21話 「鉄壁の魔物の問題」
西ケークス港陥落。
6千の敵軍に大打撃を与えれた。
防衛隊とケークス港市民(多くが防衛隊と港湾関係者の家族)イグナッソ殲滅隊のアジトである鎮魂窟へと入り、防衛隊長へゴン・ロクシュタインが殲滅隊への合流を宣言。
これ以降、西ケークス港防衛隊は解散し、殲滅隊の一員に加わった。西ケークス防衛隊の面々は常にフリージアの最精鋭による訓練や手ほどきを受けている猛者揃いでアイゼン並の戦士が4人もいた。
その上官であり、トップを務めるロクシュタインは先の戦争では活躍した軍人の一人らしい。これはアイゼンとスティングから教えてもらった。フリージア中央では英雄扱いされる人だとか。
古参の殲滅隊の隊員たちと負けてはいられないと、ピートとアイゼンによる地獄の鍛錬を希望するものが出てきて、地力を増していく流れができつつあった。
ロクシュタイン大佐はシスターMをみるやいなや、鼻の下を伸ばして、メロメロになって会議では「エロエロシスター万歳っ! あ、いや殲滅隊で新入り扱いされないように、頑張るって意味で⋯⋯ ね?」などと言っていた。
この人、大丈夫かな? 本当に英雄なのか? と多少不安に思った。
またマクベスが殲滅帯に加入。ただマクベスは戦争にはそこまで興味ないらしく、いくつかの武具の実験ができ次第フリージア中央に避難したいとのことで、僕達も了承。恐らく2ヶ月もいることはないと思う。
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ーウラぁぁぁぁっ!!
——鎮魂窟、地下3階層。
ピートが吠える。全身全霊の力を込めた巨大な槌の振り下ろしも、スティングの強化された張力と魔力で組まれた弓から矢を射かけようとも、その魔物には通じない。
3階層の主である魔物。その鉄壁の防御を誇る身体は、ピート・スタンピート、スティング・スティングレイの二人の連携をもってしても傷つけること叶わず。意気揚々と地下三階を攻略していた殲滅隊の誇るタワー・ウォーカーのコンビも撤退を余儀なくされた。
竜燐の爬虫類。形容詞しがたい姿。無理矢理に言えば、石岩の装甲を持ったイグアナとカメレオンと⋯⋯ コウモリもしくはイモリの顔。
大地から隆起した岩が幾層にも連なったような肌にカバのような巨躯。動きは豹の如く機敏。じっくりと獲物が疲弊するのを待つ戦法を取るほどに、狼のような忍耐力と狡猾さを持つ魔物だった。
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──鎮魂窟会議室
ー旦那。報告する。今朝、3階層攻略が捗って、そのまま守護らしき魔物と交戦した。
「……うーん、勝手に? やめてほしんだけど」
守護は強い、いくら二人が強いからって、いきなり交戦してくるのは心臓に悪い。彼らのことが好きだし、死んでほしくない、傷ついてほしくない。なんとなく守護と戦う時はいつも僕と3人で行くものだと思っていた。だからこそ、意表をつかれたように動揺してしまった。顔には出さないようにしてるけど。
「──わかってる、本当はすぐに撤退するつもりだった。が、ちと欲がでちまって……」
様子見して、すぐに帰還するつもりだったことを知って。少し胸を撫で下ろす。交戦ってそういうニュアンスか。
「⋯⋯ああ、なるほど。それで?」
「──傷一つ、つけられなかった。このピート・スタンピートとスティングで、だ。⋯⋯中々相性が悪い」
苦虫を噛み潰したように口を歪め、ピートが白髪だらけの頭をかいた。
*
「あなた達でも、傷一つつけられなかった? それ本気で言ってます? タワー・ウォーカーでしょ? 未踏世界や、ダンジョン専門家の最上位でも無理って⋯⋯」
シスターMが心底驚いたように言った。
「⋯⋯二人で無理なら、あたしも無理かな」
ミリアムが強張った顔で言う。
「あのー、その魔物。⋯⋯ここまで降りてきませんよね? 大丈夫ですよね?」
シスターMが心配そうに言う。
「大丈夫です。そのような事は今までなかった。それなりの期間この鎮魂窟でやってきたんだ。心配はいらないはず」
汗を拭いながらアイゼンが早口で言った。自分が信じたいことを言っているようだった。
殲滅隊でも屈指の攻撃力を誇るピートがそういったことで、集まっていた幹部たちが、皆困り顔になる。
「──ようするにとてつもなく硬い魔物がいるってことだよね……」
また厄介事だ。僕なら行けるか?
