22話「ロクシュタインの慧眼、VS鉄壁の魔物」
暗い石造りの道を行く。時おり排水溝のような穴から怨念のようなエネルギーが吹き出していた。
「雰囲気が変わった気がする。はぁ⋯⋯ 怖いなぁ。ひっ! 今なんか見えた⋯⋯」
「お頭⋯⋯、動く影の⋯魔物かも⋯」
「──動く影?」
石壁の影が動いた気がして、松明を振るように動かし辺りを警戒していると、スティングが新手の魔物の情報を教えてくれた。スティングやピートは塔探索者最高位であるタワーウォーカーの称号をもっているだけあって、魔物に詳しくて、よく教えてくれる。
「えぇ、⋯⋯そんなのいるの? 影が動くの?」
こんな暗い場所で、そんなのに注意しながら探索しなきゃいけないの!? が内心思ったことだった。
「すごく⋯うすぺらい⋯大体⋯壁に張り付いてるか、地面、地面と⋯壁の間に⋯身体を⋯折りたたんで⋯じっとしてる。隙を⋯見せると⋯一瞬で⋯膨らんで⋯首を締めてくる、ナイフ⋯武器⋯をもってる個体も⋯いる」
「──怖っ! 嘘だろ、もう。僕こういうの無理なんだよ、ほんとに」
なんだよそれ、影に擬態する魔物? 最悪だ。カメレオンも隠れていたけど、動物よりも動く影は更にホラーだった。特にナイフを持ってるってなんだよ! 殺人鬼属性まで付いてるじゃないか! 最悪だ。3階は最悪だ。
「旦那。動く影は結構レアな魔物だ。そこまで数は多くはないだろうが、見かけたらその階とその上階では気を抜かないようにな。正直俺も苦手な部類だが。気づくか、捕まえちまえば大したことねぇ⋯⋯」
ピートがさらに追加で嫌なニュースを教えてくれた。レアってことは、この階に1体しかいないかも知れないけど、そうでもないかも知れないから、ずっと警戒し続けないとダメってこと? いやだ、いやだ、いやだ。だって、さっき見つけたのだって既に見失ってるんだぞ⋯⋯ あれだけ見つけづらいのを警戒しなきゃいけないなんて。神経が磨り減る⋯⋯ ナイフをもったフクロウを警戒して、森の中で全方向を見回して進むようなものじゃないか!
そう言うと、スティングは「お頭⋯良い⋯例え⋯!」
なんか褒めてくれた。てか何で二人はそこまで気にしてないんだろう、やっぱタワーウォーカーってこういうのにも慣れているのか⋯⋯
地下3階は怨霊の巣窟とも言える雰囲気で、鎮魂窟自体は塔に比べれば罠らしき罠も少ないけれど、慎重に進まなければ行けない度合いでは塔を上回っている時があると思った。
ていうか、マクベスにもらった新しいゴワゴワコートもフード被らないほうが良いかな。視界が狭まるし。
「⋯⋯あ、そっか。もしかして⋯⋯」
「旦那?」
「あ、ううん。なんでもない」
右目を手のひらで隠して、怪魚が棲む左目で辺りを見回す。
この僕の左目なら⋯⋯
サーモグラフィみたいに霊気を、熱だって、感知出来るはず。
この目を欺くのは流石に無理だよね。
あ、やっぱ見えた。OK、さっき見かけたっぽいやつが角の壁の後ろに張り付くように潜んでてナイフを持ってる。
怖いな⋯⋯、見えてるから良いけど。あ、もう一匹いた。身体を折りたたんで地面と壁の間にいるやつだ⋯⋯
本当に影によく擬態してるな。てか、あいつもナイフ持ってるし⋯⋯、とりあえず、この2体だけだよね?
「旦那、何を見てる? 看破の力か?」
ピートが話しかけてきた。
「まぁ、そんな感じ」
「おお、見えたか? 俺は使えねぇがスティングが出来ると言ってたよな?」
「⋯いや、⋯動く影には⋯効きづらい。本気でやらないと⋯無理」
へぇ、そうなんだ。やっぱりこの左目使える。そう思って少しホッとした。
「動く影って防御は? 斬撃がいいのかな、それと銃撃は?」
聞いてみる。
「斬撃でも、打撃でもいけるが、銃はその2つよりは微妙だった気がするな。スティングしってるか?」
「⋯斬撃か⋯、打撃」
ピートがそう言って、スティングが返した。
じゃあ、まずはあの折りたたんでいる方からやって。その後に壁の後ろにいるのを回り込んでやるか。腰に吊るしていたスリング紐に石をかけて、軽く回して投擲した。
ヒュンヒュン。ビュゥン! パァン!
プロ野球選手も真っ青な速度で、手のひら大の石が動く影の頭部に直撃し、砕けた。動く影はそのまま動かなくなった。
「⋯⋯えーと旦那、オーバーキルだな」
「うん、あっちの地面と壁のところで動かなくなった。スリングだと音が大きすぎるかも」
「⋯⋯いや、そういうことじゃ。あ、いやいいや」
少し引きつった顔でピートが言ってから、納得したようにいった。
(おい、ピート。お前の矢は普通のスリングより速いよな? お前の矢と旦那の石礫ってどっちが速い?)
