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26話「プロジェクト・ウッドペッカー」

 


 

 夜。ケークスのバザールが見渡せる教会の尖塔にて。


 >>ティモシー


 ⋯⋯いよいよ作戦が始まる。

 今までのように、戦闘するだけじゃない。場合によっては市民が巻き添えになりかねない。失敗は許されない。

 緊張で、呼吸のペースがいつもと違う気がして、落ち着かない。


 ロクシュタイン大佐をみると、まるで緊張してないのが見て取れた。こちらを見るとぼんやりとした表情から、笑みを浮かべてきた。


「──な、なに?」


「ほれ」


 大佐が手の甲を見せてきた。革手袋の甲がぼんやりと光ってる。薄っすらと紋章が見えた。最初、手袋の刺繍かと思った。よく見ると、それが魔術的な印なのだと分かった。

 左目で見る。僕でも驚くほどの魔力が、そこに宿っていた。

 この人も僕と同じだと言っていた意味が少し分かった。この力は普通じゃない。──異常だ。そして多分だけど⋯⋯、これは小回りのきく力じゃない。


「──さぁ、作戦の時間だ」


 大佐は爽やかに落ち着いた笑みで言って、片手をあげた。大佐の詠唱ともに耳鳴りがした。魔力の波紋が空間に広がり脈動する。


 ──揺れざる時も、許さざるものよ。⋯暮れさす時の⋯隠れ差す火よ。⋯我が身の加護よ。世界の破片の力よ⋯ 真実の傷を。けして癒えぬ願いを⋯為すための力よ⋯⋯。我が手にはいれ。暴き出す奔流の⋯⋯。


 そこで大佐の詠唱が止まった。


 ──終焉の兆し。Sign of Demise


 一瞬の静寂があって⋯⋯。鈍い、妙な音が聞こえた。大地の中から何かが走ってくるような音だった。そして地が揺れた。建物が下から突き上げられたように動いた。壁にヒビが入り、裂けた。眼前の店の扉が音を立てて弾けた。教会の尖塔の鐘が揺れで鳴り響く。

 歩いていた兵士たちが、恐怖に支配され、息を呑んだのがここまで伝わってきた。

 また音がした時、蒸気が発生した。地が割れ、陥没し、クレーターがいくつも出来た。至るところから間欠泉が吹き出し、有毒ガスが漂い、兵たちの怒号が遅れてやってきた。


「大佐⋯⋯」


 心配だった。大佐の能力。【災厄の手】を使うと、それは聞いてたけど。実際のこの力を目の当たりにしたら、これでも多分。加減しているのだと理解したから。


「なんだ心配か? 俺も配慮しているよ。イグナッソを、特に奴らの溜まっている場所は知らんが」


 余裕綽々で答える大佐は英雄みたいだった。横にいるデレクさんも心配ないというようにこちらをみて頷いた。おかげでこっちも冷静になれた。

 よく見れば確かに本当だ。イグナッソが逃げるルート。持ち場。市民に被害が及ばないようにきちんと作られてる。事前にかなり配慮して実行してくれてた。


 ──ピート、スティング隊。ミリアム隊、アイゼン隊が定位置で動き始めました。手練の兵士たちはマークしています。警戒しつつ道を作ります。ガス兵器も機能しています。イグナッソは街中が有毒ガスだらけになったと思い込むでしょう、まぁ、そうでなくとも。いちいち嗅ぎ分けてなどいられないでしょうが」


 大佐の副官のデレクさんが言った。左手に受信機の魔道具を持っている。これで各隊とのやり取りしつつやっていくことになる。


「そして、万が一が起きたら僕がここから迎えばOKってかんじか⋯⋯」


 とにかくやるしかない。



 @@@



 砂漠の塔の街ケークス、専権隊本部司令室。



 >>ドリアン・セラード



 ──ドリアン様ー! オクタビア様の部隊を港に送り届ける部隊の準備整いましたー!


「よろしい! なにせ、帝国軍の客人でありますからねぇ! 貴方にはボーナスを差し上げますよぉ!」


 いえす! 大事な任務をこなしている部下に激励の言葉を掛けていきましょう。さて、次はオクタビアだけ港に送り届けて⋯⋯。その間に。ケークスを放棄しなければいけないし、可能な限りの富をもちだしちゃいましょぉー!


「なにを見ている! さっさと任務に戻りなさい!」


「──はっ! 直ちに!」


 このドリアンの浮かれた表情をみて驚きを隠せない兵にドリアンが叱咤する。さっさと何処かへいけよ! と苛つくが、入れ違いになるように想い人、いや待ち人がやってきた。


 ──シスター・M。ただいま参りました。ドリアン大佐。


「いぇぇす! シスター、もっと近くに来てくださいぃ! 内緒話をしましょう?」


 満面の笑みでシスターに近づくとゴキブリが近寄ってきたかのようにシスターが固まりつつ後ずさる。けれど、そんな事は気にならない。今の私は大金持ちの中の大金持ち、その中のさらーっに大金持ち一歩手前の男なのですからん。おヒョヒョヒョ!


