17話「ティモシー、シスターと出会う」
──夜 ケークス。
闇夜の街に街灯の光が浮かんでいる。
小高い丘から見える砂漠の都市ケークスは、以前のような賑わいは少なく、まさしく占領下にある土地だった。通行人はほとんどがイグナッソの兵たち。住民は夜は戸締まりをして、暴走した兵士達が略奪、その他のために入ってこないことを祈りながら暮らしているようだった。
右目を塞いで左目だけでみると望遠鏡を使っているように遠くまで見えた。それでも限界があるけれど。
「⋯⋯さて、潜入するか」
@@@
──遡ること、数日前。
>>ティモシー
ヘリドスの占拠していた村から更に西へ行ったところにある農村にきていた。
そこは小さなオアシスと共にあって、ちょっとした農地に、小船や魚の干物などが置いてあった。占領していた専権隊が集会所から出てきて、空を指さしている。
空からペリカンのような魔獣がホバリングするように降下して物資を落としていった。
冷蔵庫くらいの大きさのコンテナ。
コンテナ自体にも何かしら重量を軽減するような魔道具などが施されているようで、兵士が受け取ったときに、荷がふわりとしたのが見て取れた。
見た目通りの重量じゃない。
塔で取れたものをこうやって運ばれてたのかも。
ペリカンを追いかけてみるともう少し南西の街にもついた。そこを仕切っていたのは綺麗な女の人。金髪の髪のシスターがトップ? ヘリドスのように市民に酷いことはしてないようだった。
他の街や農村からは増援が来にくそうな場所にちょうどある。
うん、次はここを解放するか⋯⋯
*
そして街を解放しようと襲撃した時。──それは起こった。
専権隊にお目付役として派遣されていた聖処女教のシスターの部隊は、こちらの実力を見てあっさりと降伏した。ほとんど抵抗しないので、肩透かしを食らった気分だった。
そして今、僕の前には聖処女教のシスターが5人跪き、恭しく頭を垂れていた。
一人、他のものと衣装が違い、より前で代表して頭を下げているのが──
「シスター・M」
聖処女教会・修道司祭。専権隊の処女教からのお目付け役兼、専権隊少佐。
処女教の信者を中心とした独立部隊200名の指揮官。
僕からすれば、いや元いた世界の基準からすると、エロすぎる修道女服。スカートは長いがスリットが深く入っているし、ガーターベルトが見えているし。というか、上は谷間が思い切り見えていて、ていうかほとんどビキニに近い。肩の部分を外したらもう水着だった。
アニメで見たら好きなキャラになっちゃいそうだけど⋯⋯ いや、ここ砂漠だし夏服なのか? いやていうか砂漠で日差し強いならむしろ肌は隠すべきなんじゃ? 聞くとマジックアイテムで肌は保護しているかた問題なしらしい。処女教は女性は肌をある程度露出しなければいけない。という教義があることがわかった。それ、どんな教義だよ。
ブロンドの髪に、女なら誰もが羨むようなプロポーション。シミひとつない白い肌に、顔立ちは天使と見紛うようだった。瞳からは愛らしくも妖艶で底知れない何かを感じた。
そのシスター・Mが口を開く。
「⋯⋯交渉のお願いに参りました」
頭を下げながら彼女はいった。
「頭を上げて。それと、なんの交渉?」
胸の谷間に釘付けにならないように気をつけながら返す。結果的に相手の瞳を射抜くような感じで厳しい顔つきになってしまっているかも知れなかった。
シスターは一瞬目をこちらから合わせないように、視線を外してから応えた。
「降伏し、ただの捕虜になるのではなく。離反し、貴方様の軍につくための交渉です、できれば良い扱いをしてもらいたいのもあります」
地面に座りながらシスターが土下座するような格好になった。
「⋯⋯あれだけ、あっさり降伏しておいて捕虜は嫌だって?」
額を地面につけるようにしているシスターの背中の向こうから形の良い尻の盛り上がりが見えて、それを見ないように口元がにやけないようにキツく唇を結んで、シスターの後頭部を眉間にシワを寄せながら睨む。ティモシーここが正念場だぞ、リアルな女なんかに負けるな!自分に言い聞かせる。
「⋯⋯できれば、です」
「信用できない。早めに降伏したものに厳しい扱いはしない。そういう方針だから。ただそれ以上の対応は⋯⋯」
「──はい。寛大な対応をしていただき感謝します。そして普通でないことを言っていることは理解しています」
「⋯⋯⋯⋯」