どうなんだろう。対峙してみなきゃ分からない。
「……離脱するべき時に、逃げ帰れて良かったじゃないか」
今まで黙っていたロクシュタイン大佐が口を開いた。
「──てめぇ、どういう意味だ」
ピートが睨んではいないが、剣呑な雰囲気で言った。
「あ、すいません! この人はこういう言い方をしたりする人で⋯⋯」
副官の人が焦ってフォローする。
「お前らは、殲滅隊でも最高戦力なんだろ? 負傷もせずに戻ってこれたのはいいことだ。そういう意味だよ。この脳筋め。俺がいきなり嫌味言ったと思ったな?」
「⋯⋯ぐ。まぁ、物はいいようだが。実際、確かに良かった。情ねぇがな」
と、ピートが返す。
「僕はピートを信頼してる。判断もだし、もし気にしてるなら、気にしないで」
「ああ、面目ねぇ……、旦那」
ピートが言った。
「──ふぅん。岩のように硬いねぇ⋯⋯」
ぼーっとした顔でマクベスが呟いた。
「いい武器とかある? それか倒し方知ってるとか⋯⋯」
みんなが一斉にマクベスを見る。
「あ、そうか。フリージアの名工なら!」
シスターの顔に希望が浮かんだ。
「うーん。どうだろう。でも昔『ドラゴンはどこで死んだ?』っていう叙事詩がどこかにあったはずなんだよね。小説だったかも知れない。記憶が曖昧だけど、どの国で見たんだっけ。たしかね、ドラゴンは死んだー!って大声で兵士たちが街に入ってくるところから始まるんだけど⋯⋯ あ、こんな話はいいや。冒頭は置いといて、結局ドラゴンはドラゴンイーターっていう架空の怪物に殺されて、ドラゴンイーターはまた新たな餌となるドラゴンを求めて消えたって説を唱える占い師が出てくるんだけど。その占い師が現場検証しようと騎士たちとドラゴンの縄張りだった洞窟へ向かうと、毒の息が洞窟から吹き出てきて死んでしまうんだよね。これは、つまり⋯⋯ あ、いや。もしかしたら『昨夜の夕げはブーケガルニ』のほうが例えに良いかも知れないんだけど、読んだことない場合は全然説明するけど、昔大陸中央南にクランク王国っていうのがあって、ここは実質120年で滅んだんだけど。レイオール川を国境線にして⋯⋯」
「──いーやいやいや! 待て待て、話長いな!? てかそれ、なんの関係があるんだ? もうちょっとストレートに頼む」
ピートがマクベスのおしゃべりに待ったをかける。
「──ああ、これは、あ、これちょうど大事なところなんだけど聞く?」
「ん、いや、ああ。分かった、聞く⋯⋯」
「⋯⋯マクベスはこういう性格なんだ」
「⋯⋯旦那、了解だ」
「──じゃあ『ドラゴンはどこで死んだ』の話だけど。⋯⋯占い師と騎士たちが死んで。いよいよ、じゃあ死んでないなってなったんだけど。それから50年たって洞窟で地殻変動かなにかあって毒ガスが吹き出すようになったのが判明するんだよね。ドラゴンも占い師たちもそれで死んだって話」
「──それになんの意味が⋯⋯」
ミリアムが首を傾げながら、そう言って⋯⋯
「──あ、もしかして。毒ガスの武器があるの!?」
ピンときて口走った。
「ないよ、あるけど」
「どっちだよ、もう!」
まどろっこしいし、ややこしい。
「実際にはあるけど、肝心の毒ガスがない。──手に入れられる?」
首をかしげながらマクベスが聞いてきた。
「えーと、皆どう?」
毒ガスの場所なんて知らないし、入手する方法も知らないから皆の顔を見た。
「──別に行けるだろ」
当然のようにロクシュタイン大佐が言った。
「あのなぁ、お前ここの何を知ってるんだよ。来たばかりだろ」
ピートが突っ込むと⋯⋯
「こんな、しみったれた洞窟にガスが無いわけがない」
「おまえなぁ、どんな理屈だ⋯⋯」
がっくりと肩を落としたピートに、気にしてないようなロクシュタイン大佐と、苦笑いする副官の人がいた。
クセの強い仲間が随分増えてきたな。と思って、内心ピートに共感していた。




