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いじめられっ子ダンジョン  作者: センチメンタルアスパラガス
冒険者をやっつけよう
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校舎からの脱出者


「カーテン使って、ロープを作って1階に降りよう」とカスミが言った。



この変な夢も4回目。


昨日、カスミとホノカに話し、2人とも私と同じ夢を見ていることがわかった。


その日、夢で2人と合流した。


2階の階段の踊り場にいる“ベトベト”のせいで、私たちは学校から出れない。


なら、2階を通らなければ良い、という話になった。

そのために、中を歩かずに外に出る方法を考えたのだ。



「カーテン、結構ぼろぼろだけど、大丈夫かな」


「コヨリにして、太くして、長さが足りるなら三つ編みにすれば、強度が増すんじゃない」



それからは早かった。


下校の放送が鳴れば、あのベトベトが動き出す、というのが3人で出した結論だった。

なら、放送の前に学校から脱出しなくてはいけない。


カーテンで作ったロープは、私たちが引っ張っても裂けたりしなかった。



「柱に結びつけたわ」


「脱出よ」


言い出しっぺのカスミがロープを使って、降りる。

流石に人間2人の重量は危ないかもしれない。


ぼろぼろのカーテンだったが、しっかりとしたロープとなった今、カスミ1人の体重を支えるのは容易なようだ。


安定した動きで、スルスルと降りていくカスミ。


私とホノカは、カスミが1階に降りたのを確認する。



「大丈夫。あのベトベトはいないわ」


そうカスミが言った。


降りた先にベトベトがいたら、台無しだ。

カスミは先行し、それを確かめてくれたのである。


ならば、後はゆっくりと確実に降りれば良い。そう思った。


その時、下校の放送が鳴った。

ベトベトの活動開始の合図だ。


だが慌てない。


あのベトベトにさえ、会わなければ何とかなる。


「慌てないでホノカ」

「大丈夫、まだ大丈夫だから」


応援の後押しもあり、危なげなく、ホノカも1階に降り立った。


「後はノゾミよ。頑張って!」

ホノカが私を応援してくれる。


気合いを入れる。


私がベランダに出、ロープを掴んだタイミングで、廊下側からズルズルと何かが近づいてくる音がし始めた。


ベトベトが来た。


3人がロープで降りるくらいが、ギリギリのタイムリミットなんだろう。


急いで、でも焦らずにロープを伝って降りる私。


後もう少しで、地面に足が着く、というタイミングでロープが切れた。


落下した私は、尻餅をついてしまったけど、大したことはなかった。


切れたロープを見ると、切れ目は焼かれたようになっている。

3階のベランダを見てみると、あのベトベトがこちらを見ていた。



「ホノカ!ノゾミ!逃げよう!」

カスミに手を引かれ、私たちは正門へと駆け出した。


もしかしたらベトベトが追いかけてきているかも知れないと思い、後ろを見たが、ベランダのところから動いていなかった。



「アイツ、追いかけて来てないわ」


「学校の中だけしか動けないのかも」


「よーし、このまま学校の外に出よ



カスミの声を途中まで聴いたのは覚えている。だけどその後、地面が揺れたと思ったら、3人とも“落とし穴”に落ちてしまったのだ。


せっかく教室から脱出出来たのに、運動場にも罠があるなんて。


そう思った後、私の意識は無くなった。



○○○



足の痛みで目が覚めた。


布団を捲ると、パジャマにムカデがついていた。


悲鳴を上げたら、パパが来た。


ムカデを見つけたパパが、割り箸で掴んで捨ててくれた。


「ムカデに噛まれて、足が腫れているな。軟膏を塗ろう。9時になったら、病院で見てもらおうな」とパパが言って部屋から出て行った。


パパが出て行った後、私は急いで他の2人にメールを送った。


他の2人は?何か起きた?



