20話「加護持ち」
──西ケークス港
「──なんだとぉっ! こっちは死力を尽くして防衛したんだぞっ! それを!」
ツー、ツー、ツー。
「ロクシュタイン司令⋯⋯ 聞きたくもないですが、中央はなんと?」
口元を引きつらせた副司令がロクシュタインに聞くと。
「──今すぐに出るぞ」
「⋯⋯は?」
「今すぐにここを出て殲滅隊に合流する。それが出来ない市民は好きなように生きてってくれ」
「──な⋯! 司令、本気ですか!?」
「大バカどものゲームのために犠牲になれと? 俺はまっぴらごめんだね。さっさと準備しろ!」
ここに来てロクシュタインは西ケークス港放棄を決定。
それは奇跡の防衛を成功させても、嬉しそうにもせず、ただただ厄介事が増えたかのように扱ったフリージア中央政府に対する不信感と、自分たちをバックアップする予定は全くないというフザケた現状に対する彼からすれば当然の反応だった。
そして港に残ることを決めたほぼ全ての市民は地獄を味わうこととなった。
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──鎮魂窟。
>>ティモシー
「──ロクシュタイン及び西ケークス防衛隊300名超と2000名超の民間人、殲滅帯に加入することを誓いました!」
鎮魂窟ではアイゼンが絶対に必要だと強硬に主張した宣言や儀式めいた手続きを終えた大所帯が殲滅隊に正式に加わった。
戦闘員は倍以上に増えた。しかもアイゼンが言ってた通り、西ケークス港防衛隊の人たちは本当に精鋭揃いだった。というのもフリージア軍での最高レベルの部隊長や隊員が定年前後に選ぶキャリアコースであるから、らしい。精鋭の落ち着く場所といったところみたいだけど。確かに普通の兵士たちが一人でも専権隊の兵を平気で複数相手取ってた。この人たちって思った以上に凄い?
「ネビュラ様、こちらがロクシュタイン大佐です!」
アイゼンが仰々しく紹介してくる。軍服のやる気のなさそうな男。軍服自体はよく手入れされてるようだけど、無精髭に、自然の好きなようにとスタイリングする気のない感じの黒髪。眠そうな瞳の男。年齢はちょっと上かな。30代後半位かもしれない。中肉中背だけど、筋肉質。半目で煙草臭くて、低くぼやいてるように喋る人だった。
「ティモシー。いやネビュラとも名乗ってる。よろしく」
「⋯⋯ああ、ロクシュタインだ」
右手を差し出すと、眠たそうに、しかし嫌そうな感じで口を歪めて手を握って来た。
「熱っ!」
「お、? ああ、すまんかった⋯!」
やっちまった、というような表情でロクシュタインが謝ってきた。
革の手袋の手のひらの当たりに魔法陣が浮き出ていて、さっと消えてしまった。
「⋯⋯いまのは?」
「⋯⋯共鳴したようだな。お前、誰だ? というか何を飼ってる?」
「──え?」
「お前の中の話だよ」
ロクシュタインが手のひらを指先で、とんとん、と叩いて言った。あいかわらず半目だったけれど、今度は射抜くような瞳で、眠そうにはしていなかった。左の眼球の中の怪魚がギュルンと動いて、ロクシュタインの手のひらを凝視しているのも、現実味がわかないけれど、感じ取っていた。
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西ケークス港防衛戦は成功。ただし、港自体は放棄せざるを得なくなった。港の防衛隊と市民たちと合流できたのはいいけど。中々やることが多くて忙しい。
もう数時間したら、今度はケークスに行ってマクベスを迎えに行かなきゃいけないし。しかもその前に──
「それで、ロクシュタインに教えてほしい。僕の左目の中にいるのがなんなのか」
鎮魂屈の会議室とかしている部屋で向かい合っていた。部屋には僕と彼しかいない。ロクシュタインは二人きりの方が良いと行ったからだ。
「端的に言うと、俺も分かっていない。それらしき文献はある、世界の加護や、世界精霊、世界の破片を宿しものとかな⋯⋯」
「──世界の加護?」
「恐ろしく珍しいが、何かしらの形を取って世界の加護が個人に宿ることがある。いろんなものがあるはずだが、あまりにも珍しいからな。情報は少ないよ。加護を持っている奴らでも、これが何なのかわからずに生涯を終えたやつがほとんど無いんじゃないかとさえ思ってる」
「そんなに珍しいの? 言い伝えとか、伝承とかは⋯⋯」
「ほぼ無い。だから推測しながら古代の文献を漁り、自分の持ってる情報。まぁ、加護持ちとして、だが。それとすり合わせて推論を重ねているだけだよ」
「他の加護持ちと情報交換とか⋯⋯」
「言ったろ、恐ろしいほどに珍しいんだ。俺の推測だと、恐らく加護持ちは最低でも500万人に一人もいない可能性がある。下手したら1000万人に一人くらいじゃないか」
