12話「ティモシー、殲滅隊を発足する」
──鎮魂窟。
天井の巨大な亀裂から日光が降り注ぐ。
意外なほどに緑がある。巨大な洞窟の中に森がある。
散歩していると、向いから人がやってきた。手を降っている。
振り返す元気がなかった。ただ会釈して返す。
やることは山積みだった。
食料のチェックに、人員のチェック、これからどうするんだよ。
食料なんてほとんどないし。……厳密にはあるが、雀の涙みたいなものだ。
しかし鎮魂窟の魔物や植物を採集していけば、……誤魔化せる。
なんなら今探索した場所だけでも、少しは賄えそうだった。
戦闘ができる者は少しいる。
特に戦闘に秀でているのはアイゼンの部下か、ミリアムの仲間だった。
実力者3名。僕と、アイゼンミリアムの2名とほか3名が自然と中心になっていた。
*
ドン!
「なんで止めねぇんだっ!」
ゴツい大男のおっさんが吠える。原始人が鎧をきて歩いているような男。いや、漢と書いたほうが良いかもしれない。ピート・スタンピートという名前で、なんというか。本当にしっくり来る名前だった。
「……う、それは」
「今は鎮魂屈の探索をすべきだ!」
岩のようなゴツい声。怒っているというよりは、指摘しているのだろうが、圧がある。言われているのはアイゼンだった。
会議で復讐の話にもっていこうとするアイゼンをゴツい歴戦の傭兵のようなピートさんが、引き戻すのはこれで、3回目だった。アイゼンはそのたびに冷静になり、わかってると頷くばかりだった。
「……まだ気が焦っても、それは自然だよ。しょうがないよ……」
このおそらく幹部会になりつつある集まりで最年少の女の子。
治癒師のアイラがアイゼンを気遣うように言う。
僕は何も言わないけど、この気持ちが冷めないうちに仇を取りたい。そして、それがどうせ正解じゃないのが、酷くもどかしく、残酷で理不尽に感じていた。そんな乱雑に散らかった感情が心の奥底に淀んでいる。アイゼンも近いはわからないけど、近い部分もあるのかもしれなかった。
ずっと地面ばかりみていることに気づいて顔をあげると──
向かいにはフード付きのポンチョをきて面をしている男。これも落ち込んでいるようだった。無口で、すごく静かな男。腕利きの弓取りで塔探索者だったらしい。名はスティング。他の人達は狩人とも呼んでいた。
ミリアムが難しそうな顔をして、こちらを見た。
「とりあえず、ここ鎮魂屈は危険。それでもここに潜んでいたほうがいいのは全員一致」
「──ああ、まずは探索からしよう。……生きるために」
話を整理するミリアムに返すと……
他の面子も全員頷いた。
共通しているのは皆憔悴しきっていることだった。
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鎮魂窟の探索に丸一日以上かけた。途中でピートに止められた。僕も気が焦っていたらしい。
とりあえず部隊を作って3名から6名ほどで探索は行ってる。
ピートとスティングが、このくらいの人数にするべきだと言った。僕はよくわからないし、素直に従った。
ネビュラ隊。スティングとピート隊。アイラ隊は探索よりも治療部隊って感じだ。貴重だし、危険な場所を探索させてられない。
ミリアム隊とアイゼン隊も。これで大体5部隊くらいだ。
鎮魂屈は地上2階層と地下2階層までは一度入った。
それぞれその時手の空いてる部隊に探索してもらった。
僕はスティングとピートと3人で組んで地下へ。
地下は少数精鋭のみで行きたい。
というのも徴候役の持ち帰った情報では地上よりも地下の魔物の方が強いというからだった。
