最初の冒険者パーティ
夏休みが始まり2日目の夜。
相変わらず、2階のアシナガサマを越えられず、冒険者の少年少女と教師たちは学校から出れずにいた。
“夢の共有”もされず、単独で向かう彼ら彼女らに攻略の気配はない。
だが、それはアバドゥンも想定の範囲内だった。
2日連続で同じ悪夢を見た者たちは、おそらく現実世界で集まり、雑談でダンジョンの話をするだろう。
そこで仲間意識が芽生えるならば夢が共有がされる。
これが“夢の共有”、パーティの形成だ。
眠る時間はズレるだろうが、夢につけば、共有した者たちで同じダンジョンへ飛ばされることになる。
そうすれば、仲良しグループで迷宮の攻略に乗り出す。
それからがこのダンジョンの本番だ。
「だが、それすらもお嬢さんのダンジョンにおいては罠なんだよなぁ。はてさて、どうなることやら」
アバドゥンはほくそ笑む。
普通のダンジョンであれば、大人数が参加すれば、その分攻略出来る可能性が上がる。
戦争は数。
“ランチェスターの法則”である。
だが、このダンジョンにおいては、大人数で参加すればする程、ダンジョンマスターのヘイト値が増していく。
彼女の、彼女を虐げていたクラスメイトへのヘイト値は、個人差はあれど0の者はいない。
ダンジョンキーパー “スルト”。
このダンジョンのラスボスの特殊性は、ヘイト値に合わせ、強化されることにある。
つまり、彼女に嫌がらせをした者たちが参加すればする程、パーティを組めば組む程、スルトの放つ熱量が増す仕様になっているのだ。
彼女がそれを意図して配置したのかは、定かではないが、“対多人数攻略モンスター(スルト)”は、使い方が限られる。
何故なら、彼女が嫌っていない相手であるならば脅威になり得ないからだ。
つまり、本当はラスボスには向いていない。
だが、今回のケースにおいては、クリティカルとなっている。
教師含めクラスメイト全員のパーティが組まれることになれば、おそらく歩道橋近くは、ラスボスから放たれる熱で焦土となる。
誰一人として、ゴールに辿り着くことが叶わない攻略不可能ダンジョンとなる可能性があるのだ。
それはそれで面白いかもしれないが、クリア出来ないのがわかっているゲームの鑑賞などアバドゥンは望んでいない。
ダンジョンマスターの合計ヘイト値が少ないパーティの早抜け、もしくはヘイト値が高い冒険者のゲームオーバーを望みながら、アバドゥンは3日目の攻略を待っていた。
○○○
「最近、変な夢を見るんだよ」と斎藤くんが言う。それに対して小林くんも「俺も俺も」と言う。
僕もそうだ。
サッカーの練習が終わった後、家に帰っている途中で、最近見る悪夢について話し合うことになった。
びっくりすることに斎藤くんも小林くんも僕と同じ夢を見ていた。
真っ赤な空。
霧の街。
崩れかけの教室。
暗い廊下の巨大なスライム。
僕ら3人ともが全く同じ場所で、同じシチュエーションでスライムに殺される夢を見ていたのだ。
「夢の中で最初にスライムにやられたところが赤くなっててさ、ヒリヒリするんだよね」と小林くんが右足を見せてくれた。
膝から足先までが真っ赤になっていた。
日焼けしたみたいになっている。
「サッカーの時はソックス履いてるから、日に焼けないじゃん。なのにコレって、絶対にスライムのせいだと思うんだよね」
ちなみに斎藤くんは背中全体、僕は右手に同じような赤みがある。
小林くんが言うように今日からヒリヒリしていたが、日焼けのせいだと思っていた。
「今日もあの夢見るんじゃないかって、気になって練習にならなかったぜ」
「いや、マジで夢見そう。やだなぁ」
「今日夢に見たら、親に相談しようかな」
そんなことを言いながら、僕らは帰路についた。
○○○
目が覚めると、また夢の教室にいた。
ただいつもと違うのは、斎藤くんと小林くんがいたことだ。
「起きたか、タカシ」
「斎藤くんも小林くんも来てたんだ」
「先に起きて話し合ったんだけど、どうもこれ、俺の夢でも小林の夢でもなさそうなんだよ」
3人で話し合ったところ、おそらく夜寝ると、この壊れた世界の教室にワープさせられ、この世界で死んだら、向こうの世界に戻されるんじゃないか、という結論になった。
ただ、この世界で死ぬと、いつもの世界の身体にも影響が出る。
僕たちの身体の赤いところがそうだ、となった。
最初は赤みだけだけだったが、今はヒリヒリしている。だんだん悪くなるんじゃないか、という意見が出た。
これ以上死なないようにしなくてはいけない。
そして、死ななくていいように、この夢を見なくてよくなる方法を考えなくてはいけない。
「どっかに出口があるんじゃないかな?」と2人に発言する。
「かも知れないね」
「学校の外に出れば良いんじゃねぇか?」
と2人が返す。
「ベランダから出れないかな?」と言ったが、小林くんから「ピンク色の龍に食べられて死ぬから、ショートカットは出来なかった」と返事が返ってきた。
「じゃあ、やっぱり階段を使わなきゃダメか」と斎藤くんが言う。
スライムに鉢合わせることになる。
深いため息が出た。
○○○
僕たちは、教室にあった壊れかけの箒や椅子を持って、廊下に出た。
先制攻撃で怯ませる作戦に出ることにした。
ゲームのスライムは、“ひのきの棒”でも倒せた。ならば、という斎藤くんのアイデアだ。
「いくぞ、3、2、1、今だ!」
階段の上から2階へ向けて、箒や椅子を投げ込んだ。
物が床に落ち、壊れる大きな音がしたが、その後しばらく音がしなかった。
「やった?」
「一気に駆け抜けるぜ」
斎藤くんがそう言った後、階段を駆け降りた。僕も小林くんも続く。
2階の踊り場を通過した。
明滅する蛍光灯に照らされて、壊れた椅子が見えた。足を取られ、転けないように注意し、僕らは1階への階段を踏み出そうとする。
が、その時、僕らの上からスライムが襲い掛かって来たのだった。
○○○
「いやぁ、惜しかったなぁ」
アバドゥンは上機嫌でダンジョンを見ていた。
「教室にあるものを武器にする、という発想までは良かったんだがねぇ。物理的に押し通ろうというのは、まだまだ低ランク冒険者の発想であるなぁ」
アシナガサマに溶かされ、骨一つ残っていない2階の踊り場を見つめる。
アシナガサマは最初に物が投げられた後、天井へと移動していた。
攻撃されると壁や天井へ移動し、連続して攻撃されるのを回避する習性がありそうだ。
流石、土着神がモデルなだけありますな、とアバドゥンが笑う。
「しかし、パーティで攻略が始まった以上、そのうち打開策が見つかるであろうなぁ。うむ。我が輩楽しみである」
結局、その日、彼ら以外にももう1組女の子のパーティが結成されていたが、アシナガサマ攻略には至らなかった。




