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16話「獅子威し成敗」


 ──農村


 イグナッソの兵たちが村人を集め、殺し、村に火をつけ始めた。


「殺せぇーっ! むちゃくちゃにしてさっさとずらかるぞ! ぐ……」


 息巻きながら他の兵に指示を出していた兵士の首の横から矢が生えた。


 ー敵襲!敵襲!すぐに……


 ドサっ


 横殴りの雨より静かに、だが突風より確かな殺意をもって放たれた矢がイグナッソの兵に突き刺さって命を刈り取った。


「……ふぅ、まぁ、このくらいなら……」


 村の物見台にいた見張りは既に息の根を止められていて、仮面を被った狩人の狙撃地点となっていた。


「さっ、タワーウォーカー様のハンターに負けていられないわよ」

 

 ミリアムが隊につげると魔法の矢が一斉に放たれた。光の軌跡を描きながら矢は対象を追うように動く。間一髪避けた、そう思った兵士たちは急所を貫かれ、地に伏した。


 轟音


 その輝く矢に紛れ、スティングの必中の矢が放たれた。


 それが、ヘリドス隊の二人の副官を穿ち抜いた。傭兵時代からヘリドスの片腕として活躍した歴戦の戦士。防護の魔法が込められた上等な胸当ての上から貫通し、心臓を貫き破裂させた。


 「……あれも、このくらいか……」


 狙撃手が呟くと、ほぼ同時。


 もう一人の副官が倒れゆく同僚をみて驚愕する。


 ザリガニ小人の甲殻を貫くために張力をあげたスティングの新たな弓の射撃。


「これが、魔弓スティング・レイだ……」


 スティングが呟いた。


 驚愕しているもう一人の副官に、ピート・スタンピートが迫っていた。ピートが背後から大気を揺らすような大声で吠えた。副官が振り向き、今にも大斧を振り落とす巨漢の戦士をみて、体がのけぞり、回避に失敗し、そのまま潰された。


 一方……


 村の外に向かって走る影があった。


 白い布を羽織り、体を小さく見せようとするように縮こまらせながら走る。それでもその巨躯は隠しようがない。


 その影の前に男が立っていた。


「……待て」


「ひぃ! ど、どうかお許しをぉ…… この乙女に慈悲を……」


「──動くな。その布を取れ」


「それだけはご勘弁をぉ……、醜い顔なのですぅ」


 甲高い声で布を纏うものが言った。


「強い時は威勢良く、最後はそうやって死ぬのか? ヘリドス」


「……ぐ、ヘリドスなんて知りませぬぅ! 信じてくださいぃ!」


 ヘリドスの前に立ったネビュラが、ヘリドスの言葉を無視して、巨漢を蹴り飛ばす。ヘリドスが10m以上転がった。

 白い布をひっぺがし、投げ飛ばし、また蹴っ飛ばし、村のなかにまでヘリドスを押し戻す。集会場の前にはイグナッソ殲滅隊と生き残りの村人たち。ヘリドスの部下はすべて骸とかしていた。


「──おい! テメェみたいなゲス野郎を生かす気なんてないぞ。息子をちょんぎられた挙句に、ついでのようにオカマのフリまでしやがって、この小物野郎。さっさと腹決めろ。テメェが悪の限りを尽くした村人たちの前で死ね。こけおどしのヘリドスとしてな」


 ヘリドスの副官を始末したピートが大きな声で言い放った。


「……おれは、俺はぁっ! 獅子脅しのヘリドスだぁ! うらぁぁ、おまえらが死ねぇい! この俺様の逸物をちょんぎりやがってぇ! 貴様のぉ、逸物を今度は!」


 そこまで言ったところで、ネビュラがヘリドスの作った杭のに先端をとがらせた丸太を持っていることにヘリドスが気づいた。その丸太を片手で持ち、こちらに投げる動作に入っているところを──


 ──見た。


 次の瞬間。


 ヘリドスの視界が消失し、彼の耳だけが己の頭部が貫かれる音を拾い、その次、最後に聞こえたのは何か得体の知れない怪物が魂の肉を噛みちぎり、骨を噛み砕いては咀嚼する、己を喰らい始める音だった。


「……ヘリドス。お前は…… 弱者をいたぶり、それを快楽とし、そのくせお前自身が弱虫で…… 人を傷つけることしか脳がないクソ野郎。僕の中にいる怪物に魂ごと未来永劫食われてろ……」


