔獣を使わねば!


 混乱している兵達に、指示も出していく。


「ロンデレ邸周辺と西の区画だけは死守しろっ!死ぬ気で守れ! それ以外は抵抗する振りで構わん!いいな!?」


 西口から逃げるんだから、そこは絶対死守します! 


 屋敷の前に列をなした輜重部隊(しちょうぶたい)。1000人の精鋭とその倍以上の輸送用魔獣を連れてきた駱駝鳥を渡しつつ、通り過ぎていき、地下へ入っていくと巨大な扉が見えた。


「シスターのみついてきてください。ホホ、お前たちは入口に」


 二人きりでしか話せない話しもありますしね。


 数十センチもある鋼鉄製の扉を開けると金銀財宝。美術品から歴史的な宝物まで。これらに関してだけはフリージアの議会から即刻こちらに差し出すようにと再三に渡り、クレームが来ていたらしいですけど。もちろん無視するように指令が来ていましたが、まさか自分のものになるなんて! 人生って最高!


「それにしても、⋯⋯ここの富は。途方もない量の金塊は、すごいですね」


 シスターが言った。 


「ええ。コレのために駱駝鳥がいるのです。普通の魔獣では金塊50トン運び出すのに、積載量1トン以上は難しい。特にここからですと。西ケークス港までに未舗装の道が多すぎます」


「⋯⋯駱駝鳥なら?」


「2頭立て20台で行けます。未舗装の道路でもね。まぁ、といってもそれ以外の宝物は金よりかさ張りますからね。どのみち荷馬車は500台以上必要でしょう」


「それで足りるのですか?」


「まぁ、理想を言えば1000台でも1500台でも欲しいですけど。気にしなければいけないことが多すぎますし。それにね、例のものは?」


「塔の鉄資源ですね? 運び込んでますよ、これをどうするんです?」


「この大量の鉄も持っていって、こちらを財宝だと兵士たちに伝え、船に運び込ませてから沈ませます」


「なるほど⋯⋯、うーん」


 シスターは何事か、考えているみたいだった。何かいい案があるのだろうか?


「その後貴方はどうするのですか? この財宝足がつくのはわかっているのですよね?」


「もーちろんです。中央には伝手があります、それにそこも協力してほしいのですよぉー。シスタぁん、処女教なら出来るでしょぉう?」


「任せてください、ただし例え処女教でも大ぴらには出来ませんし、私個人がかなり手伝うことになりますからね?」


「はぁーい!」


 さぁて、後は偽の身分証もクソほど持ちましたし。影武者の兵士も、例の船にのせておいて⋯⋯


 後は、財宝の整理ですねぇ。




 @@@



 ティモシーです。やばい事になってます。


 イグナッソの部隊の殆どは港へと向かった。数百の馬車がケークスの資源を、富を、恵みを持ち去って。といってもシスターから連絡は来ているから、思っていた以上に作戦はうまくいった。いっていた。そのはずなんだけど⋯⋯。

 ⋯⋯混沌はさらなる混沌を呼んできた。


「おい、やばいことになってる。あいつには勝てないぞ⋯⋯」


 大佐と作戦上の合流地点についた時、頬をかきながらこっちを見た。アイゼン、ピート、スティング、ミリアム。部隊員も、みんな地に倒れ伏していた。

 絶望するような状況だけど、全員息があることだけが救いだった。


 兵士服の上からコートを羽織った男だった。見ただけでその強さが分かった。今まで見てきたどんなやつよりも、この男のほうがずっと強い。無造作にオールバックに流した漆黒の髪。無精ひげ。手には幅広の曲剣。見たこと無いような、だけど無骨な形状。見たことがないのに機能美の塊なのだと、なぜか分かる。


 倒れた仲間たちの中心に立って、煙草に火をつけていた。黒革の手袋が光沢を帯びている。なぜかそんなところに視線をやっている自分。現実逃避してるのか?

 

 だって、左目で見なくとも男の魔力量の異常さがわかる。だって、魔力が空間を歪めている。こいつの周りごと、おかしくされている。


 男が煙草を咥えながら話しかけてきた。


「⋯⋯お前が、レジスタンスのリーダーか」


 低く響くような声だった。


「⋯⋯違うって言ったら見逃してくれる? それと仲間を殺さないでくれてありがとう」


 恐怖に飲まれないように、息を整えながら言った。


「あんまり、⋯⋯無理言うな。天子の器よ」


「てんしの器? なに言って⋯⋯」 


 ──眼の前にいた。それが剣を振りかぶっていたと思ったら、既に振り下ろしていた。左目が、右手が、とっさに反応していた。左目の中にいる怪魚がアドレナリン全開状態になった獣みたいに呼吸をしているのがわかる。全身全霊でこいつに自分という芽を刈り取られないように抵抗している。


 筋肉が、心臓が爆発を繰り返すポンプみたいに強制的に身体が動き出す。自分でも現実じゃないとおもってしまうような動きで理不尽そのものみたいな存在と剣を打ち合った。ライフルなんて撃ってもこいつに効かないのだから、小枝を持って相手を邪魔するように使った。すぐさま自分の魔力をこれでもか、と宿らせた武器以外は木っ端微塵にされた。


