悪夢の終わり
「ご機嫌ではないか、魔王殿」
と、アバドゥンが話しかけてくる。
「まーねー」
アイナちゃんがゴールから出て行った後、静かになったダンジョンをふらふらしていた。
誰もいない。
モンスターも冒険者も。
時間制限も必要なくなったので、ずっと昼。
暇を持て余していたので、病院から自宅まで歩いている最中だ。
「ぶっ殺したかった奴らは全滅させれたもの。それに私の傷も回復した。目標達成よ」
自信満々にアバドゥンに答える。
「うむ。過程を問わない結果主義は、我が輩も同じであるが、うーむ」
なんだか渋い顔をしている。
まぁ、思い当たる節はある。
「タータロウス......さんの介入?」
「うむ」
アバドゥンが唸り続ける理由は分かっていた。
ほぼ攻略出来ないであろうダンジョンを、まさか脳筋プレイで攻略されるとは思わなかった。
私も思っているのだから、アバドゥンは尚のことだろう。
「最後の最後、オタクくんたちがすごかったからねぇ。納得いかないって感じなの?」
アバドゥンに訊ねる。
「いや。そうではないのだ。そっちは納得がいっておる」
「......へぇ!」
アバドゥンが言うには、そっちの敗北は必然なのだそうだ。
“いじめられっ子ダンジョン”は、命名と特性を与えた時点で、私に利するよう『いじめられっ子が持てる力を最大限に発揮出来る』ようになっていた。
いじめられっ子は魔王サイドだけではなかった、というわけだ。
「なるほど。オタクくんたちもダンジョンのパワーをもらってた、のね」
「その通りだ、魔王殿。それを勇者側で使われた、となるとだな」
「普通に3倍の戦力ね。無茶だわ」
こっちは1人、あっちは3人。
納得である。
「うむ。タータロウスの奴が力を貸しておる故、魔王殿と条件は同じ。この時点で差があったのだが、更にのぅ」
「更に?」
「魔王殿がいじめられっ子“Lv1”とすると、あの勇者パーティは3人とも“Lv3”......いや、1人は4であるな。つまり、10倍の差があるのだ」
私が1学期間のいじめの経験値しかないのに対し、向こうは1年以上のいじめられっ子の経験値。
「......ムーちゃんがワンパンって、そう言うカラクリだったのね」
「相手が悪かったのだ」
納得がいく。
やっぱり勇者は強かったのだ。
○○○
「じゃあ、アバドゥンは何が納得いってないの?」
「......我が輩の庇護下の者を救ったのが、タータロウスだと言う事実が、であるな。いや、助けられたことには感謝であるのだが......とても大きな貸しを、奴めに作ってしまった......ぬぅ」
「......」
「タータロウスの奴の調子に乗る姿が容易に想像出来るのが、腹立たしいのだ!彼奴は、調子に乗ると数年単位で話を蒸し返す!王たる節度に欠けておるのだ!」
お怒りモード?
