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18話「ティモシー、マクベスと合流・次の目標は西ケークス港」

 



 __夜 砂漠の塔の都市ケークス



 時刻は午後10時を回っている。


 《 【砂漠の悪夢・ネビュラ】報奨金10億パワー! Dead Or Alive! 生死問わず! 》


 街中を歩くと、僕の名と似顔絵らしき者が貼ってある。といっても似ていないので、自分でも抗議してやりたくなったほどで、流石にこれなら気にしなくて良さそうだとも思った。


(なんで、こんなに似てないんだ? あ、ゴワゴワコートのフードを被って戦ってたからか⋯⋯)


 首を傾げて、すぐに思い至った。そうだ、あの戦いでは活躍してくれた。最近着ていなかったけど、色と形を少し変えて戦闘服仕様にしても良いかもしれない。あの店主⋯⋯ マクベスはどうなったんだろう。そうだ、安否も気になるしマクベスも探そう。


 ていうか砂漠の悪夢ってなんだよ。


 独りごちて、街灯が多い道を避けて、懐かしいケークスの通りを歩いていく。


(⋯⋯1、2、3、⋯⋯8、やっぱりそれなりにいるな⋯⋯)


 歩きながら専権隊の兵士たちを数えていく。


 塔や鎮魂窟の探索でマッピングはなれたけど、人間の数と位置を覚えるのはなれてない。それでも、どこに兵士がいるか、次々書き記していく。ぱっと見だけど、塔の麓と役所跡地。都市の高級住宅地とその中でもひと際大きな屋敷、3つの交差点がもっとも警備が厳重だった。


 麓は資源の為かな。役所は⋯⋯、そこに司令部でも置いているのかも。大屋敷は上級将校でもいるのかな。


 シスターが言ってたお忍びで訪れるはずの皇女は見かけない。ていうか、シスターもまだ見てないし、本当に訪れるのかも不明。そもそも皇女だって確証もないらしいけど、バルク少将ってやつが接待の用意をしていて、それが皇族用のものだったという情報しかない。ジスターは皇女が来るんじゃないかって言ってたけど⋯⋯ こんな敵国のど真ん中に皇帝や皇太子が来るわけ無いからそりゃそうなのかも知れない。ちなみに皇族は男子に恵まれなくて3人しかいないとか。


 それならば確かに皇女しかなさそうだけど。


 少将が接待の準備を始めたのは二日目。


 もう着いているのか、それとも⋯⋯




 *


 無人の夜の石畳の通りを、通り抜ける。


 涼やかに吹く夜風が心地良かった。日曜に蚤の市が開かれる場所を通り過ぎる。店は殆どが閉まっているが、いくつかの店前の灯り自体は街灯代わりに点けられていた。恐らく街灯代わりにつけることを義務付けられている? いや普通に防犯とか保険関係の理由かもしれなかった。確かに人通りが少ない場所の店が営業後もフロントだけ点けてると治安が保たれているような気になるし。商店をやってる人だったらこういうものの理由とか詳しんだろうな、と思った。