この世界は魔力が満ち、それが魔物や人の力を底上げしているが、同時に個人の戦闘力に差がある。数は依然として力だが、実力に開きがありすぎるものと組むと、逆にお守りをしながら戦わうことになる。
地上はミリアムに任せて、地下へ降りると気温が数度は低くなった気がした。
鎮魂窟の地下は相変わらず鍾乳洞と、ここで形成された独特の生態系のミックスのようだった。
違うのは石畳や石壁が洞窟の壁の一部に混じっていること。
カミソリ一枚も入る隙間なく綺麗に積まれた石壁。
「──まるで昔ここに文明の……、城か要塞などがあって、それが埋められた後に洞窟となったみたいだ」
壁に触れるとひんやりと冷たい。
連れてきた二人も興味深そうにしていた。
スティングは僕と同じように石壁に興味深そうに触れていて、ピートは感心したような顔で周囲をしきりに見回していた。
「旦那、ここは古代の遺跡かもしれんな」
ピートが何やら思案しながら言った。
「古代の遺跡?」
「ああ、古代文明の建築物が鎮魂窟の下に眠っているのかもしれん。ほら旦那も探索者だったんだろ? タワーもその一つだ」
「塔だけ…… 特別なのかと思ってた……」
「いいや。塔が特に目立っているだけだな。機能しつつ、人間に富をもたらしつつ、よく残っているだけだ」
ピートが教えてくれる。
へぇ、と感心しながら聞いた。完全なる脳筋かと思いきや、案外歴史などにも詳しい人な気もしてきた。ていうか、面倒見もいいし、アドバイスも筋が通っているし、めっちゃ優秀な人材なのかも。
あとでもっと聞いてみようか。
「……どの文明、勢力のだろう」
「さぁな、塔は悪魔の棟梁が作ったとも、人が願い、神が作ったともいうし。埋められた城の話は聞いたことないしなぁ……」
小さな声でスティングがいうとピートが返した。
「──二人は詳しいの? 古代の勢力ってのは?」
「ああ、ここらでは神代の時代には血で血を洗うような戦争が起きまくっていたと伝わってる。神やら悪魔やら英雄やら、とんでもない力を持った存在が互いに殺し合ってたんだ」
ピートが言う。
「……太陽の魔女、死皇帝、英雄、月の霧、星隠者、世界放浪者、悪魔の棟梁、死人の悪魔、救世主、星降らしの怪物、眠れる異形の姫、灯喰らい、悪竜、青龍、機械仕掛けの蜘蛛とか」
スティングが呪文のようにつぶやき出す。
「──おぉ? よく知ってんじゃねぇか! 」
ボソボソと聞きなれない単語を続けたスティングにピートが嬉しそうにいって、バシバシ背中を叩く。
スティングがむせるんじゃないか、と思ったけど、意外と効いてなさそうだ。かなり鍛えているのかも。
「……それが、その、神話の登場人物?」
聞くとスティングがコクとうなづいた。
面白そうな話だったけど、昔はこんな物語大好きだったんだけどな。
今は…… 探索を再開しよう。
まずは僕たちの生存権を作らないと、……ここで死んでちゃ物語にもならないんだ。
*
「一つ目は、イグナッソ、専権隊がかなりの兵数います。ケークスを中心に周辺の街も塔がないところまで占領。略奪の限りを尽くしていました。この食糧や魔道具などは奴らが略奪し運んでいるものを襲って得たものです。村人は盗人だと言われ、処刑され、資産を奪われています」
言いにくそうにアイゼンが言った。
「──村人を盗人として処刑してる?イグナッソのほうだろ? 盗人なのは」
「自分たちの塔から盗んだ資源で裕福になっているという論理です」
「……めちゃくちゃだ。富裕層を敵としているとか? それとも世界中の塔の近くに住む人々?」
「はい、……といっても複雑です。政府に近い富裕層のみを味方として、その他の富裕層は敵であり盗人としています」
「政府に近いものは味方って?」