というより悔しがりモードという感じだ。
「アバドゥン、どうやったら見返せるの?」
「う、うむ?魔王殿?ダンジョンマスターに対して忌避の気持ちなどはないのか?」
心配そうに聞いてくるアバドゥン。
今回、私はダンジョンマスターをしていたことで殺されかけた。
だが、まぁ、いじめなんていうのも、緩やかな殺人だ。
そう考えれば、反撃の方法があるだけマシである。
忌避なんてないし。
寧ろ、感謝すらしている。
だからこう答える。
「ないよ。それにもう、破壊神と魔王でしょ?アバドゥンが悔しいなら、見返すのを手伝うのが魔王の筋、じゃない?」
「......お嬢さんに声をかけて、正解だったようだのぅ」
そう言いながら、アバドゥンが私の頭を撫でる。
「まぁ、まずは休息であるぞ、魔王殿?病み上がりである。ゆっくり癒されよ。何、退屈はせん。この夢の中ならば、いくらでも話せる故。意識が戻るまで語ろうではないか」
「ありがとう、アバドゥン」
○○○
アイナちゃんがダンジョンをクリアして4日後、メイは意識を取り戻す。
だが、頭がボーっとするため、言葉は出ない。ただ、目を開け、周りをみるだけだ。
問いかけに反応しただけで歓喜され、側にいた母は流涙していた。
起き続けるのはキツかったので、また眠る。
しっかりと声を出したのは、次の日であった。
○○○
集中治療室から一般病床に変わった後は、アイナちゃんや小林くんがお見舞いに来てくれた。
小林くんはずっといたらしいのだが、意識を取り戻してからの面会は初めてだ。
2人しかいなかったので、勇者パーティ......もとい、オタクくんたちは?と聞くと、来院するのを躊躇っていると返ってきた。
何でも、私が世話をしていたムーちゃんを殴り飛ばしたのは、良くなかったのではないか、と気にしているらしいのだ。
気にしなくても良いのに。
「なんかね、殴り飛ばした後、そのまま宇宙まで行ったらしくてね。オリオン座の近くで燃える宇宙船や、タンホイザーゲートの向こう側のオーロラとかを見ちゃったんだって。早口で何言ってるのか、最後はよく分からなかったよ」
「オタクくんたちらしいね」
「それと、たまに夢にタータロウスさんが出るんだって。契約して異世界転生しようとか誘いを受け続けてて苦痛らしいよ」
「アイツら、下手したら乗りそうだもんな。大丈夫かな」
「大丈夫......だと思う。アバドゥンでもそんなパワーないし」
オタクくんたちの話題を皮切りに、色んな話をした。
まず、アバドゥンと会った姿見は、正光寺さんが回収したらしい。
タータロウスさんの鏡と合わせ鏡になっており、2人とも鏡からは外の世界に介入出来なくなったとのことだ。
まぁ、鏡に関してはたくさんあるので、そのうちの1枚が封印された、というだけに過ぎないのだが。
それからクラスのこと。
クラスの人たちは大なり小なり事件性を抱えている。
話している時に、示談や民事といった言葉が、小林くんから出た。
私が目を開けるまで、滞在できる時間を病院で過ごしていたので、私の両親のしゃべっていたことを聞いていたのだそうだ。
私への行為は傷害事件として『算文小事件』としてニュースになっており、主犯格の女子グループは、刑事事件として扱われているそうなのだ。
私は知らなかったが、斎藤くんが運営していた裏サイトがあり、彼も主犯格として含まれているらしいのだ。
いじめや暴行の指示者として扱われるようになるらしく、更に罪が重いらしい。
ざまぁみろ。
PTSDとなり、家から出れなくなった人や、パラノイアを発症したり、不眠症で入院した人もいるらしい。
やられて初めて、人の気持ちが分かったのだろう。高い授業料だったと、省みてもらいたいものだ。
後、来学期から担任が変わる、というか大塚先生は教師を辞めるらしい。
アイツには先生とか向いてないし、当然の結果と言えよう。
夢の中ではクラスの人を何人か殺めている。そんな奴が、教師なんてちゃんちゃらおかしい。
教頭への栄転の話もあったそうだが、ざまぁみろ、だ。
私をいじめて、反省しなかった奴らは、軒並みしっぺ返しを喰らい、恐怖に震えている。
夏休みの初めの日に立てた誓いの通りになった。
有言実行。
ふんす、と胸を張るのだった。
だいたいの話をして、一呼吸入れる。
そして
「2学期からは、私、おばあちゃんちの近くの小学校に行くことになったんだ」
○○○
そう言うと2人は少し寂しそうな顔をするが
「まぁ、仕方ないよね」
「メールは頂戴ね?」
意外と淡白な返答だった。
もっと悲しむかな、と思ったのだが。
まぁ、私の意見では変えられないし、全国ニュースなのだから、マスコミや何かも気になる。
妥当。
「だから、オタクくんたちには、私がいなくなる前に一度はお見舞いに来いって伝えといて」
退院日が転校日になるから、なるはやね、と伝えた。
出来れば、カステラをお土産にして欲しいと言ったが、それはダメと看護師さんから言われてしょんぼりした。
1学期から始まった私へのいじめは、やっと幕を閉じたのだ。