「みんな勝鬨をあげろっ! フリージアの軍なんて待たなくてもいいんだ。他の占領地域も全て開放していくぞ!」


 覇気溢れる声でティモシーが吠えると、一瞬遅れて、殲滅隊全員応えるように声を上げた。


 イグナッソ殲滅隊に鎮魂窟付近の農村及び住民が合流した。





 @@@



 ──夢。


 《砂漠で行商人が歩いている。よく見れば犬のような狸のような顔で…… マオマオだ。俺の命の恩人……、いや俺が命の恩人だったんだけど。でも行く宛のない場所で目覚めて実際には反対のように感じていた。そして、もう一度命の恩人になることはできなかった。マオマオが、あのイケすかない受付嬢や、ケークスで見かけていた顔見知りの塔探索者や、止まっていたホテルの近所でよく見かけた住民と歩いていた、皆楽しそうに、どこかを目指してる》


 バッと飛び起きると、真夜中だった。


 村の修復作業などをしたまま、そのまま農村に泊まることになって……


 今はテントの中。


 隙間風が骨まで凍ってしまいそうなほどに冷たい。砂漠の気候は昼は暑く夜は恐ろしいほど冷え込むとは聞いた事はあるけど、なんとも言えない夢をみた直後に吹く冷たい風は堪えた。


 マオマオ……、いいやつだったな。悲しみが湧いてきて、そのあとは煮えたぎり沸騰するような怒りが湧いた。喰らった時に理解した。あのヘリドスも壊れていたんだ。僕と同じように。しかし僕にに壊される前に、あのゴミはすでに……、あんな殺し方ではまるで足りなかった。もっと限りないほどの無限の破壊と暴力をやつに与えてやりたかった。でも誰に与えるんだ? イグナッソに? わからない。何もわからない。もどかしい。イライラが止まらない。


「もっとだ……、あんなもんじゃない。あのゴミ。いや、あんなカスどうでもいい。専権隊に向ければいいんだ、この狂おしいほどの破壊衝動は……」


 自分が物騒なことを呟いているのは分かっていた。喰らうたびに周り中、自分の仲間もろとも皆殺しにしてやりたくなるほどの怒りが、情動が沸く。そしてそれを制御することすら、わずわらしかった。この左目は力もくれるけど…… 自分をも喰らいはじめているような気がした。


「ヘリドス。あいつは、歴戦の戦士か。それをあんなにも簡単に屠った。この力の代償としては、悪くないのかも。制御すればいいんだ……、ただそれだけだろ、簡単じゃないか」


 己が現実逃避しているような気がして、とにかく切り替えたくなった。


 外にでて、夜空を見ると__星雲。


 こんなに肉眼で見れる事は、少なくとも地球ではなさそうな光景。


「ネビュラ……」


「どうしたの? 寝れない?」


「……ミリアムか、君こそどうした」


 落ち着いてきたところで、ミリアムが話しかけてきた。正直今は話しかけてほしくなかった。


「まぁ、夜空を見るのは好きだからね……、そっちは?」


「ただの考え事」


「これからのこと?」


「そうだね」


「これからどうするの?」


「言っただろ。村や衛星都市を解放していく。ケークスも取り戻す」


「……この農村は五十人の部隊だけだった。他の占領地とも離れてるよ。でも他のところはそういうわけじゃない。2,300の部隊がいるし、それにケークスには数万いる可能性が……」


「──わかってる、次にもう2つ落としたら今度は……」


「今度は?」


「また今度話すよ」


「……はい? ──もう!」


 適当に誤魔化して、場所を移して逃げた。








 @@@



 ー誰だっ! お前たちは!


「殲滅隊だ!」


「砂漠の残党! こいつら砂漠の残党だ! ま、待て! 助けてくれ! 待ってくれ!」


「お前らは待たなかっただろうが!」


 ピートの野太い怒声が大気を揺らした。



 *


 ヘリドスの占拠していた村に続いて、近隣の村に雪崩れ込むようにして、専権隊(イグナッソ)を襲撃。


 これを併合し、村人を殲滅隊に受け入れた。戦えるものと戦えないものを分けつつ鎮魂屈へ。


 村を解放してもイグナッソが取り戻しにくる可能性。殲滅隊に入隊希望の者がいるかどうか、それと足手まといはいらないとも伝えた。非戦闘員は、アジトにて匿う準備はあるが、裏切りは許さないとも。


 日々、殺伐としている。別に構わないけど、殲滅隊の空気は常に重苦しかった。そのせいか緊張した面持ちの村人もいたが、結局全ての村人が従い二百人ちょっとを鎮魂窟に迎え入れることに。


 __鎮魂窟にて。


 村人たちをここの暮らしに順応させなければいけない。お客さん気分の人たちが数人いて、ピートにシメられた。ピートはやさしいから、ひどい感じじゃない。げんこつくらいだ。それすら嫌だし、強力しないなら、ここから追い出すだけ。


 受け入れた人員を左目で観察する。

 