返事はすぐに来た。


カスミちゃんは足を攣ったらしく、ホノカちゃんは起きた時にベッドの角に足をぶつけたらしい。


3人とも軽いが、共通するのは足の怪我だ。どうも、あの“落とし穴”に落ちると、足を怪我するみたいだ。


その事をメールで2人に送った後、朝ごはんを食べにリビングへ向かった。


本当は、この夢のことを家族に伝えたい。

でも、あそこにパパやママを連れて行くことになるかもしれない、と思ったら黙っておくしかなかった。



何でこんなことになってしまったのだろう。



○○○



「惜しいのぅ。しかし、怯ませる以外での攻略に出たのは、彼女たちが最初か。うむ。やはり、作戦を立て、あの手この手で抗う人間の姿は美しい」

アバドゥンは満足げにダンジョンを眺めていた。


昨日から今日にかけ、パーティを組む冒険者が増えた。


1人で何も出来ずに、アシナガサマに殺される者もいるが、何かしらか作戦を練り、先に進む者たちもで始めた。


今回、初めて校舎からの脱出に成功したパーティが生まれた。


残念だったのは、ムーのいる運動場側に向かったことだった。


だが、彼女たちは学習したことだろう。次は裏門側から抜けるに違いない。



「だが、教室から“アルカリ性洗剤”も“邪神像の頭部”も持ち出していないとなると、テナガサマか火喰いグールで詰まるであろうな」


彼女たちは、教室内の探索をしておらず、攻略アイテムが回収出来ていない。


校舎の脱出以上の戦果は望めない。


その前に別のパーティと組むことが出来れば良いのだがなぁ、とアバドゥンは思うのだった。



○○○



新幹線で移動し、祖母の家に来ていたダンジョンマスターは、自分の生み出したダンジョンが上手くいき、未だに攻略の気配すら無いことに気づいてもいない。


クラスメイトの中には、軽いとびひが出来、病院で抗生物質の治療が始まった者もいるのだが、対岸の火事である。

というか、そんな事実も知らずに夏休みを謳歌していた。


地獄のような1学期を忘れるべく、楽しく1日1日を過ごしている。


いとこに協力してもらい、まだ1週間も経っていないが宿題を終わらせた。


今は、どうせ読んでもらえないだろうが、と思いながらも読書感想文を書いている。



そんないじめられっ子ダンジョンマスターの元に1人の人間が訪れた。



○○○



おばあちゃんが、私を玄関に呼んだ。


そこには、袈裟を着ているのにも関わらず、涼しげな顔をしたお坊さんがいた。


「メイちゃん。正光寺さんが来たんよ。麦茶出して上げぇ」


「はーい」



メイちゃんと呼ばれ私は、おばあちゃんに言われるままに、冷蔵庫の水差しから麦茶を注ぐ。冷えた麦茶のおかげで、コップはあっという間に結露でびしょびしょだ。



「今日はどうしたん?」

聴き耳を立てると、おばあちゃんとお坊さんの会話が聞こえる。


確かにどうしたのだろうか。

お彼岸でも無いし、今供養が必要な人もいない。


「いやぁ、近くを寄ったもんですから。久しぶりにメイちゃんにも挨拶を、と」


「小せい頃のメイしか見とらんもんなぁ。今夏休みで帰って来ちょるんよ。茶ぁ持ってきたら挨拶させるわぁ」



玄関にお坊さんとおばあちゃんの分の麦茶を持っていく。


キンキンに冷えた麦茶だ。


「有り難くいただきます」

そう言ってお坊さんは麦茶を流し込む。喉を鳴らしながら飲む姿を見た時、お父さんがビールを飲んでいる姿が頭をよぎった。


「はぁっ!美味しいですな。ありがとうございます」


良い飲みっぷりを見せてくれたお坊さんが私に笑いかける。


「うむむ。近くで見ればよく分かりますな。変なもんが憑いちょるね、メイちゃん」とお坊さんが言い出した。



○○○



玄関から客間に移った私たち。


机の上に広げていた作文用紙を片して、対面での話し合いになった。



「正光寺さん。メイがどうしたって?」とおばあちゃんが聞く。


お坊さんが私を見ながら、うーんと唸り、頭を時々掻いたりしている。


「メイちゃん。何か罰当たりなこととか思いあたらんかい?」

そんなことを聞いて来た。



罰当たりなこと?

思い当たらない。


もしかしたら1学期、嫌がらせでカバンにお地蔵さんの首を入れられたこととかだろうか。


いじめられていることを避けて、誰かのイタズラでそんなことをされた、と伝えた。



「いや。そういうのじゃあないよなぁ」


違うのか。


おばあちゃんの方は、私がされたイタズラの方が気になり始めたようで「いじめられてるんじゃないのか」と聞いてくる。



実際いじめられているのだが、心配はかけたくない。ただのイタズラだよ、と答えた。



「よく分からんかも知れんがね。メイちゃんには、なんというか、呪いみたいんがただよっちょるんよ」


呪い!?


「心配せんでええ。妙ちくりんなことに、トゲトゲしさは無いんじゃ。優しー感じのが憑いちょるんよ」


優しい感じ!?


「何も悪さもせんかも知れんが、ただ家の外からでも分かるような呪いなんじゃ」



もしかしてアバドゥンのことなのでは無いだろうかと思いついた。


しかし、これは言ってしまっても良いのだろうか?