 昔、何度か通った道を味わうような速度で歩いていると、見慣れた店に灯りがついているのが見えた。


「⋯⋯マクベス、いるかな」


 扉の前に立つと、かすかに中から作業しているような音が聞こえた。


「⋯⋯マクベス、マクベス、もしもーし」


 あまり大きくない声でドアをノックしながら呼びかけた。1分立っても誰も出ない。ドアノブに手をかけるとあっけなく扉が空いた。


 チリンチリーン


 扉が空いたと同時に連動するように来店を知らせるためのベルが鳴った。


「⋯⋯あ、ティモシー? ずっと見ないから、どうなったかと思ったよ。一応聞くけど幽霊じゃないよね?」


 入口で立っていると、包帯だらけの店主の懐かしい顔が出てきた。ほっとして、すぐに嬉しさが込み上げた。


「──幽霊じゃないよ、もう! マクベスも無事だったんだね! ⋯⋯でも、その腕」


 マクベスの頭の包帯は左目を覆うようにして巻かれていて、右手に大きなショットガン。もう片方の腕は包帯に巻かれていて──左手の肘から先にはあるはずのものが無かった。


「うん、大丈夫。あ、ていうか銃向けちゃってごめんね。強盗かと思って⋯⋯」


「──ううん、いいよ。その目と腕はどうしたの、イグナッソにやられた?」


 仄暗い気持ちが内側に宿る。最近、大人しくしていた左目の中の怪物がギュルん、と眼球の中で動いた。


「ん? ああ、これのこと? うん、全然大丈夫だよ。片手だけでも結構やれるんだ。ただ作業速度落ちるから義手を今作ってるんだけど。あ、普通の義手ならもう作ったけどね。でも、そのレベルの話じゃなくて⋯⋯ あ、でもこれが結構面白くてさ、あの【義手の踊り子】って短編小説知ってる? うん、有名なやつ。100年前くらいに流行った話で中央の国では教科書とかにも乗ってたらしいんだけど、これが【義手の英雄】っていう叙事詩に心理描写付け足しただけの代物でページ数も、数ページ増えているだけみたいな感じなんだけど。この作品が教科書に採用されたことで作者は有名になって結構儲けたらしいんだ。ただまったくオリジナルと言っていい内容ではないから、罪悪感に取り憑かれて、それからずーっと義手を特注して作るようになり、ついには自分の左手をノコギリで⋯⋯」


「──まった! まった、待って! もう少し再会を喜ぼう」


 相変わらずのマシンガントークが炸裂しそうになって、懐かしいけど、すぐに止めに入る。それでも嬉しくて、このときの僕は久しぶりに本当の笑顔になっていたと思う。


「あ、そう? あ、ちなみに目はもともと悪いし、メガネかけるくらいだからね。大して仕事には支障はないよ」


 ずり落ちたメガネを片腕で直して相変わらずの店主が言った。


「そうなの? でも見にくくならないの?」


「うん、なるよ。でも、見にくいくらいで丁度いいんだよ。見えすぎてもダメなんだ」


 


「⋯⋯そっか。イグナッソに?」


 マクベスの話は正直よくわからなかったけど。マクベスにとっては本当にそうなんだろうと思った。


「──うーん。魔獣だけど、イグナッソのやつだから。直接はそんなに危害は加えられてないよ。まぁ、なんか連中の武具とか機械の修繕とかやることで許されちゃったけどね。確かに危なかったかも」


「──許されたって? まさか戦ったの?」


「そうそう。なんか武器屋の周りにいたのを、ちょっと色々新しい武器の試運転代わりに⋯⋯、その時に武器が暴発して転んで⋯⋯」


「⋯⋯ちょっと、ちょっと。それは、結構倒せたのかなって、ていうかマクベスは戦闘員じゃないんだからさ」


 顔がひきつった。淡々というけど、マクベス侵略者を的に試射会やってたのかよ!? 


「まぁ、そうだね。ティモシーはどうしてたの?」


「──僕は今⋯⋯」


「なんかレジスタンスとかを結成したんでしょ? 張り紙で君にあげたのと近い装備なのが見て取れたからわかったよ」


「──あ、うん。そうなんだ。マクベスは僕と来る?」


「うーん、どうしよう。うん、でも行こうかな。でも今夜は厳しいから3日はほしいな。大丈夫? 今日くらいの時間に荷物運びも手伝ってくれる?」


 かなりあっさりとOK出た。


「うん、でも簡単に決めていいの?」


「なんかね。イグナッソはここを占領している間は僕を好きなだけタダ働きさせたいみたいでね、しかも解放されることなさそうな気配があるんだよね。だからそのうち逃げ出そうと思ってた所。逆に言えば君のところにもずっとはいないかもだけど、いい?」


「──うん。いいよ。君にはお世話になったし、すぐに出ていってもいいし、そんなに遠くない場所なら護衛もして送っていってもいい」


「あ、ほんと? じゃあお言葉に甘えようかな。新しい武器や防具も上げるよ? 仲間何人? 全部ただには出来ないよ?」


「──もちろんだよ。ありがとう、マクベス!」


 それから少し話して、帰り際にはマクベスが紺色のゴワゴワコートを持っていって、と言って渡してくれた。




 *



 マクベスと別れた後。


 ──ケークスの塔とその麓を見渡せる高台にある住宅地。


 兵士の多さが目につく。ケークスの専権隊……、本当に2万人はいるだろう。


 塔をフリージアが取り返さないなんて事はありえない。自国で一番の金山を取られて放っておくわけないように。シスターはこの戦争は長引くといっていたけど、そんなこと本当にあり得るのか? とても信じられなかった。


 イグナッソは塔資源に頼ってここを維持するんだろうけど、それっていつまで持つんだ? 塔だけあれば、いつまでも孤立していても籠城できる? どのくらいの人数を塔は食べさせられるのか。だって塔が金山と似たようなものなら、金があるだけじゃ都市は成り立たないだろう。




 @@@



 鎮魂窟に帰って凄腕の武器屋の店主が殲滅隊に加わると伝えると、少しだけ皆の顔に灯りが灯った。最近は、というかあの日から表情はデフォルトで皆暗かったから、たったそれだけでも結構な違いに感じた。

 