 一瞬距離を取ったと思ったら、すかさず距離を詰めてきて更に重い一撃。

 いなしきれず手首の骨が砕けた。左目の怪魚が全力で細胞に回復するように命じているのが分かる。


「⋯⋯お前、どれだけ殺した? 相当育ってるな」


「言ってる意味がわからないんだよ⋯⋯、少しは説明しろよ⋯⋯」


「見たことのない器、見たことのない種、いやもはや芽⋯⋯か。やってられないな」


「やってられないのは、──こっちなんだよっ!」


 いい加減にしろっ! 苛立ちを全部ぶつけるように思い切り踏み込んで剣を振った。


「あんまり泳がせてると俺でも足元救われそうだ。来る混沌の海を泳ぐか、小僧。未来で、その海で出逢えばお前に海中に引きずり込まれて溺れさせられそうな気もする」


 ぼやきながら、片手で剣を弾かれた。砕けた手首が剣を離しそうになるのを力を込めて無理やり筋肉で止めると、肘まで衝撃がきて砕けた。


「だからっ、なにいってんだよって!!」


 左手で剣を持ち直し、叫んだ。重力魔を全開で使用。思い切り重力の波を叩きつける、が一言そいつが言葉を覇気を込めて発すると重力波が四散して消えた。


「ここで、お前を摘むのか。そういうようなことだ。そして、それが最も安全」


 平然と言ってのけた。感情が見えないのに悲しげな瞳。それが脳裏に焼き付いた。

 

 悪意など無い、だけど⋯⋯。

 ここで、こいつは殺す。

 そういう決意をもった瞳が自分を見てる。


 いやだ、いやだ、いやだ!


 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い! 


 絶対にこいつには勝てない、本気でそう思った。どうやって逃げるんだよ。仲間は皆倒されて、大佐は一対一の人じゃない!


「⋯⋯逃がしてよ。じゃないとぶっ殺してやるぞ」


 震える声でそういうのが精一杯だった。


「⋯⋯まだ強がれるか。だが逃がしてよ、の前にお前が逃げればいいのかも知れんが。その発想はないのか?」


 倒れたみんなを一瞥するようにしてそいつが言った。


「みんなを、⋯⋯見捨てて?」


「ああ、処女教の救世主もそうだった」


「仲間を見捨てて逃げたの? 救世主なのに?」


「あ、はは。違う、逆だ。高弟達に見捨てられたんだよ。一人の裏切りもののせいにして、裏切られて死亡しその後天に昇ったとされてるが。実際にはその後処女教を広めた初期の弟子たちが躍起になって隠した事実がある」


「それは⋯⋯」


「弟子たちの犯罪と煽動罪の咎を受けて出頭することになったのだ。救世主は、だが土壇場になって出頭しても罪は軽くならないと告げられ、弟子たちは救世主だけ置いて逃げ出したのさ。そして救世主は弟子の分まで罪を背負って処刑された。その後の贖罪や許しの文化は彼らが許してほしかったから出てきたものだろう」


「ずいぶん詳しいね。それ一般的に知られてることじゃないんでしょ?」


「そうだな。そこら辺は俺の専門だからな。それで? どうするんだ?」


「なにが言いたい」


「どうせ、お前が俺に殺されても、どうなろうが。こいつらもお前を置いてでも逃げる。今は物理的に逃げられないだけだ。ならば、救世主のように無駄死にするくらいならばお前は(・)逃げたらどうだ?」


「──嫌だね。だから最初から言ってんだ。逃がしてくれってさ!」


「偉そうにいうことか⋯⋯。お前、名は?」


「⋯⋯ティモシー。お前は?」


 何となく本名を名乗った。お前は?じゃなくてあなたは?と聞いたほうが良いかも知れないって、少しびびりながら。


「⋯⋯殺すにも、名乗るにも。タイミングがある」


「なにを言ってるんだよ、本当に」


「どうやら、そんな場合じゃなくなったようだ。ってことだよ、ティモシー。命拾いしたのだから、せいぜい生き延びろ」


 そいつが背を向けると、数歩しか歩いてないのに闇の中に紛れて影一つなくなって消えてしまった。


 沈黙が支配する空間を突如破裂音が切り裂いた。大きな音が通りに響き渡った。


 空、いっぱいに。

 血を流しているカラスの大群で埋め尽くされた。


 それがやってきて、全てが──めちゃくちゃになったんだ。


 その日。血烏の病魔が世界に出現した。フリージア南西部が最初に感染爆発。100万を超える烏は瞳から、足から、翼の羽の下から血を滴らせ、雨の如く地に病を降らせた。


 血烏の雨が降った地で、恐ろしい病魔が産声を上げた。


 病魔は傷口から、経口から、粘膜から感染し、生き物を作り変えてしまった。感染者は意識が希薄になり、夢遊病患者のように動くようになる。最初の兆候は言葉が喋れなくなることだった。その後、凶暴化し、他の生物を見境無く襲っては血を求める怪物に変わった。感染者同士ではなく、感染していないものの血。それが怪物たちの求めるもので、無事だったものからそれらの標的になり、感染者の一部から新たな種が誕生した、それは人に紛れ、闇に生きるものとなった。


 大陸中央にも広がりセルシティ帝国は混乱の中2つに割れ、皇帝一族の殆どが殺され、レッテの半分が帝国内戦に巻き込まれた。フリージア議会は感染地放棄を決定するも、感染は首都にまで届いた。


 新たなる混沌の時代の幕開けだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。