言うとなると、いじめられていることも言わなくちゃいけない。

おばあちゃんの前では、いじめられていることは言いたくない。


うーん。



私が悩んでいるとお坊さんが「思い当たる節があるにはあるんやね。でも言えんのやね」と私に言ってきた。


その通りなのだが、否定も肯定もしたくない。嘘もつきたくない。おばあちゃんの前なら尚更だ。


「そうね。もし、話してもええよってなったら、電話して。おじさんの電話番号教えるけん」

そう言うと袈裟から、質の良さそうな革の財布が出てきた。


お寺の名前の書いた名刺の裏に、携帯電話の番号を書き、私に渡して来た。



それを渡したら、お坊さんはおばあちゃんに挨拶をして家から出ていった。


「もしかしたら、自分の立ち位置が分かっとらん守護霊が憑いちょるんかも知れんけん。あんま、メイちゃんに詰め掛けちゃあかんよ」とおばあちゃんに言っていた。


お坊さんがいなくなった後、最後の言葉もあってか、特に何も聞かれなかった。

少しだけ心配している感じの顔をされた。



今日のことはアバドゥンに伝えた方が良いかな、と思ったので、夜寝る前に、自分に迷宮への誘いの呪文をかけた。



○○○



ダンジョンメイキングの時振りの壊れかけの教室だ。


そこにアバドゥンと2人でいる。


そして、今日昼間あったことを話した。



「それは“魔力”であるな」


「魔力?」


「この時代に目で見えるのは、人間としてはかなり凄いことである。我が輩の気配やダンジョンマスターの魔力が、その坊主には優しい呪いに見えたのであろう。面白い表現だ」


アバドゥンが笑いながら答える。


「その坊主には、むしろクラスの者たちを見せてやりたいものであるな。あちらは本当の呪いであるからな」


「呪いなんだ」

考えてみれば、死ぬ罠が張り巡らされたダンジョンにワープする魔法なんて呪い以外の何物でもないだろう。

そこに至り、1つ疑問が湧いた。



「“人を呪わば穴二つ”って言うじゃない。もしかしてクリアされたら私に呪いが返ってくるの?」


おっかなびっくりな感じでアバドゥンに訊ねる。



「いや。あれはそういう類いのものではない」と一言だけ返された。


「勿論、“反転呪文(リフレクション) ”というものもある。しかし、使えたからと言っても、今回の件で言えば大したことはない。

お嬢さんはすでに解呪の呪文も知っておるだろう。仮に呪文を返されても、攻略法を知りつくした自分の作ったダンジョンに飛ばされるだけじゃ。そして目が覚めたら、自分に解呪の呪文を唱えれば終わりじゃよ」

とアバドゥンが教えてくれた。


「“しっぺ返し”というのは、呪いをかけられた、という人間社会での社会的地位の下落、ひいては没落のことよ。つまり、お嬢さんの場合は、意図的に社会的地位を下げた周りが現在進行形でしっぺ返しを食らっている、と言った方が正しいのだ。気にすることはあるまい」

そう言ってアバドゥンが私の肩をぽんぽんと叩く。


「自責の念に苛まれることも、その言葉には含まれる。確固とした復讐心があるのならば、それも大丈夫である」


確固とした復讐心。


私にそのレベルまでの意思はあるのだろうか。



○○○



その日、アバドゥンと一緒に先生やクラスメイトのダンジョン攻略を眺めた。


クラスのスクールカーストの高い子たちが6人でパーティを組んでいた。


彼女たちは、カーテンを使ってロープを作り、校舎から脱出していた。


思いつかなかった攻略法だ。


「人間の発想はすごいなぁ」とアバドゥンも感心していた。


だが4人はロープで降りれたが、2人はアシナガサマに捕まり、ドロドロに溶かされてしまっていた。



4人までしか使えない脱出方法と分かった以上、今後は椅子取りゲームになるだろう。

明日からはどうなるんだろうか。



裏門から学校の外に出れた4人だったが、ゴールでないことに気づいたようで、泣き叫びだした。


しばらく泣き叫んだ後、彼女たちは各々の家に向かおうと霧の沼地に足を踏み込んだ。


そして待ち構えていたムーちゃんに捕食されて全滅した。



他にもパーティが結成されていたが、パーティでアシナガサマを攻略出来た者は誰もいなかった。



○○○



「おっ。見よ、こやつ。やるかも知れん」


アバドゥンが私を呼んだ。


見ると、元々は仲の良かった子が1人で教室を探索している。



アイナちゃんは、これまでの5年間同じクラスだった。そこそこ仲良くしていたのだが、今回、私のシカトに参加するようになった。


最後までしゃべりした子だったし、彼女からの嫌がらせもなかった気がした。



そんな彼女は教室の手洗い場で、“重曹”を見つけたのだ。


偶然かも知れないが、“邪神像の頭部”も手に入れている。



「他が普通なのに、アレだけ異質よね。絶対キーアイテムって気づくわ」


「うむ。我が輩もそう思う」



そして私とアバドゥンが見つめる中、彼女は廊下から這い寄って来たアシナガサマに重曹をかけ、アシナガサマを撤退させることに成功したのだった。

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