タノシイユメヲミレルトイイワネ
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私はテーブルを見渡し、全員が手にグラスを持っていることを確認する。
「それじゃあ、おめでとう!乾杯!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」
チーンと良い音を立てたガラスのグラスを傾けて、お酒を流し込んだ。
○○○
退院と同時に、私はおばあちゃんの家へと引っ越した。
そのまま転入生として、2学期、3学期を新しい学校で過ごし、そのままおばあちゃんちの近くの校区の中学校へ入学した。
夏休みや春休みに両親のいる都会へ出てくることがあり、その際にアイナちゃん、小林くん、オタクくんたちと会った。
ご飯を食べに行ったり、カラオケに行ったりと楽しんだ。
その後も連絡の取り合いは続いており、節目節目で集まり、近況を報告したり、ご飯を食べたりしていた。
大学進学くらいからだんだんと集まるのが難しくなって、最近では年に1回くらいしか集まれなくなったが、機会があれば依然みんなで集まっていた。
今日は、アイナちゃんに呼ばれて集まった。
呼んでくれたアイナちゃんには、さっき会ったがまだ合流できていない。
既にテーブルに着いているみんなで、乾杯を始めている。
「前の集まり何だっけ?アイナちゃんがお医者さんになったお祝いの時だっけ?」
「それは2年前ですな。去年、小林氏が試験に受かって警部補になった時に集まってますぞ。......一ノ宮氏、酔ってますな?」
「酔うに決まってんじゃん!おめでたい日なんだから、お酒くらい呑むわよ!あっ、ハイボールのお代わり下さい」
良くないのは分かっているが、まぁ、節度を弁えている分には大丈夫だ。
「あれ?一ノ宮さん、車じゃなかった?」
ぐびぐび呑んでいる私が気になったのか、竹井くんがボソリとこぼす。
「......酒気帯び運転したら、知り合いでも関係なく逮捕すっからな」
「手帳不携帯でしょうに。大丈夫、今日近くのホテルに泊まる予定だから」
「ならいいが」
竹井くんの発言に小林くんが反応して、細い目で私を見てくる。
そんなに疑ってかかっていると、変な職業病になるぞ。
「しかし、飲み過ぎでは?今のうちから署に連絡しときますぞ?」
「前後不覚とかならないから!救急車とか要らないわ!というか、もう2度と乗りたくないわ」
「まぁ、乗らないに越したことはありませんからなぁ」
「じゃあ、俺んところの車乗る?」
「連行じゃん。やだよ」
○○○
あれからだいぶ経ち、私たちは大人になった。
人生の汚点と言える小学校6年生を省み、私たちはそれぞれの道を決め、歩んだ。
アイナちゃんは医者、所謂女医さんだ。
死にかけて、血塗れの私に何も出来なかったことや、魔法の類いでない人の命の救い方を考えた結果だそうだ。
文系のアイナちゃんが途中で理転して、頑張りに頑張りを重ね、医者になった。
小林くんは、警察官になった。
法学部を出た後、色々やってキャリア組になると言っていた。
現実的に悪を裁く、法を取り締まるという彼のモットーが、彼の道を決めた形だ。
竹井くんは、自衛官になった。
防衛大学を卒業し、陸上自衛隊へ。すでに災害救助を数回こなし、本当のヒーローになっている。
流石勇者。
秋くんもアイナちゃんと同じく医者になった。
大学病院の救急科の若手として、1日何台もの救急車を対応している。
彼も本当のヒーローになっている。
流石勇者。
澤本くんは、消防士になった。
前あった時に見せてもらった手はロープタコでゴツゴツになっていた。
何度も火災現場に赴き、火をもろともせず、人を助け出したこともあるらしい。
流石勇者。
知り合いの大半が公務員になり、安定した生活を送っている。
勇者パーティに限れば、自衛隊、医者、消防士とヒーローチームだ。
......勇者といえば
「あ、そういえば、竹井くん、澤本くん。この間アバドゥンに聞いたんだけど、3人ともタータロウスに呼び出されて、またあのロボ使って異世界のダンジョンぶっ壊したんでしょ?ああいう力業、品がないわよ」
「呼び出しの条件は『人類存亡の危機』に限定してるんだから、別に良いだろ」
「一ノ宮氏は、たまに人類側の方の視点に立たないと。そのうち小生ら以外の勇者に手痛い目に遭いますぞ?」
「難攻不落の深淵ダンジョンだから大丈夫よ。罰当たりな奴らを懲らしめるダンジョンなんだから、そもそもに勇者なんて来ないし、心配ないわ」
「......あー、まーたオカルト会話か。僕は知らない。聞いてない」
「小林氏も何とか言って欲しいですぞ」
そう。
私はまだダンジョンマスター、敏腕魔王として別世界で名を轟かせている。
眠っている間だけ、異世界に行き、アバドゥンとダンジョン作成をしている。
その異世界では、アバドゥンやケケトさん以外にも破壊神がおり、それぞれがダンジョンを運営している。
中には、やり過ぎなダンジョンマスターがおり、スタンピートで異世界の人類史を滅却しようとしたりする。
そう言う時に、異世界勇者として、彼らのダンジョンバスターが召喚されたりするのだ。
いじめられっ子勇者だったダンジョンバスターが、経験値を得てガチ勇者になり、本当に手が出せないレベルになっている。
人工単一素粒子装甲って何だよ。
傷一つつかねぇぞ。
私とアバドゥンとで、タータロウスのドヤ顔に悔しがるのも2度や3度で無くなっている。
「まぁ、昼は民俗学の講師、夜は大魔王だから」
「威張っていうことかよ」
「全く」
「自重しろ、ですぞ」
○○○
そんなこんなをしていたら、司会進行の方がアナウンスをしてくれた。
場内の明かりが消え、スポットライトが入り口の扉を照らす。
そこから、タキシードを着た秋くんとウエディングドレスのアイナちゃんが入場してきた。
小中高と秋くんとアイナちゃんはずっと一緒の学校だったらしい。
また、文系だったアイナちゃんが医学部を目指すにあたり、浪人中も含めて勉強を教えてあげていたらしい。
羨ましさで嫉妬で熱量をあげるスルトを生み出しかねない。
「おめでとう」
「おめでとうー!爆発しろ」
「おめでとうでござる。帰ったらパインサラダを作ってもらうが良いでござる」
「おめでとう。お礼に素敵な夢を見せてあげたくなるわー」
「「ありがとう。普通に祝え」」
○○○
披露宴も終わり、小林くん、竹井くん、秋くんと、秋ちゃんになったアイナちゃん、澤本くんと分かれた。
次に会うのはいつになるだろうか。
また誰かの結婚式だろうか。
そんな楽しくも、自分じゃなかった時の悲しみを同時に抱きながらホテルへの帰路についていた。
酔っ払った私に2人の男性が話かけてくる。
お茶はしない。
お酒はこれ以上いらない。
......しつこい。
「チッ。調子に乗るなよ、酔っ払いブスが。さっさと帰って寝てろ」
そう捨て台詞を吐き、私のハイヒールの近くに唾を吐き立ち去ろうとした。
久しぶりにイラッときた。
せっかく親友の結婚式でいい気分だったのに台無しだ。
だから、久しぶりに使ってみようと思ったのだ。
懐かしい“あの呪文”を。
「そうね。あなたたちこそ、タノシイユメヲミレルトイイワネ」
これにて“いじめられっ子ダンジョン”は完結です。
読んでいただきありがとうございました。