「1000万人に一人っ!?」
頭が、理解がついていかなかった。それってどのくらい珍しいんだ。
「──ケークス地方に、そもそもそれだけの人口いるの?」
「──いい質問だ。いないよ。大陸の人口を考えると二十人以上は、いるかもしれん。が、それでも性別、年齢、身分。位置も、どれも分からない。突出した力を持った個人である場合が多いはずだとは思うが⋯⋯」
「思うが?」
「多分、壊れやすい。目立っても問題ないほどに力を行使して、その上他の加護持ちを探す気があるやつはどのくらいいるか、俺もわからん。少なくとも俺も二人にしか会ったことはない。お前で3人目だな」
「僕で3人目⋯⋯ 他の人達って?」
「セルシティの先代の皇帝。これは昔パレードで見かけたことがある、あっちがこちらをスキャンするような加護を持っていて、俺の加護が警戒して気がついた。それ以上のことはわからん。もう一人は戦場で会ったことがある。俺がフリージアから派遣されてアインズ軍と東国の蛮族連合との戦線に言ったときに、そいつを見た。そいつは傭兵だった。恐ろしく強い蛮族の兵長をいとも簡単に仕留めた。あいつは、マジでヤバそうだったなぁ。アインズの兵団長の一人も結構怪しいのがいたけどな」
懐かしいような遠い目をしながらロクシュタインが言った。
「戦場って、東国とフリージアって戦争してるの?」
「⋯⋯お前の出生地や、その他のことについては聞かないことと、アイゼンに言われたが。まぁ、いい。そうだな、歴史的にフリージアは大陸東部、フリージアの北方、グノーとの間の地域。そしてフリージアの東の蛮族とは仲が良かったことはないだろうな。数樹年前に東方の蛮族の王が北方の蛮族を吸収してからは、活発に侵攻してくるようになったし、15年前にはアインズ及びフリージア連合に大陸中西部の増援も込みで大陸東方戦線で大きな戦いがった。俺が言った戦場ってのはその戦いの話だ。東方戦線や、野人戦争とか、いろいろ言われ方があるが、覚えとけ」
「グノー帝国ってのはその蛮族にはやられないの?」
「蛮族とは小競り合いはしてるが、寒すぎて基本的に蛮族でもほしくないような土地だからな。こちらよりは争いは無い」
「⋯⋯そうなんだ。加護ってロクシュタインの目の中にいるの?」
「いや、こっちだ」
そう言って手の平を指先でロクシュタインが叩いた。
「⋯⋯手の中?」
「──そうだ」
「能力は?」
「まだ教えない。お前のは瞳の中にいるのか」
「うん、そうだよ。ていうか壊れやすいってなに?」
流しそうになってしまったけど、絶対流しちゃいけないものな気がして聞いた。
「加護持ちは力に飲まれる場合が多いと考えている、それならば筋が通るかも知れないからな」
「筋が通るって?」
──お館様、そろそろ時間ですが⋯⋯
アイゼンがやってきて時間を告げた。
「うん、わかった。今度また話そう。僕はちょっと仲間を迎えに行ってくる」
「──ああ、わかった。よろしくな、お館様?」
なれないような感じでロクシュタインが言って「いや、それはアイゼンだけ言ってるやつだから好きに呼んで!」
というと、頬をかきながらロクシュタインが「ああ、助かる。じゃあネビュラと呼ぶよ」と言った。
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──深夜。砂漠の塔の街ケークス。
一人でやってきた。なんとなくだけど。ぞろぞろ人を連れて来るのも悪目立ちしそうだったし。
ケークスの街に潜入するのも、慣れたもので前来た時よりも、心に余裕があるのが自分でもわかる。夜目が効くことを良いことに街灯のついていない暗闇の中を自分の縄張りかのように歩いていった。
(⋯⋯暗がりは僕の味方だ)
多分、これからも。そんな気がした。
蚤の市を毎週やってる駐車場を通り過ぎて、少しするとマクベスの店が見えた。見せ前に新しいランタンが追加されていた。
(あ、もしかして僕が暗い中で見つけやすいように?)
店主の気遣いに感謝する。ドアをノックすると、直ぐにマクベスが出てきた。
「やぁ、ティモシー。本当に来てくれたね」
「当たり前だよ、もう」
「一応、本当に持っていきたいものはカバン3つ分くらいに抑えたんだけど⋯⋯」
「これか、2つくらい僕が持つよ」
「え、いいの? 助かるけど。あ、探索者として膂力は確かにかなりありそうだったもんね」
「うん、そうそう。じゃあ行こうか」
*
その日、砂漠の街から、この地方でも名を馳せた名工が姿を消した。専権隊が捜索を行ったが、名工マクベスの行方は最後までわからなかった。
>>マクベス、殲滅隊に合流。