「利用価値があるものとだけ。そことだけ仲良くやっているのです」
「誰に利用価値があるの?」
「様々ですし、時と場合によります。私も全てはわかりませんが、おそらく政治か、官僚、司法関係、御用学者、教育機関、メディアに警察…… 皆じゃないです。でも利用価値あれば利用しようとするでしょう」
「……なんだよそれ。複雑な話になってきたな、ということはケークスを裏切った連中は彼らにとっては……」
「裏切り者は英雄です、庶民は盗人。少なくとも言葉の上では。そして2つ目ですが……。ネビュラ様に高額の懸賞金が付けられています」
「……ほぉ、いくらだ?」
ピートが興味ありげに身を乗り出して言った。 面白がっている感じだ。
「……僕だけ?」
「……ピート殿、ふざけないでもらいたい。額は──1000万。撤退戦の際の活躍凄まじく。専権隊の将校も含めて多大な損害を与えられたことをケークスを占領しているイグナッソの将達が、許すまじ、と言う勢いで喧伝していました。1000万は普通の報奨金ではありません」
「さらに、私とミリアム、そしてピート殿もですよ。額は100万。専権隊にとってもここまでの被害を出させられた相手がいまだにこの地にいる可能性は放って置けないと見ます、残党狩りは徹底して行われるでしょう」
ピートがバツが悪そうに頭をぽりぽりとかいた。
「……言っておきますが、懸賞金は誰に対してでも払われます。我々の中で裏切り者が出ても、ケークスの市民でも、です」
聞きたくない情報を真っ先に教えてくれた。感謝するけど。
「それだけではありません。隠れ家の場所を売れば……」
「……売れば?」
「1000万とはいかずとも、100万くらいはもらえるでしょう。100万あれば、結構な資産です。あまり甘い顔を組織内ですることに注意してもらいたいとも、正直考えています」
目立ちすぎたのか。
あの撤退戦で。
これで僕は関係ない、たまたま滞在していた街で市民と街を守るのを手伝っていただけ。なんてのは通じないだろうことが理解できた。
そんな気は毛頭ないけど。その逃げ道はないのがはっきりとして良かった。
敵が僕を指名手配した。
敵地でだ。
どれだけ狂っているんだ。それとも自信があるのか。
フリージア都市連合だって、流石に、軍を動かす。いやすでに向かっているはず。正規軍が到着するまでの間、ここでしぶとく抵抗するのか。それとも積極的に奴らを襲いにいくのか。その2つの選択肢が頭の中をぐるぐると回っていた。
「……うん、覚えておく。専権隊の規模は?」
「具体的な規模は分かりません。帝国軍の方が大きいのは間違いないですが。噂では帝国軍の兵数が100万以上、専権隊が7万とか。ケークスには少なく見積もっても数万はいるのではないかと……、以前からそれらしき奴らが街には入ってきていましたが……」
「……かなりの数だね」
「そうか、防衛隊はそう言う連中ともやりあうことがあるのか」
「はい、特にここ数年は警察隊のトップが買収され、警察隊がやらねばならないことを理由をつけてはやらないので板挟みになって仕方なくやったり、動けば越権行為だと非難されたり。私は、……妻が通り魔に殺されました」
「……通り魔?」
「……組織的な脅迫の手段としての犯行だと司法が認めなかったのです」
アイゼンの中で燃えるような怒りが湧き出しているのが伝わってきた。
「その裁判官も買収されていた?」
「そうですね、死ぬ前にはそう申しておりました」
「……いつ死んだ?」
「襲撃の少し前、私が部下と誘拐し、殺しました」
「…………」
アイゼンは愉悦に染まった瞳で、しかし笑わないようにきをつけているような表情だった。
ゴホン!