顔を上げたシスターが背筋を正した。腕で真っ白で形の良い乳房が、ぎゅうと寄せられた。わざとやってるというより、姿勢よくしたら自然とそうなった感じで、メロメロになりそうだけど。この人はアニメキャラじゃない。それは僕が苦手な現実の人間の女で、しかもなりふり構わず、簡単に自軍を裏切るつもりの女の人だ。絶対好きになったり、メロメロになるなよ? ティモシー! 鬼のような意志力で睨みつける。ああ、こんな見た目の彼女ほしかったなぁ。僕いつになったら恋愛できんだよ⋯⋯ もう⋯⋯
などと考えてると、なんか喋ってた。
「⋯⋯ぐ、⋯⋯交渉材料と私を信用できる証がございます」
「⋯⋯証だって?」
真っ直ぐにシスターは僕の目を見て言って、シスターがあるものを取り出した。
「これを⋯⋯」
それは古びたノートだった。中には個人情報らしきものがびっしりと書き込まれていた。相当な量。筆跡やインクの劣化から、それが長年かけて書き込まれたのだとも、一目で理解できた。
「……これは処女教会の信者のもの?」
「──いえ、私がお目付役として関わった組織や部署に所属する個人のものです。主にレッテ共和国軍と専権隊の構成員の個人情報になります」
「──君のところの教会がこうして、調べているのか」
「⋯⋯それもありますが、ここまではやりません」
「どういうこと?」
「私情です。わたしの家族は⋯⋯ 私が幼い頃に強盗に殺されました。行きずりの犯行だとして、警察も司法も一方的に決めつけました。それを実行犯も知っているのは明白でした。犯行のあとも我が家で優雅にしていましたから、そしてどこかに連絡を取っていたのも私自身が見ています。事件の前から両親は脅迫されていました。私は運よく一人助かり、そのまま姿をくらまして孤児になった。その後は教会に引き取られた。あの一家の生き残りだと知られないように。何も記憶がないふりをして。シスターとして教会に属しながら犯人を追っていると同じような被害にあった仲間を数人見つけられた。そして怪しい組織にいきついた。秘密裏に行動する組織で実態がなかなか掴めませんでしたので、こうやって……」
「追っていたということか。なんで犯人は君を探せなかった?」
「私の友達が泊まりに来ていたんです。その子が間違って殺されました。そしてその後、犯人は家に火をつけました。友達は⋯⋯ その子は家が厳しくて⋯⋯」
「⋯⋯内緒で泊まりに来ていた?」
「はい。そのようなことです⋯⋯」
「それが君が捜索されなかった理由か」
「はい。そしてその暗殺者が専権隊とレッテ、セルシティの権力者が秘密裏に形成している腐敗を促進させるネットワークの差し金であることが後に判明しました。【ザ・リング】という集団です。狙われた人たちは皆、腐敗に抵抗していた行政組織の幹部たちだった」
「君の両親も?」
「そうです。両親は政府の監査部長でした。トップ官僚の逮捕を見逃した司法を調査している所だったと思います。ここは予想ですが⋯⋯ 幼すぎたので」
「仲間は?」
「この者たちです。皆、目的をともにするものです。私が集めました」
そう言ってシスターは背後に控えていた他のシスター4人をみた。
「他には? 具体的に何人?」
「……この、4人です」
「ここにいる人たちだけ?」
暗に少ないねと言うと、シスターはそれを厳しい顔で受け止めた。
「⋯⋯はい。⋯⋯どうにかします」
「⋯⋯君たちの望みは?」
「私たちをイグナッソ殲滅隊に入れてもらいたい。私の降伏した部隊の完全な掌握もしたいですし」
「──掌握? 何を言ってるの? それに殲滅隊はただの犯行組織だよ、君の復讐代行はしない」
「それも承知しています。完全に仕切っていたわけではないのです、今から選んだものを処刑させてもらいたいのです。そして私たちは数年後の殲滅隊の運命を大きく変える可能性があります。2つほど切り札があるので」
シスターの瞳は愉悦に歪んでいた。こいつ、この女⋯⋯ 大丈夫なのか? かなり物騒なことを言ってるけど。
「⋯⋯殲滅隊の運命って?」
「そのリストは、六年以上かけて集めた情報が記載されています。私が専権隊や、レッテ、セルシティに忠誠心を持っていないことの証明になるかと⋯⋯」
笑みがこぼれないように注意しているような顔でシスターが続ける。
「だから、殲滅隊の運命ってなに?」
「ああ、イグナッソは十分な調略と帝国の後ろ盾を得た上で今回の作戦を起こしました。つまり⋯⋯」