(⋯お頭の⋯ほうが⋯ 速い⋯)
(お、おう⋯⋯、なるほど)
二人が何か小声で話していたけど、よく聞こえなかった。スリングの速度について?
聞こうとすると、ピートが仕留めていることを確認しようと伝えてきた。
「──あ、確かに。よし奥へいこう」
「守護の部屋ってまだまだ先?」
「ああ、あと30分はかかる」
「守護っていつも部屋にいるよね?」
「ああ、そういうもんだ。理由はしらんが」
「へぇ、そんなもんなんだ」
などと言いながら進んでいた。ちなみにさっきの話のことを言うと、スリングの早さは普通の矢を超えるらしいけど、それよりも速いのがスティングの特製の弓から放たれる矢で、それを僕の投げた石がさらに超えてて驚いたらしいんだけど。それ以上に僕らを驚かしたのが──
「⋯⋯なんで、守護がそこら辺をうろついているんだよぉぉぉー!」
戦車のような装甲の巨大イモリ。討伐には毒ガスが必要と言われていた守護が、普通に3階層を歩いていた。
その超重量級の体躯をものともせずに、どうやってか壁を這うように動いては追ってくる。
「ふっざけんなぁぁぁー!」
ピートが轢かれて後方に転がり飛んでいった。轢かれる直前に大槌で鼻先を叩こうとしていたが、城壁でも殴ったかのように弾かれていた。
やっぱり話に聞いた通り、硬いっ! ていうか、ピートをここに残して置いてけないし、ここで迎え撃たないとか? いやピートなら無事に戻って来るとは思うけど。ピートと合流しやすいように、これ以上逃げずにこの位置をキープするように戦ってみるか。一直線に逃げるように戦うのはやめて、攻撃を避けつつも迎え撃つような立ち回りに変えた。自然とスティングもそれに合わせてくれる。相変わらず阿吽の呼吸をオートでやってくれる人で頼もしい。
スティングが目玉を射抜こうと矢を射かけるが、鉄壁の魔物の目玉に当たった瞬間、矢が跳ねた。
「なんだ!?」
目玉に透明の瞼がついている! それが眼球を守る鎧になっている!
「目にも装甲がついてるの!? どれだけ鉄壁なんだよっ!」
猛追してきた魔物にメイスで全力の一撃を叩き込む、と目玉の透明装甲に一撃でヒビが入った。鉄壁の魔物は滅茶苦茶な動きで床を、壁を縦横無尽に高速で這い回り、その重量で邪魔な岩や鍾乳石。床も壁も陥没させ、亀裂をいれながら丸呑みにしようとしてくる。いや、前腕でも腹でも叩き潰そうともしてくるから、もはや過程は気にしないのかも知れない。
真横につけながらもう一度、メイスを目玉に狙いをつけて叩きつけると、鈍い音とともに異臭を感じた。一気に脳みそまで気持ち悪くなるような匂い。
まさか、こいつ! 目玉の防御の下に毒ガスでも仕込んでるっていうんじゃないだろうな!? どれだけ鉄壁なんだよ!
気分が悪くなりながら、常に腹横の位置にいるように注意しながら時折前に出て目玉を攻撃。スティングも特製の超張力の矢を放つが、流石に無理だ。
異臭が更にひどくなってきた時、──声が聞こえた。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
炎を纏った大槌を担ぎながら、その重装備でなんでその速度が出せるのか、という勢いでピートが走ってくる。雄叫びをあげ、やられっぱなしは筋肉の神ダディが許してねぇんだ。そんなことを言い出しそうなくらいの気迫。
それを──
スティングが口と鼻を片手で塞ぎながらナイフを投擲して、ピートの大槌に攻撃? ピートが怒声を上げながらナイフを大槌を振るって弾き落とす。その瞬間にピートの顔色が変わった。あ、やっべ。そんな顔だった。
そして僕も嫌な予感がMAXで沸き起こる。もしかしてこの異臭⋯⋯ 魔物じゃなくて、魔物が作った壁の亀裂からきてる?
ピートが発火が一気に広がった大槌を捨て、こちらに飛び込んでくる。急いでピートとスティングの前に跳躍。ゴワゴワコートを広げて盾にした。
視界いっぱいに燃え盛る炎が広がった。鉄壁の魔物は大口を開けていて、炎が何かに引火して内部から燃やし尽くされるその直前を見た。
*
息も絶え絶え、無事に三人で帰還した時には、ロクシュタイン大佐が──
「だから、言ったろ? こんなしみったれた洞窟に毒ガスが無いわけがない」
さも当然のような顔をして言ってきて、ピートが大きくため息をついていた。
ちなみに炎の馬討伐で発火系の力を得たのは僕とスティングだけどピートも魔道具でエンチャント出来たらしい。僕自身も炎魔の力は変な匂いが漂っているところでは絶対に使わないことも誓ったのだった。
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>>守護の力、獲得。
・ピート=重量微増の力(重量を増やせる。装備品、武器のみも可)
・スティング=弱体化施術(触れたものの防護を下げる)
・ティモシー=重力魔(重力に軽く干渉。遠ければ燃費は悪くなる)
>>鎮魂窟・毒ガスの湧き出る区画を発見。
>>マクベスが毒ガス武器を作成可能に。