 村人はだれもが弱く、最もレベルが高いものでもレベル2しかなかった。


 とにかく作戦は上手くいき、これで解放された村は2つ目。


 物資も回収。三百人近い大所帯になったが、それでも鎮魂窟内でとれる資源をあわせて2ヶ月以上は籠城できるだろう。籠城して過ごすつもりもないけれど。フリージア軍には頼らないなどといったけど、実際は僕を含めて誰もが、いつになったら軍はくるんだ? と思っていたと思う。

 

 村には殲滅隊の戦闘員と労働者のみ村に置いておく。普段は素材の加工などさせ、攻められたら防衛。敵兵が多ければ鎮魂窟まで撤退させる。防衛戦力として30人。


「アイゼン、この村は君の部隊。三十人で守って。撤退はしていい、無駄死にするな」


「はっ! 承知いたしました!」


アイゼンと部隊員がそう言って敬礼した。


 イグナッソも取り返しにくると思う。でも奴らも、いつ何時フリージアの軍に攻撃されるかわからないような綱渡りをしている。今抵抗が目立てば、フリージアの軍も乗じて動き出すのも早まるはず。


 殲滅隊はケークスの衛星都市とそれ以外の村を占拠している専権隊を追い出し、補給線を断つ。


 専権隊はケークスの蓄えていた物資を使用しているはず。それ以外でフリージアの外から物資を運ぶには港以外なさそうだし。でも大きめの港はまだ落とされてない。略奪か、塔から得た資源を軸に他の占領した場所から拡大して、港まで繋げるつもりなのかも。 


 なら塔からの補給を断つために、ケークスを襲撃して取り返すか? 少なくとも攻めれば、取り返せなくとも、他の部隊に送るのを妨害できるかもしれない。


 ただし、ケークスに攻め込む場合はケークスを占領している大部隊と戦闘になる。数は不明だが、数万はいると見積もってる。

 僕がどれだけ人間離れしていても、数万は無理だ。それよりは村の専権隊を襲うほうがいい。


 ただこっちだって人員は少ない。真正面からやりあえば、すぐに人員は枯渇する。


 やっぱり全部を取り返すのは無理か。ていうことはこれ以上は村を取り返すのはやめて街道で輸送隊を狙って相手を消耗させていくしかないかも。

 ケークスとその他の都市や村をつなぐ街道は4つ。街道を通って物資を供給しているなら、そこで専権隊の輸送隊を襲ってもいい。任せるならスティングか、ミリアムになりそうだな。


 僕だけで相手どれるのはどの位だ? 今の僕なら千近くいけると思う。炎の馬やヘリドスを喰らってさらに強くなった。


 あのヘリドスやピートなどの部隊長格の猛者は何人相手取れるか。十人くらいかも。それ以上になったら、もう何が起きても不思議じゃない。


 専権隊でこのレベルの奴らは百人に一人もいない。少なくとも今のところそんな割合でしか見ていない。へたしたら千人に一人。


 あとでアイゼンに聞くとアイゼンたちのレベルの猛者は百人に一人どころではなくて数百人から千人に一人いればいい方だと教わった。一気に話が変わったが、そこで釘を刺された。


<ただし、イグナッソは別です。伝統的に炎の塔で訓練されるイグナッソ兵は精強で、一般的な軍ならともかくイグナッソの兵士は優秀な戦士を常に募っています。1000に一人ということはないでしょう。イグナッソが2万いるなら殲滅隊の隊長格はヘリドス並のものが、200は考えられないが、80から120はいてもおかしくない>



 100は無理だ。本当に数は力だ。正面から戦った場合の希望は雀の涙ほどだった。


 ていうか、ちょっと待てよ。

 2万いるなら、防衛には必ず置いておく人数はどのくらいだ?


 これもアイゼンに聞くと1万は絶対におくと断言した。もと防衛隊がいうならそうなのだろう。守りが3倍の敵兵まで相手どれるなら3万以上で攻められない限り大丈夫な感じか?


 しかし、それだと4つの街道に僕たちが出現すれば2500の兵を同時に4つも展開できる。


 対して僕たちは千を超える部隊との戦闘は避けたい。殲滅隊の戦闘員はいまだ100名ほど。やはり10倍は流石にきつい。


 隊長格は皆レベル10を超えているけど……


 ・ティモシー(ネビュラ) 位階 19

 ・ピート 位階15 ・アイゼン 位階12 

 ・ミリアム 位階12 ・スティング 位階13


 僕をいれて5名。


 無理だな。村を全部解放して回るのは現実的じゃない。野盗のように、うまいこと捕まらずに動いていくしかない。

 群狼戦術か。輸送を徹底的に邪魔する……


 あとは……

 港に占領地域をつなげるのに適した場所を襲撃して占拠するか。村を無理に取り返すよりもそっちの方がいい気がする。取られても、また取り返したりすれば……


 軍の行動なんて僕にはわからない。だけど、やれることからやっていくしかない。


 


 

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