「⋯⋯つまり?」
「この戦争は長引きます。フリージア本軍はここまで来れません。そもそも編成すらうまく出来てないまま時間が過ぎている状態かと⋯⋯」
「なんでそんな事になってるんだ! 自国が責められて領土が切り取られ、民が攻撃されてるんだぞ!」
「腐敗しきってるのです。大丈夫です、殲滅隊は大きくなります、私達もそのために、どんなことでもいたしますので⋯⋯」
言いながらシスターは胸を覆っていたビキニを自らたくし上げて、妖艶な笑みを浮かべた。
「⋯⋯な、何を」
「殲滅隊は強い組織です。ヘリドスを殺したのも耳に届いています。精鋭中の精鋭が所属し、探索者のタワーウォーカーも3名いるとか⋯⋯ 戦闘員は100か200ほどですか? 私たちの200と合わされば3百。この土地から乱世が始まります、お館様。切り取るのです、土地を切り取って貪り喰らい、覇を唱えるのです」
「っ命令するな!」
「貴方様の御心のままに⋯⋯ でもどんなことでも命令してくださいね?」
「⋯⋯何が目的?」
「それはぁ…… もちろん復讐にございますぅ」
壊れたような恍惚の笑みでシスターが言った。
「裏切りは許さないぞ」
「はい! では、これをやりますね!」
そういうとシスターMは首にかけていたロザリオをとって、それを地に捨て、__一気に踏みつけた。
「後ろの女たちも、やれ」
言うと2名が動揺したのが見えた。
僕にはわからないが、彼女たちからすると大ごとなのかも知れない。確かに自分の文化圏の神仏の像や、シンボルを傷つけたりするのは抵抗ある人が多いのは容易に想像ができた。
シスターMが立ち上がって、やれ、というように顎で指示すると、みな一斉に立ち上がってロザリオを地に捨てて踏みつけた。
「殲滅隊への入隊を許可する」
「はっ! ありがたき幸せっ!」
シスター・Mはその日のうちに200名の部下の内28名を処刑した。
残った彼女に付き従うものたちは皆優秀で、神聖魔法の使い手が多くいた。特に探索などもこなせるような人材が数十名もいたのは僥倖だった。戦闘要員は150名以上殲滅隊に吸収。
@@@
ーご主人様、作戦は順調です。ケークス解放戦線、もといネビュラの軍に志願兵が集まってきいます。
「そうか」
凛とした綺麗な声。
聖処女教会の修道女服を着た見目麗しい女が報告してきた。
シスター・M少佐。
衛星都市の一つを制圧し、仕切っていた女。聖処女教会から専権隊にお目付役として、派遣され、先遣隊では少佐の地位を任されていた女。シスターであり、少佐でもある。
白い肌、美しい顔、ブロンドの髪に海のように青い瞳。服の上からでもわかる、他の女が羨むであろうプロポーション。
天使のような顔立ちだが、セクシーさも同時に備わっている女。そして結構な変わり者。クセの強い性格。強烈な復讐心を宿す者。
そのシスターからの情報で色々な事がわかった。
今、ケークスを占領している隊はバルク少将という男が率いているらしいが、まだケークス入りはしていない。その下に一人の大佐、名をドリアンというがこれが実質的な司令官。さらに二人の少佐がいる。その少佐のうちの一人がヘリドス、そしてもう一人が彼女。シスター・Mだった。彼女は少将の命令で衛星都市を制圧し、支配下に置いていた。
最初は彼女のことを信じられなかった。あまりにも早い変わり身で、尚且つ積極的に交渉しようとする。僕の女にも喜んでなるといってくる。
シスターはバルク少将を捕らえたいという。復讐対象の組織【ザ・リング】と関係があることをつかんでいたからだった。
僕らに投降し、協力することで見返りにバルク少将の尋問がしたい。それが彼女の希望。随分真っ直ぐな目でそう言われた、左目でシスターをみると、嘘ではなさそうなことだけは読み取れた。
「⋯⋯それと、もう一つがお忍びで訪れている皇女の誘拐。はぁ⋯⋯ どんどん厄介なことになってきてる気がするな⋯⋯」
【処女こそ露出せよ、それが主への感謝の表れである】
聖処女教会の教義の一つ。1000年ほど前の教主がそんな神託を聞いた、そしてそれを告げたことが始まりだとされる。露出度は基本自由だが禁止事項はある。裸、下着以外の何物でもないところまで露出してはならないことである。露出を頑なに拒むものは処女性が無いことを隠しているという思想もあるらしいが、そんなことを言い出したらなんだって通ってしまう。つまり単なる慣習、文化。