 洞窟の中。湿度が高い日で湿っぽい空気に焚き火の熱が合わさって、全身からじんわりと汗がにじみ出てきていた。


「それで、専権隊の占拠がいつまで続くのかだけど⋯⋯」


 見てきた街の様子を話しながら、言うと⋯⋯


「──ああ、旦那の読みは正しい。恐らくケークス占拠は3ヶ月が限界。まぁ、頑張って半年だな」


「⋯⋯お館様、私の見立てでも同じです」


 ピート・スタンピートがゴーレムのようにゴツい腕を腕組みしながら言うと、アイゼンが同意した。


「──そうなの?」


「ああ。塔は資源豊富でケークスは水利も塔内外に豊富にある、が一次産業、農業はそこまでじゃない。ケークス市民を食わせ続けるほどはない。貿易である程度賄ってるから、孤立し、少しの農村を占拠しただけでは備蓄含めてそのくらいしか持たんだろうよ」


「──じゃあ、待っていればイグナッソはジリ貧になる?」


「──待ってください!」


 ピートに聞こうとするとシスターMが口を開けた。


「それが分かっているからこそ、フリージアも静観していても問題ないと主張するグループがあるのです。そして専権隊(イグナッソ)はそれを理解し、利用しています。むしろそう思ってほしいのです」


「⋯⋯ほぉ? どういう意味だ、嬢ちゃん」


 ピートが白髪だらけのあごヒゲを撫でながら興味深そうに反応して言った。


「待っていれば良いということは、逆に今から半年近くフリージアはケークスを攻めない言い訳にもなるんです!」


「攻めない言い訳ってのは、フリージアの商人貴族たちや議席に座ってる奴らの一部が帝国に協力してってことだな?」


「その通りです。議会の一部はすでにイグナッソ、及び帝国の息が掛かっています。帝国が育て、イグナッソが育てた商会や、実力者は大勢います。そしてそれ以外にもレッテ共和国も同様のことをしていますし、アインズも⋯⋯」


「それって全部合わせたら一部っていう規模なの?」


「半分以上です。議会の7割はすでに他国の息が掛かったものに閉められています。国粋主義者の枠も含めてです」


 疑問に思ったことを言うと、とんでもない答えが返ってきた。


「⋯⋯でも、結局。その後に攻められたらイグナッソも終わるんでしょ?」


 仮に攻めない言い訳に同調する有力者が多くとも、流石にこの土地自体が彼らの利権だろうし、それを自分の飼い主に素直に献上するとも思えない。


「旦那、ちょっと待った。⋯⋯嬢ちゃんのいう戦争が長引く、はどのくらいを言ってる?」


「⋯⋯半年から2年です」


「でも専権隊は2年もケークスを維持できないんじゃ⋯⋯」


「いえ、そろそろ港を取りに来ます。そして秘密裏に物資を送り込むルートも構築中でしょう。あのデリカンみましたか? この2つだけで話はだいぶ変わるんです。時間だけかけてればイグナッソが弱るというのは楽観的すぎます」


 *デリカン:ペリカンみたいな魔物。荷物運びがうまい。併用する魔道具によっては300kg以上の荷物を長距離運搬できる。


 デリカンについて聞くとそこそこ希少な魔獣で荷物の扱いに長けているとミリアムに説明された。


「でも、希少ならそんなに数はない?」


「いえ、レッテはデリカンの名産地で知られています。イグナッソはレッテから相当数借りているはずです」


「港を落としたら、流石にフリージアも無視しないんじゃねぇか?」


「する可能性が高いです。だから、ここまで派手に動いたんです。根回しは大方完了していますし、制海権を維持する自信があるんです」


「──どうやってだよ」


「⋯⋯わかりません、でもそう動くはず⋯⋯」


「狙いは西ケークス港だな?」


 ピートが猛禽のような瞳でシスターに言うと、シスターが頷いた。


「港の防衛隊はどのくらいいるの?」


「あそこは間違いなく、ケークス並の防衛隊がいます。特に海側から攻めるのは至難の業です」


「──海からじゃねぇ、陸からだろ。ケークスから攻められたら?」


「⋯⋯想定されて作られていません。しかし、ケークス港は歴史上一度も落ちたことはないんだ⋯⋯」


 アイゼンが悔しそうに地面を見ながら言った。


「⋯⋯旦那、どうする。この事件、相当にややこしい話に発展する可能性がある。たんなるレジスタンスじゃ物語は終わらねーかもしれねぇぞ」


「──そうだね。⋯⋯てことは、次に僕達がやるべきことは⋯⋯」


「西ケークス防衛に力を貸す、かもしれんな。旦那」


 ピートの低い声が響いた。








 

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