「あの! 内緒話をしている場合では、この災害の対応を⋯⋯」


「Boooo!(ブゥゥゥゥ) シスター。そぉんなこと大丈夫なのですよ! それよりも、処女教はケークスの富にどれだけ興味がお有りで? できれば私としては、シスターの個人的な興味も聞きたいのですが⋯⋯」


「ここの富?」


 シスターがあっけにとられた顔をした。まどろっこしいです! どうせ、シスターもお金が欲しいんでしょ? それに私一人ではどうあがいても、コレだけの富を独り占めして移動出来ませんしね。絶対に協力者が必要なのです。そして協力者にふさわしいのは、むさ苦しい兵たちよりも美しくお金好きのシスターですぅ。


 ちなみにドリアンは恋の病で女はみんな金が好きだと思いこんでいる。


「──単刀直入に言いますね? 仮にここの富を大量にもちさって、懐に入れるなら協力する気はあるのかって聞いてるのですよ、シスター。貴方とオクタビアが口裏合わせれば出来る。その好機なのです! 私は超絶大金持ちになりたい、女に貢ぎたい! そうですね。貴方が協力するなら、処女教でも、貴方個人にでも。パトロンになってもかまいませんよぉ? んん? どうですぅ?」


 鼻息荒く、早口にまくしたてるように言うとシスターは目を丸くした後──


「その話詳しく聞かせてください。ちゃんとした計画はおありで?」


 と前のめりで言った。


(いえぇぇす! この戦いっ、勝ったぁぁぁぁ!)




 @@@




 夜のケークスに火の手が上がり、その火が蒸気や間欠泉が道の亀裂から吹き出す。混沌に飲みこまれた兵士たちに、──イグナッソ殲滅隊が現れ襲いかかった。


 魔法戦士の部隊が、苛立ったイグナッソ兵に魔術の矢を射掛ける。闇夜に光る光球が浮かび、それがイグナッソ兵を照らす。それは襲うべき獲物の居場所を告げる死神のランタンだった。照らされた兵たちは闇から射出される矢と、市民が投擲してくる礫に打ちのめされた。


 また、歴戦の精鋭部隊の如く動く剣士の部隊が、またたく間に中央の詰め所を落とした。手練のイグナッソ兵の前には待ち構えていたかのように、重装の巨漢の戦士と闇から強力な矢を放つ射手が現れ、次々と討ち取られた。



 *



「ご機嫌じゃないか、我が軍は」


 戦闘を見守っていたロクシュタイン大佐が爽やかに言った。


「うん、良さそう。しかも、あれ!」


 建物から厳重な警備がされた馬車が何両も出てきた。あれって、多分ここを放棄するつもりってことだよね? だからせめて、貴重なものは持っていくってことだよね。よし、拳を握る手に力が入る。


 やった! これで、作戦は次の段階に行ける! そう思った時。


 デレク副官が血相変えてやってきた。


「緊急事態です! ヤバいニュースがふたつあります!」



 @@@



 >>オクタビア・ルティア


 ケークスが混乱に陥っている時。もっとも混沌が増した時だった。港まで逃げるようにドリアン大佐から告げられ、脱出するその直前に。


「──オクタビア! こっちだ」


「あなた!?」


「⋯⋯あ、あなた?」


 彼がやってきた! 私を助けに!? 私のピンチに来てくれた! 

 

 涙腺が緩む、否、もう泣いてた。だって女の子だもん。もう他の男なんていらない、キャリアもいらない。だって恋する乙女なんだもん。やっぱこの人がすっきゃねん! 


 オクタビアの感情は暴走気味だった。そしてそれを本人も認識するが止める気も無かった。駆けていってダーリンに抱きついてキスするだけだからだ。

 思い切り走っていって抱きつくと、驚きながらも受け止めてくれた。唇を重ねると、さらに驚かれたが、どうでもええっちゅうねん! こちとら恋してんだもん。


「助けに来てくれたんですね!?」


「──いや、えーと。とりあえず、この状況は?」


 そんなことよりも、と聞いてくる彼。キスの説明よりも、ここで何が起きているのか説明を求めるのが彼らしい。彼ったら、シャイで真面目だから。でも、そんなとこも好きっ! ってやつだった。


「100年に一度の災害が起きて、それに乗じてレジスタンスに攻められてるんです! 私は一度港に後退するようにドリアン大佐に命じられて⋯⋯」


「⋯⋯災害? どれのことだ? 」


「──え? どれのことって?」


「ちょっと、色々と起こりすぎてるな。介入させてもらう。お前は俺と来い」


「え、恋? 恋ならもうしてますけど⋯⋯」


「え?」


 互いに首をかしげて見合った。当然長いこと目があってオクタビアは再びメロメロになってしまった。もう、彼ったら私の顔見すぎっ!





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