アイナの冒険
夏休みになってから、ずっとこの悪夢を見続けまている。正直、頭がおかしくなりそうだった。
夢での体験を伝えたら、頭がおかしくなったと、病院に連れて行かれるかも知れないと考えた。
だからずっと言えないでいた。
だが、1人で抱え込むのに限界が来た。
廃墟の学校の廊下の向こうからやってくる不定形の死神に殺されて、また朝を迎えた。
最初の日にやられた右手がヒリヒリとしている。見ると一部じゅくじゅくとした傷になっていた。
あの死神に夢の中で殺され続けると、いつか目を覚ますことも出来ずに死んでしまうのだろう、という予感がした。
そう考えると不安でいっぱいになり、気づいたら涙腺が刺激され、泣いてしまっていた。
○○○
朝起きて、しくしくと泣いていた私に、兄が「どうした?」と話しかけてきた。
馬鹿にされるかも、と思ったが、もう限界だった私は兄に夢の話をした。毎晩同じ悪夢を見て、悲惨な目に遭っていることを語った。
そして傷を見せ、夢と現実がリンクしていることを伝えた。
少し間が空く。何かを考え込んだ後兄は「脱出ゲームみたいだな」と一言呟いた。
「夢のことを馬鹿にしてるんじゃないんだ。ただ、何となく、正解みたいなものがあるんじゃないかな?って思ったんだよ」
泣いていた私の気が落ち着いたのを確認し、兄が言う。まず言われたのが、スタート地点の近くをきちんと探索したのか、ということだ。
兄は、好きなゲームのシリーズの中に、スタート地点のすぐ後ろに最強のビーム兵器が落ちているものがあった、と言われた。
実は攻略の手立てがあるのに気づかず、ただひたすらに無駄なこと、非効率なことをしているのではないか、と指摘されたのだ。
そう言われれば、ちゃんと教室内を探索したりはしていなかった。
もしも、今夜も悪夢を見るようなら、まずは教室の探索から始めてみたらどうだ?と言われた。
○○○
「やっぱり同じ夢を見るのね」
目を覚ますと、最近見る悪夢の教室にいた。
のんびりしていると、廊下の向こうから死神がやってくる。
朝、兄からもらったアドバイスに従って、教室内を探索することにした。
まず、全員の机を見てみた。
折れた鉛筆やらぼろぼろで日に焼けて黄色く色褪せた教科書やらが出てきた。
これらが攻略に役立つとは到底思えない。
無視して全員の机を探る。
そして
「元の世界ならメイちゃんの机だったはずよね。何だろコレ」
机の中から、禍々しい限りの鬼の首のような物が出てきた。
そう言えば、1学期、他の女の子たちからメイちゃんを無視しないと、私も仲間はずれにする、と脅された。
それからメイちゃんを無視するようになってしまった。
悪いことをしている感じはずっとしていた。
他の子たちが、メイちゃんに消しゴムを投げたり、悪口を書いた手紙をカバンに入れたりしていた。
誘われたが、流石に断った。
男の子の誰かが、お地蔵さんの首をメイちゃんの体操服入れに入れたり、机に入れたりして怖がらせていたりもした。
「もしかして、悪ふざけでお地蔵さんの首で遊んだりしたから、クラスみんなに罰を与えているのかしら?」
私は見て見ぬ振りをしたけど、それでも主犯格じゃない。
罰を与えるなら、首で遊んだ人だけにして欲しい。
「なら、この首、元々はお地蔵さん?」
鬼のようになっているけれども、そうなら辻褄があう。
ならば、この夢からの脱出方法は
「この首をお地蔵さんのところに返すのがクリアの方法かしら」
○○○
「超惜しい!」
「ニアミスであるな」
私とアバドゥンは声が重なる。
だけど、これで餓鬼さんたちのところは素通り出来る。
アシナガサマが教室に入ってきたが、教室にあったものを整理して投げつけて、重曹がアシナガサマに効果があると気づいたアイナちゃん。
同一個体であるテナガサマが出るお堂もクリア出来るだろう。
後はスルトだが
まぁ、ちょっと熱い程度だろう。
そこまでアイナちゃんに対しては、私もヘイトが溜まっていない。
無視されたのは傷ついたが、多分他の子に唆されて靡いたんだろうし。
○○○
「メイちゃんも、この夢見てるのかな。なら重曹が効くの、教えてあげた方が良いよね」
明日、起きたら、メイちゃんの家の郵便ポストにメモを入れよう。
匿名なら誰がやったか、なんてわからないだろうし。
○○○
あーー。
「おや、スルトが人肌になったな」
アバドゥンに言われる。
アイナちゃんがいるダンジョンの歩道橋を見ると、掘り炬燵の遠赤外線くらいの明るさで待機しているスルトがいた。
担任の先生や斎藤くんがいるダンジョンのスルトは、高熱化しすぎて青白いのに対して、あまりにも暗い。
ラスボスが無力化される瞬間をみた。
「ねぇ、夢の中では解呪の呪文って使えないの?」
「うむ。使えぬな。アレは現実世界で肉体に対し使うものであるからして。面と向かって使わねば効果はないのだ」
「じゃあ、もしアイナちゃんに使うとしたら向こうに戻ってからになるのね」
「このお嬢さんなら、使わなくともクリア出来そうであるがな」
アシナガサマを撤退させ、邪神像の頭部を持って1階まで辿り着いたアイナちゃんであったが、正門側へ歩き出し、敢えなくムーちゃんと対峙し、捕食されることとなった。
初回のムーちゃんなので、大したペナルティもないだろうし、次からは裏門を使うようになるだろう。
早くクリア出来るといいね、アイナちゃん。
○○○
5日目現在の冒険者情報をまとめた。
女子6人パーティ
テナガアシナガサマへの対処法未発見
邪神像の頭部未発見
校舎からの脱出達成済み
その他女子パーティ
3人パーティが1組
2人パーティが2組
テナガアシナガサマへの対処法未発見
邪神像の頭部未発見
校舎からの脱出未達成
単独攻略者
アイナちゃん
テナガアシナガサマへの対処法発見済み
邪神像の頭部発見済み
校舎からの脱出達成済み
男子3人パーティ
テナガアシナガサマへの対処法未発見
邪神像の頭部未発見
校舎からの脱出未達成
その他男子パーティ
2人パーティが3組
テナガアシナガサマへの対処法未発見
邪神像の頭部未発見
校舎からの脱出未達成
男子単独攻略者
テナガアシナガサマへの対処法未発見
邪神像の頭部未発見
校舎からの脱出未達成
担任教師
テナガアシナガサマへの対処法未発見
邪神像の頭部未発見
校舎からの脱出未達成
「こうしてみると、みんなで協力して弱い者いじめは出来るのに、困った時は協力し合えないって馬鹿みたいね」