ピートが咳払いして、空気を変えろと暗に告げてきた。
「警察隊の買収されたやつは?」
「見つけ次第始末します。裏切り者には死あるのみですので。ここに連れてきてもいいですね。どれだけ拷問しても足りませんが、少しでも溜飲を下げるためにはいいでしょう」
アイゼンが言った。
「……おい、みんなの溜飲か? それとも、お前のか?」
ピートが止まらないアイゼンに迫るようにして言った。冷静になれ、そう言いたいんだろう。
「──私のです」
アイゼンは今度は柔らかい笑みでいった。
ピートがこりゃだめだ、という感じで席に座り直した。
ミリアムがアイゼンとピートを見て、首をぽりぽりとかいていた。
それ見てたら目があった。気まずそうにしている。
「それと、今後の方針ですが、ネビュラ様。奴らは残党狩りを執拗にしています。場所を移すこともできますが…… 候補はありません」
「うん。ここでいいよ」
「……それでいいと思う。逃げても同じことになるからね、きっとね……」
ミリアムが地面を見ながら言った。
「……他にみんなは言いたいことはある?」
いうと、誰も何も言わない。
「俺は旦那に従うし、ついていく。戦場が俺の棲家だ、ここは気に入った。俺がついてないと、ちぃと不安なメンツでもある」
響く声でピートが言った。
スティングとアイゼン、ミリアムを見ると、皆うなづいた。
「わかった。僕たちは鎮魂窟を根城にし、専権隊に抵抗する。周囲の街にも偵察にいく。隙あれば襲撃もする。専権隊がここを嗅ぎつけてきても、来るたびに滅ぼす。以上」
「ちょっとまって、フリージアはどうするの?」
「フリージア都市連合だっけ。軍が来たなら、その時は引く。とりあえずはイグナッソのクソどもを叩きのめす」
全員、呆けていた。
「……え、軍が来るまでは、ここで潜んで、その後合流して、とかじゃなくて?」
ミリアムがいった。
「ああ、隙を見つけたらぶん殴りにいく」
ミリアムの目が点になって、そのあと唇を結んで__
「そう来なくっちゃ! こっちは殺されっぱなしなんだよ!! 何もせずに逃げてばっかいられない! それにフリージアの連合政府に期待してても仕方ない! これは自分たちのことなんだ! 私たちの戦いだ!」
涙ぐみながら声を張り上げた。
「あんまし、勢いづくなよ嬢ちゃん。よし、旦那。作戦会議に、自給自足に、襲撃に、忙しくなるな! このピート様がひよっこどもの戦闘訓練も受け持つ! それとケークスの前に補給の中継地点の街から解放してってもいいかもな!」
「うん」
「ネビュラ様、この組織の名は?」
アイゼンが清々しいような表情で聞いてきた。
「僕たちはイグナッソ殲滅隊、イグナッソ殲滅隊だ」
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スティング・ウィーザー
20代半ばの塔探索者で「狩人」の名で皆に呼ばれている。
カーキのフード付きのポンチョを着ている。無口だが、だいぶ協力的ではある。ただシャイなだけなのでは、とも思った。主に弓を使う、腕は達人級。剣も上手く扱う。顔を見られるのを嫌い、仮面をつけている。素顔は割と整っているようだった。ただシャイなだけ。
アイラ
ヒーラーと呼ばれていた19歳の少女。教会に育てられ、才を見出され治癒術師になった。多少の怪我なら彼女が治せるらしい。短めのおさげの明るい茶髪。肌は小麦色、瞳は金色。
ピート・スタンピート
ひたすらにゴツいおっさん40代半ば。常に自信満々。筋骨隆々、筋肉の神・ダディを信仰する放浪の修道騎士。白髪まじりの髪はオールバック。濃い無精髭、分厚い鎧、巨大な斧、槌。盾を軽々と振り回して戦う不屈の戦士。装備重量はダディのみぞ知る。全てを筋肉で解決する男。性格は寡黙だが、不遜、そして頑固。
188センチ。140キロ。
ブラザー・ナイト
修道騎士:ダディに身を捧げたもの。前の世界にはシスターがいた。この世界はブラザーもいた。ティモシー的にはそれだけしか理解していない。




